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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
生きる代償
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生きる代償(3)

遊杏(ゆあん)、お前に任せたからな」

「ボクチャン、がってんだよ」





地下。

(くれ)は息を吐くと(あおい)二之宮(にのみや)の手を握った。すると、はっと二之宮を見上げる。

「こんなに…」

「まぁね」

含みのある二人の会話に葵は首を傾げた。


「では、時間と場所は?」

と…―

呉の言葉に二之宮は葵を見た。

いいかい?と目で訴える。

「覚悟はできている」

葵は返した。


「10年前の11月10日。東京の下楽(からく)八幡(やはた)橋に」


4人の視界が白に染まった。



「こ…こは…」

葵は目の前の情景に言葉を失った。呉は漆黒の瞳を細め、二之宮は(せい)の頭を優しく撫でる。

「下楽、花街さ」

人を売り買いする荒んだ街。

「洸祈は…」

誰も言わずとも分かる。

子供がここにいる理由は売る為だけだ。

自らの体を他人の快楽の為に…―

「行こう」

二之宮は清の手を引いて足を進めた。








(ろう)ちゃん心ここに在らずね」

狼ちゃんなんて呼ぶな。

玩具に遊ばれ、あられもない姿を晒しながらも内心で毒づく。

「アタシを見て」

女口調やめろ。男のくせに。

感じるところを的確に付いてくるから容赦ない。くたくたの体が直ぐに熱を持ち始めた。

「むーっ。今日の狼ちゃんは意地悪ね。アタシ、意地悪しかえしちゃうわよ?」

まずい。

客がサディスティックな笑みを浮かべた。長期戦に持ち込まれるのは勘弁だ。

「ごめんなさい。今は貴方が僕の愛する人…」

触れるだけのキス。

のはずだったのに…。

「んっ…お…きゃ…さま…」

食われる。

「…狼ちゃん…可愛いわ…」

感じてはいけないのに感じてしまう。気に入られてはいけないのに気に入られてしまう。

「アタシの心に火が付いたわ」

間違えた。

両手を万歳させられる。

「あの…乱暴は…」

自分で言うのもあれだが…館は売り子への暴力は禁止だ。

「しないわ。今日は狼ちゃんをたっぷり可愛がってあげる」

瓶が光に鮮やかな色を見せた。

これは確か…―

「下町で流行ってるのよ」

一瞬でハイになる。

「違反…です…」

リストから外れた物は使用不可である。

「飲んじゃえば分からないわ。ね、狼ちゃん」

やめろ。麻薬だぞ。

どろりとしたそれが体に塗り付けられる。ひりひりとする痒みに身を捩った。それが刺激となって全身を駆け巡る。

「っ…」

弱いそれでは苦しいだけ。体のを舌で掬った客はついでと胸に歯を立てた。体が異常に反応してしまう。

くそっ!

媚薬と化したそれのせいで僕は無意識に媚びていた。

「気持ちいかしら?」

虚ろな客の目。まだ瓶には半分残っている。

「駄目…です…から」

「厭よ。狼ちゃん、飲んで?」

ハイになったら理性を失う。そしたら制限が効かなくなる。

「狼ちゃんの愛する人はアタシでしょう?」

愛してたって出来ることと出来ないことがある。これは出来ないことだ。

狼ちゃん。囁いた客は瓶の中身を感じるところに塗って虐める。

「あっ…っ」

「辛いでしょう?今のアタシ、狼ちゃんに対してだけSだわ。飲まないと苦しいだけよ」

じろじろと苦しむ顔を見て欲情する男。

変態が。

しかし、それよりも弱い。手が使えないので脚でどうにかしようとするが、

「駄目」

片手で動きが押さえられた。

熱が溜まる。

苦しい。

「狼ちゃん、お口開けて」

顔を叛けてそれでも堪える。両手を使う客は無理矢理口を開かせることはできないはずだ。

と…脚の手を放した客は瓶の中身を口に含むと下を刺激して開いてしまった唇に重ねた。

「!!!?」

んー!!!!!!


ごくん。


「狼ちゃん、アナタから誘ってみてよ」

意識が朦朧としてくる。

まずい。

「あ…っ…」

ふわふわしてきた。

「おねだりは?」

「は…っう…」

変なことを口走るなよ。と心中で叫ぶ。

「狼ちゃん、可愛い」

可愛いわけあるか!

「いいこにはご褒美が待ってるのに」

僕はねだらない。ねだれば全てを許すことになる。

駄目だ。

「清ちゃんはおねだりできたのになぁ」

清?

「清…に…これを…」

「たっくさん。狼ちゃんより暴れて嫌がるから大変だったの」

こんなものを清は…―

「あなたのせいね、狼ちゃん」

「ど…して」

「だって、あなたにも使っちゃうかもって言ったらね…」

へ?

「狼ちゃんの代わりに飲んでくれたわ」

分かんない。

清、どうして僕を助けようとする?

「狼にはやめてよって、約束だよって。本当に…清ちゃんは―」


あぁ、君はなんて…―

「馬鹿な子よね」


「だれも信じて疑わない」

清はもうだれも疑えない。疑ったらあの時のように失ってしまう。

「本当に馬鹿で…優しい。優しすぎて…」

そうだよ、清は優しい。この僕を守ろうとするぐらい。

「クスリをあげてあげたくなるの」

もしかして清は…。

「清…が…」

あいつは意識が混濁して…。

「清…」

こいつのせいで…?

「狼ちゃん?」

あいつはまだ幼いんだ。

薬なんて負担が掛かりすぎる。

そんな無垢な子に無理矢理薬飲ませて…。

「何で…清は仕事を…」

ちゃんとこなしていた。従順な奴隷。まるでロボットのようだ。しかし、感情がある。好きなものがあれば、嫌いなものもある。だから、彼は無理矢理は嫌がる。だけど、僕に言わせて見れば、あれは誘っているようにしか見えない。でも、清は本気で嫌がっている。清の体はもう拒絶しか知らないからだ。

そして、そんな清を好む奴は皆、加虐性愛の持ち主ばかりだ。


だから、こういう変態は、

「虐めたくなるの。清君って歪めた顔が素敵だから」

と、言うんだ。


素敵?

皆そうだ。虐めて楽しむ。

そのせいでよく風邪引くし、悪夢を見て飛び起きる。ふと意識がなくなるし、酷い時は発作を起こす。

清のせいなのかな?冷静に対応できない清が悪いのかな?

ねぇ、違うよね。

「狼ちゃんは沈着冷静。だから時々違う反応を見たくなるの」

客はキスを再開して楽しむ。

そう…僕は冷静沈着。

だけどね、あんたが清を殺そうとするから冷静でいられない。

「狼ちゃんやっとお薬が効いてきたのね。その顔よ」

何でだよ。

ムカつく。清は悪くないのに人は…客は虐める。辱しめる。



人殺しは殺されるべきなんだよ


蓮、殺すんだ。


「あ…っあ…」


駄目だ。理性を保て。


「狼ちゃん?なぁに?」

全身を弄られる。

そんなのどうでもいい。


殺したい。


清…僕を止めて。


指先が意思を持って動く。


殺せ。


駄目だ。

「狼ちゃん?ねぇ、狼ちゃん」

「清…止めて…」

あらお誘い?と暢気に言う客の首に手を掛けた。


「ちょっ…!!狼…ちゃ…」


人殺しは殺されるべきなんだ。


「清…清…清…」

ねぇ、清は悪くないんだよ?


僕の愛する清を返してよ。

「清を…返して…よ」


「な!!」

客の顔が青くなっていく。

可哀想に。


清を虐めた罰だ。



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