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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
短編4
128/400

犬猿の友

厚着して日向ぼっこ。

「ふあぁぁあ」

「小春日和ですね」

太陽光の暖かさ。

膝には程好い熱源の琉雨(るう)

「最高だ」

ある2点を除けばだが…―



ベランダに椅子を出した洸祈(こうき)は膝に琉雨を乗せ、その上から膝掛けを掛けて日向ぼっこをしていた。


午後2時。

最も暖かくなる時間だ。

洸祈はしきりに欠伸を噛み殺していた。

「なぁ、琉雨。今日の―」

夕飯何?と訊きかけて琉雨の安らかな寝息に口をつぐむ。

「昨日は無理させたもんな」

前髪を軽く鋤くと琉雨は旦那様ぁと甘えた声を出して洸祈の膝の上で丸くなった。

昨夜は仕事で、空から目標の用心をしてもらっていた。人と体感温度が違う琉雨は春先の気温を寒いとは感じない。

だけど―

「寂しかったのか?」


『旦那様、依頼人さん何にもなくて良かったですっ。お仕事無事成功ですね』

そう笑う彼女の頬にはくっきりと涙の跡があった。

どうした?と訊くと琉雨は首を傾げただけだった。


「悲しかったのか?」

分からない。


ふと、後悔してしまう。

琉雨に過去の罪を勝手に背負わせてしまった。

泣きながら抱き締めてくれたのは琉雨。つられて泣き出してしまった俺の頭を撫でてくれたのは琉雨。琉雨は全てを優しく包み込んでくれた。突然見知った人間の残酷な行為を見ながら、それに何も言わずにただ涙を流してくれる。

琉雨、俺を怒って貶していいんだよ?

琉雨、お前が俺の代わりになることだけはしてほしくないんだ。

琉雨、もう泣くなよ。

俺なんかの為に瞼を腫らしちゃいけないよ。

琉雨、泣かないで…―


「琉雨…」

「洸祈?琉雨と日向ぼっこ?」

(あおい)だ。

サンダルを引っ掛けた葵はパジャマ姿のままベランダに出てきた。

「まぁな」

「昨日は遅かったね」

「まぁな」

「眠そうだね」

「まぁな」

「もしかして…」

そのもしかしてだよ。

「昨夜はちぃが随分だったな」


ちぃが珍しく意気揚々と店番してくれだぞ。それも、「ちょっと…」で部屋で寝込んだお前に代わって。


2点の内の1つ。

夜中に店に帰ってきた洸祈達はくたくたになりながら交代で軽くシャワーを浴び、琉雨と二人で寝ようとしていた時だった。

…―ふぁ…っぅ…―…

誰かの喘ぎ。

『何か聞こえたような…』

琉雨の一言。

『今日は(くれ)と一緒に寝たらどうだ?呉が琉雨姉ちゃんと寝たいって言ってたぞ?』

『起こしちゃったら悪いです』

『そっとベッドに入れば分からないって』

『旦那様は琉雨と寝るの厭ですか?』

んなわけあるか!!!

『俺、寝相悪いから今日はかなり酷いかも。琉雨を傷付けたくないんだ。お願いだ』

『分かりました。でも旦那様、琉雨は護られ続けるつもりはないですからね』

『うん…お休み』

『お休みです』

とまぁ別れて…、壁を隔てた隣。

千里(せんり)の部屋。

「葵の部屋でこと(・・)を起こすなとは言った」

両隣は呉と琉雨の部屋だから。

「もっと静かにできないか?」

部屋の造りが千里の部屋と真逆なため、壁を隔ててベッドは隣だ。

弟の荒い息遣いとベッドの軋む音に眠りを妨げられ、やむを得ず、リビングの硬いソファーに移動したが、フラッシュバックと寝心地の悪さに…。

「お陰で寝不足だ」

「酷いなぁ。あおの口に布当ててもそそるけど、聞きたいじゃん。ねー、あお」

窓を開け、葵をリビングに引き摺り入れたのは千里。

「千里!」

「ちぃ!」

「どこ触って…っ!?」

歪む葵の表情。

「店番はどうしたんだよ!」

洸祈は交代制の約束を破る千里を叱るが、彼は不気味なくらいにっこにっこと笑顔を振り撒くと、パジャマの下から葵の体をまさぐる。

「せんっ」

胸元へと上がる手に葵が身を捩った。洸祈はまたかと溜め息を吐いて、千里のみを睨む。しかし、洸祈の眼光に怯むことなく千里は軽快に笑った。

「洸、今日は店じまいだよ」

「店じまい?」

千里が勝ち誇ったように笑う時はよくないことしか起こらない。

「無精髭のヤクザみたいなお客さん。洸に、隠れてないで出てこいだって」

嗚呼、やっぱり。





「洸祈、もう逃がさんからな」

「……叔父さん」

2点の2つ目のようだ。

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