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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
未完成品
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未完成品(2)

「愛しているというのは、本当に嫌な言葉だね」

彼はそう言って過去を語りだした。

彼の腕の中で浅い呼吸を繰り返す(れん)を愛しそうに見詰めて…。


少年の屈んで啜り泣く後ろ姿が見えた気がした。





近親相姦。

僕達の関係を敢えて述べるなら、こんな見た目も気持ち悪い四字熟語がぴったりと当てはまった。

僕と姉。

いや、違う。

僕と愛していた人。

僕達の両親は本当に酷い人達だった。酒を飲み、煙草を吸い…。そんなに体に悪いことして死にたいなら二人で死ねばいい。なんて、今の僕なら言えるけど、小さい僕には虐待になんとも言えずに蹲っていた。


怖い…怖いよ……お姉ちゃん。


私が傍にいるから。守るから。


彼女は僕を守ってくれた。ランドセルを背負って帰った僕に待っているのは憂さ晴らしと言う名の虐待。そこに彼女はセーラーのリボンを揺らして割り込む。


やめてよ!父さん!


昨夜から続けて飲んだお酒で頭の働いていない父は彼女をただ打つ。


お姉ちゃん!やだよ!僕のためにいいよ!


私が守るから。だって、家族でしょ。


あぁ、そうだ。彼女は家族だ。僕の姉だ。

僕を小学校まで迎えに来てくれて、一緒に寄り道をして帰る。


あっちの道通ってみよっか。


僕、道覚えられない。帰れなくなっちゃうよ。


大丈夫、私が覚えてるから。


ゆっくり、ゆっくり、沈む夕日を見ながら、途中彼女がくれた飴を舐めながら。すこしでも遅く。どうせ、いつ帰ってこようが両親は興味ないのだから。


今までどこに行ってた!!!!


関係ないじゃん!


っ!親に向かってその口の聞き方か!!!


父が彼女の髪を掴んだ。あれは彼女が毎日毎日時間をかけて手入れをする長い黒髪。僕の大好きな黒髪。


お姉ちゃん!


上に行ってて…。


彼女の伸ばした髪が扉の向こうに消えた。その時、玄関先で立ち尽くしていた僕の後ろでドアが開いた。


あら、何してんの?


酒臭い。もとからこの家は酒と煙草の匂いが染み付いているようなものだが、更にきつい酒の匂い発信源。母だった。近づくマニキュアの塗られた爪から逃げるように僕は二階への階段を駆け上がった。なんか意味不明な言葉を叫んでいるようだが、僕は強く両手を耳に押し付けて部屋に入った。

僕は無意識の内に棚の奥にしまっていた貯金箱を開けていた。そして、中身をポケットに全部突っ込んだ。零れてくる涙を必死に拭って、次は隣の姉の部屋に行く。彼女が前に見せてくれた、大切なものが入っているリュックを背負う。そして、僕は階段を下りた。


バンッ…―


リビングの彼女が消えた扉を開けようとして、何かがすりガラスの扉にぶつかった。ぼんやりと浮かぶ黒い影。


そして、赤い血。


赤いそれがリビング内の照明に照らされて僕の目に焼きついた。ずるずると滑る黒い影と引き伸ばされる赤。

僕は影が不可抗力によって消えていくのを見て、悲鳴と嘲笑の響き渡る部屋に駆け込んだ。


お姉ちゃん!!!!!


だめ…。


口の端が切れてる。それに、頭から血が……。

僕は彼女の手を掴んでいた。驚愕に振り払おうとする手を力いっぱい握って。靴を引っ掛けさせて僕達は飛び出す。振り返ることも叫ぶこともなにもせず、ただひたすら走る。


ちょっとっ…待って!


お姉ちゃん、行こう!僕が守るから!



僕がたった一人の家族を守るから。








「蓮は僕と姉との子…」


紫水(しすい)は眼鏡の奥の瞳を細めて言った。





「蓮は僕と滄架(そうか)との子供だよ」

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