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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
生きる代償
103/400

生きる代償(4.5)

(れん)達が過去に向かった後、遊杏(ゆあん)はすぐに動いた。

蛇口からコップに注いだ水を一口飲んだ彼女は直ぐに残った全員に指示を飛ばした。

「うーちゃんは結界の補助」

「うん」

琉雨(るう)が頷く。

「せーちゃんはレイちゃんの護衛」

「分かったよ」

千里(せんり)が頷く。

「レイちゃんは準備」

「はい」

レイラが頷く。

「ボクちゃんは結界だね」

遊杏は床にぺたりとお尻をついた。琉雨が寄り添うように後ろに座る。

「うーちゃんの魔力は本当に気持ちいね」

遊杏を中心にゆっくりと築かれる魔法陣。

これからすることがどれほど辛いことかは分かっている。大きいこの屋敷に結界を張り、更に軍人ほどではないが、政府の魔法使いを防げるだけの強度がなくてはならない。

「旦那様のだから」

琉雨は遊杏を優しく抱き締めた。

「温かいや」

「うん」

波色の輝き。神秘的な光が部屋を満たす。


「座標を検索します」


機械的な声が遊杏から流れる。


「検索終了。陣形成終了」


遊杏の紺と琉雨の緋。


「結界を発動します」



「綺麗な空気だね」

千里は深呼吸を繰り返した。

「神社とかとおんなじ、聖域みたいな状態」

遊杏は琉雨に体を預けて言う。

「時々、にーがリラックスに使うんだよ」

うーちゃん。と琉雨に体を埋めた遊杏。琉雨は優しくその頭を撫でた。

「お疲れ、杏ちゃん」

「うん」





カーン…―


鐘の音。

「杏ちゃん、杏ちゃん」

「う?」

琉雨は腕の中の邸宅の主を呼んだ。かなり魔力を消費したらしく顔色が悪いが、ここの管理は遊杏が一任されているのだ。それに、下手をして結界を壊したくない。

彼女は琉雨の胸に顔を押し付けると体を起こし、目をしばたかせてピクッと反応して動きを止めた。

「どうしたの?」


紫水(しすい)


「それって…」

「政府」

静まり返ったリビングをヒタヒタと進んだ遊杏はインターホンの受話器を握った。

(せい)はもう帰ったよ」

第一声。

 ―ならば何故、結界を?―

「にーを苦しめる裏切り者にボクチャン達の土地は踏ませたくないから」

冷めた声音。

 ―ふふふ。なら、その蓮に代わってくれないかい?―

「にーはいないよ」

 ―紫水様、目標はいません。…そうか一足遅かったな。流石、逃げの蓮だ―

探索魔法を使ったのだろう。

「帰ってよ」

遊杏は冷静に言う。彼女の後ろで3人は息を呑んでいた。

そして、

 ―では、崇弥(たかや)洸祈を頂きたい―


「くぅちゃんは渡さない!」

「旦那様を…っ」

不安に駆られた琉雨は千里に抱き付いた。ただでさえ、過去に行けば洸祈が帰ってくるという保証もないというのに洸祈には敵が多い。それに、琉雨には彼を政府から護る力がないのだ。

「落ち着いて、琉雨ちゃん。洸は僕らが守るんでしょ?」

千里はどうにか上辺だけで冷静だ。琉雨はそんな彼をじっと見詰めると両足で立つ。

「はい」

あとは遊杏に任せるしかない。



 ―崇弥洸祈は我々と契約している。全ての依頼を受けるとね―

「依頼じゃない」

遊杏の冷静さが少しづつ欠けてくる。

 ―依頼だよ。政府管理下中央研究棟に今すぐ来いって言うね。クロスの名の下に―

「ふざけないでよ!!くぅちゃんは渡さない!あなた達もこの土地は踏ませない」

くすり。

受話器越しの紫水はあくまで冷静だ。

「帰って!」

 ―君は僕達を入れるさ。どんなに美しい花もいつか枯れる―

その理由は簡単。

「だまって!」

 ―でも、僕は人並みに咲かせる方法を知ってる―

機械人形が唯一従う主のことだから。


「煩い!!!!紫水!!!!!!」


  蓮の花も枯れどきじゃないか?



感情を露にして叫び、それでも何も言わずに見守っていた琉雨は受話器を手から滑らせドアに歩みを進めた遊杏を呼んだ。その表情は淡々としていて何もない。

機械人形。

「杏ちゃん?」

「会って…文句言ってくる…」

ふらり。

「遊杏ちゃん、危ないよ!!」

千里が遊杏を止めようとする。

「そうです。危ないです」

レイラも止めにはいる。

しかし、

「止めないで」

紺が細くなった。見えるのは怒り。

千里もレイラも反射的に一歩退く。そして、開いた道を彼女は一歩一歩足を進めた。


「ううん、止めるよ。杏ちゃん、どうしたの?」


そんな彼女の前に一人。琉雨だ。

「どうもしないよ。お話してくるの。危なくないよ」

「嘘ついてる。杏ちゃん、嘘下手だよ。どうしたの?」

決して互いに譲ろうとしない。そこで先に手を出したのは遊杏だった。一瞬で構成された魔法陣が部屋全体に敷き詰められた。

「―」

「?」


緊縛調律。


どさっ。

最初、レイラに異変が起きた。

「レイラ…さん!?」

千里がレイラを抱き支える。

「っ!?魔力が」

しかし、その千里も力の抜けた体で、それでもどうにか立っている状態だ。

魔力が消えている。

彼の見開いた目は遊杏に向けられた。

「遊杏…ちゃん…これは!!?」

「邪魔しないで」


……………………………………。


「いや、やだ…あ、ああ…ああ…や…あ…いや…あ…」

そこに上がる悲鳴。振り子時計が鐘を打った時、少女が倒れた。

遊杏はその声に後ろを向いた。琉雨がその場に踞っている。

緊縛調律は発動者と対象者の魔力を魔力の少ない者に合わせて消し去る魔法。ただそれだけだ。魔力が力が消えるだけではここまで動揺しない。しかし、今の琉雨は明らかに変だ。

「やめて…あ…殺さないで…あ…だん…な…さま…いや…あ…いや…いやぁぁあ!!!!!!」

「うーちゃん!?なんで!?」

 ―解―

受話器から盛れる紫水の声。緊縛調律が解かれる。

遊杏は崩れる琉雨を抱き締めた。

「うーちゃん!」

「琉雨ちゃん!!」

意識を失ったレイラをソファーに寝かした千里は琉雨に駆け寄る。彼女はぐったりして呼吸が浅いが、気絶したようだ。そんなつもりじゃなかったのにと遊杏は狼狽える。ただ、反対する琉雨を傷つけたくなかった。

「一体何が―」

残り少ない魔力で立つ千里はふらふらだ。

と…。

 ―では、皆…お休み―

紫水の声。

「せーちゃん!」

遊杏の横で千里が倒れた。もう分けが分からない。

「何を!?」

受話器に飛び付いた遊杏。

 ―何言ってるんだい?寝かせたのさ。ほら、これで誰も邪魔しない。交渉だろう?―



遊杏お嬢様。



そして、彼の声が受話器を通してリビングに不気味に響いた。

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