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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
未完成品
115/400

未完成品(4.5)

洸祈(こうき)は前方の男の胯間を容赦なく蹴り上げた。



「ぐぇっ」だか「ぐぶっ」だかなんでもよいが、男は痛みに失神するまでのダメージを急所に食らった。その姿に満足気な笑みを浮かべた洸祈はスニーカーの爪先を男のスーツで拭うと、その男を個室に放り込んで外側からの鍵を掛ける。

「やっぱ痴漢撃退にはこれだな。あ、でも“正面か背後に立って位置を特定して蹴る”が女の人には難しいか」

過去に受けたストーカー被害の依頼を思い出して呟く。


ストーカーは洸祈が少しばかり痛い目に合わせたらすぐに泣きだした。

動機はストーカーが握り締めていた二次元美少女フィギャアに依頼人が似ていたから。以上。

洸祈が二次元話に付き合い、「三次元に二次元を重ねたってその美少女さくらちゃんのイメージが崩れるだけだぞ」と言えば、彼は自らずっこけてできた頬に擦り傷の顔をこくこくと上下した。そのことを依頼人に報告すれば、その美少女さくらちゃんが出るアニメの美少年たくまくんの熱狂的大ファンで、同じアニメのファンとしてストーカーの件は警察には言わないとし、ストーカー男と和解?したようだ。その後も、髭を剃ればそれなりの顔のストーカーと依頼人は二次元話をするために時々会うとか。

いい出会いに巡り会えたと二人は洸祈に笑顔を見せた。


痴漢撃退からストーカーを思い出し、結局“撃退”とは無関係のオチに洸祈はそれでも微笑ましかったと心を温かくした。

政府と遊杏(ゆあん)琉雨(るう)。これらから核心的に導き出されるのは洸祈に熱心な(れん)似の研究者のいる政府管理下の研究所。(せい)まで連れていこうとする政府だから、目的は洸祈。遊杏の行動はまるで政府側のようだが、彼女が蓮の意志に反することはしないはずだ。

やってきた研究所の出入口で訪問理由を訪ねる警備員を無視したため、当然、武力行使にあった。洸祈は若い兄ちゃんを張り倒し、茶を啜る年寄りのじっちゃんに頭を下げて研究棟の大きなエントランスホールらしき場に入った。

すぐさま煩く鳴り響く警報に顔をしかめた洸祈の前に前回見た蓮似の研究者の部下が現れた。笹原(ささはら)…だっけ。

警報に耳が痛い上に更に騒がしく何かを言うので…多分、我々は攻撃しないとかどうとかだった気もしないが、洸祈は問答無用で男の腕を掴み、膝で枝を折る要領でその無駄な筋肉のない棒を折った。

上がる悲鳴は警報に溶け込む。あれはいいコーラスだった。

暫くして単調なそれに飽きたので、男の銃口を天井のスピーカーに向けて弾が尽きるまで撃った。最後の一発で警報が止まると、聞こえるのは誰かさんの悲鳴と遠くでまだ鳴る警報のみ。入口から入り、左右と正面のまた別の棟に続く廊下にはスーツ姿の政府の武器集団。洸祈の足下の男は案外偉い奴だったのだろう。政府の駄犬は銃を一斉に洸祈に向けながら息を潜めていた。洸祈は政府の-それも怯んでいる彼ら-を見詰め、憂さ晴らしがてらと後に楽に研究所内を行動ができると、笑みを浮かべていた。


つまり、何をしたって……誰も怒らない。"自分の為に”と言えば、皆許してくれる。


さて、どこまでが計算ずくなのかは分からないが、腰に挿していた愛刀を手に掛けた洸祈の前で、ホールと廊下、入口を隔てるように厚い壁のシャッターが下り始めた。出口を失い、兵糧攻めかと思えば、排気口から変な音がしている時には遅く、急に襲ってきた眠気に洸祈は倒れる。そう言えばここは研究所かと妙に納得したのは薄れていく意識の中でだった。

そして、目を覚ませば今にも洸祈に拘束を施そうとする男複数。第二ラウンド開始と暴れだした洸祈に、片腕をぷらぷらさせた男が拳を挙げようとする男達に停止の指示を飛ばした。次に洸祈に茶を出すよう指示。怪しむ洸祈を他所に片腕骨折男は残ったもう片手の携帯を困り顔で見るだけだ。洸祈は小部屋のベッドに拘束なしで腰掛け、目の前には羊羹と湯飲みに入る日本茶。湯気が黙々と出ているのは暴れられた男達からの嫌がらせにも感じる。指で湯飲みの側面に触れれば熱い。これでは持てやしない。

やらしい奴らだなぁ。



と言うわけで、洸祈は痴漢のやらしいとはまた違ったやらしい奴らを“やらしい”繋がりで撃退に繰り出した。


最後の男を部屋にしまった洸祈は周囲をゆっくりと見回す。部屋から出て正面は壁。左右に長い廊下。前の窓もない部屋には蛍光灯が光っていたが、ここは小明が付いていなかった。お陰で視界は悪いが、隠密行動には最適だ。見付かれば1対多数になるのは免れない。まぁ、それはそれでうっかりやっちゃったと色々破壊できるから好きだが、やり過ぎたら琉雨や遊杏に何があるか分からない。琉雨と遊杏を誰にも見付からずに助け出すことが優先だ。いや、遊杏は分からない。政府に協力するような素振りを見せた遊杏の目的が分からない。もしかしたら、洸祈の苦労は邪魔になるかもしれない。

洸祈は左右を見、右利きだから左と理由のない法則を作る。そして、ドアの横に置かれていた隠しとくべき洸祈の刀が入った布袋から武器を取りだすと、彼は左へと進みだした。

左腰に隠すように刀を吊って……。



「今日は星が綺麗だ」


星を見上げた彼の瞳は緋色に輝いていた。

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