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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
生きる代償
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生きる代償(4)

(ろう)、おいで」


あ、撫でてくれるんだ。

でも怒っているだろう?


僕は殺そうとした。


「でも殺してない」


殺せなかっただけだよ。


「つまり、殺してない」


君がいなければ殺していた。君に会わなければ殺していた。


「ホントに?」


偶然だよ…。


「俺は偶然とは思わない」


確かに君はそっくりさんだけどさ…。


「『もう俺は忘れた』誰かの言葉だよ。狼、疲れてるね。おやすみ」






(せい)!!!!」

狼は叫んでいた。

意思とは関係なしに動くそれをどうにか客の首から離して…。

「狼!!?」

自らの名を忘れた青年は部屋に飛び込む。涙の溢れる紺を見付けて、彼は狼を抱き締めた。

「狼、清に救われたわね。三月(みつき)、こいつに金を返して表に捨て置いて。もう来んなって付けてね」

(えん)は付き人の三月に指示する。三月は頷くとそれを実行しようと咳き込む客を担いだ。そうして、一瞬でこの騒動は炎によって片付けられる。


紅く色づいた体は今までの清とはなんら変わらない。それは狼が一子供であり、清と同じ一男娼であることを示していた。


彼女は彼の腕に収まる狼を見下ろし、虚ろな紺の狼の頬を撫でた顔が微かに歪んだ。

「清が野生の勘だかで狼の様子を見に行かなきゃ…」

今頃…殺人犯になってたわね。


彼女は安堵の溜め息を吐く。





「狼、狼!狼!!」

青年の腕の中で狼は身を捩った。

「くる…しっ…」

「どうしたの?」

熱い吐息の狼は震える指を動かしては力尽きる。

「あつ…い…」

「熱いって…熱あるの?」

彼が狼の額に触れても熱くない。

「清、狼は下町で流行りの厄介なもの飲まされたの。風呂に入れとけば一人で処理するわ」

「そうなの?」

体を支えようとする彼。しかし、狼はその手を弱々しく拒むようにぴくりと体を震わせる。

「はっ…う…」

「狼?」

「感度良好。早く風呂に」

すっかりいつもの調子に戻った炎は、二人を置いて欠伸一つで踵を返した。






「狼、お風呂だよ」

「…む…り」

俺も男だ。

狼の現在の状態は見て分かる。

「あの…俺が…」

びくっ。

「…ごめん」

だよね。そっくりさんとはいえ、大切にしてる奴にやってもらうなんて…。俺だって本物じゃなきゃ厭だ。本物のぬくもりじゃなきゃ安心できない。だよね…陽季(はるき)


かくっ。


しかし、震えた狼は俺に凭れた。

「力…入んない……や。清には…言わないでよ。…僕は…お兄さんみたいな…だから―」

だから、秘密にする?

「分かったよ。優しくする…ね」



正直、何にも覚えていないのにテクがある自分がなんか厭だ。いや、狼が敏感なだけかもしれない。

「っく…はうっ…」

「大丈夫?」

大丈夫じゃない。そんなの分かってる。

気持ちいんでしょ?気持ちくて、気持ちいと感じる自らに焦っている。

「っ!!!!!…ふぁ…っ」

脱力した狼。

俺は幼いその顔を見てからシャワーをかけてあげた。

「薬は抜けた?」

「………………………」

「狼?」

…スー…スー…スー…。

あ、可愛い。

「清がね。帰るよって」

言ってたよ。

そう、聞こえた。きっと清は俺の…―


狼、やっぱり君が好きだよ。






(れん)、早く俺を迎えにきて―





「蓮お兄ちゃん?」

「あ…大丈夫」

「蓮さん、今の貴方の魔力は零に等しい」

(くれ)君もだろう?」

「僕は………悪魔ですから」

「悪魔だからなんだい?」

「気にしないで下さい」

崇弥(たかや)は悪魔だからと言う理由で君をそう教育しているわけだ。悪魔は奴隷か」

「黙って下さい!!洸兄ちゃんはそんなこと言わない!!寧ろ―」

「寧ろ?」

「僕を…」

「崇弥は悪魔は悪魔、魔獣は魔獣。そんな分け方をしない。呉君は呉君、琉雨(るう)ちゃんは琉雨ちゃんだ。そうだろう?」

「…………………………はい」

「僕は大丈夫だ。呉君は?」

「平気です。洸兄ちゃんが待ってますから」

「うん」





洸祈(こうき)、今迎えに行くよ―

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