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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
残された者
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居場所

俺は唐突に殴られた。

無様に尻餅を突く。理由が解っているからこそ、俺はただ彼を見上げるだけだ。ここで俺が赦しを乞う資格も赦しを乞う気もなかった。

お前には俺を殴る権利がある。だから、殴れ。

そんなことしか俺は考えていなかった。


最初から、謝る気はなかったとも言えようか……。




館を選んだのはあの人であり、俺ではない。まぁ、あの人に出会わなくとも、俺の目の前に生きれる場所があれば、俺は迷わず館へ歩いた。

馬鹿みたいに生に貪欲にしがみついていたから。

死にたいけど生きたい。

生きたいけど死にたい。

体の深くからじわじわと蝕まれていく感覚。

あいつの恨みが本当は気持ちよかった。雪に埋もれていたけれど、止まらない俺の血は温かくて、キラキラと降るそれを快適に見れたし。

だけど、だからこそ、知ってしまったこの景色をもっと見たいが為に生きたいと思った。

毎年毎年飽き飽きするぐらい降るそれが俺を生きたいと思わせるとは、

こんなにも小さな一粒一粒が世界で一番美しいんじゃないかと思うとは、


全て予想外なことだった。


節介、父に邪魔されないよう名も知らぬ遠くにきて、

山奥でこのまま土に還るのかななんて思いながら地面に寝転がって、

脇腹に痛みがある気がしたら、俺があいつを刺したのと同じ場所から血が滲んできて、

よく分かんないけど傷口がないのに血と激痛が止まらないのは気持ち悪くて目を逸らして、

空を見た。

雪を見た。

凄く、もの凄く、神様の宝物みたいに綺麗だった。

ぼんやり視界が霞んできたら、


もうちょっと…見たい。


なんて、そんな簡単でどうでもいい理由が俺を生きさせた。

両手は空しか掴まないのに、


『どうしたの?』


俺の手を握り、温かいその胸に俺を収めた。

『血……』

『た……けて…』

『怪我してるの!?』

『………………助けて』

それ以降の記憶はあやふやだ。

あの人は俺を看病してくれた。

そして、助かった。

そして、あの人と旅をした。

そして、あの人は俺を館へ連れていった。



そして、生きるために体を売った。




「何で………」

「?」

「何で答えないんだよ!」

「答え…る?」

中を切ったようで、喋る度に血の味が口内に広がる。

「そうだろ!」

何がそうだろ…なんだろ。

だけど……―

「おこ…らないで」

「怒ってないよ!どうして、そんな大事なこと言ってくれなかったんだって訊いてるんだよ!」

そんなに大きな声で怒鳴らないで。

「怒らないで、怒らないで…怒らないでよ、(あおい)

「怒ってないって言ってるだろ!」

嘘だ。嘘だ嘘だ…―

「嘘だ!!!!!」

「ちょっ…どうしたんだよ」

「葵は怒ってる!怒ってるよ!謝るから!ごめん、ごめん!!」

謝るから怒らないで。


イライラする。

苦しい。

葵、怒らないで。


居場所を奪わないで…………。


洸祈(こうき)!どこ行くんだよ!」


――――――――洸祈っ!!!!

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