新緑の頃②
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
始業時間が近づく17時30分、担任の川津先生が教室に姿を現した。
「皆さん、今日から2年生ですね。仕事と学校の両立で大変だと思うけれど、体に気を付けて学校生活を送ってください」
上田正樹さんのような渋いブルースの佇まいに、植木等さんのようなどこか飄々とした軽やかさを漂わせた先生は、それだけ告げると教室全体をぐるりと見渡した。手元の紙に何かを書き込んでいる様子からすると、どうやらこれで出欠をとっているらしい。
川津先生は行地と目を合わせて頷き、続いて浩一の顔を見て小さく頷くと、そのまま風のように教室を去っていった。
(えっ……今のがホームルームなん……?)
あっけにとられる浩一と入れ替わるように、国語担当の小野寺先生が入ってきて、そのまま1時限目の授業が始まった。
国語の内容はすでにI高校で学んだことのある範囲だったが、浩一は復習を兼ねて静かにノートを取った。
1時限目が終わり、給食の時間になった。
食堂でパンと牛乳を手に席に着くと、すかさず行地が横に腰を下ろしてきた。
「川野は、なんでこの学校に来たん?」
「……私立高校に通ってたんやけど、家庭の事情やねん」
「私立かぁ〜。私立は学費高いもんなぁ」
行地は嫌な詮索をすることもなく、納得したように頷いた。
「行地は、なんでここに来たん?」
「俺も前は私立に行っててんけど……退学になってな」
「何したん?」
「喧嘩したり、バイク乗ってるところ見つかったり……まあ色々や」
「そうなんやぁ……」
「川野は、バイクの免許持ってるん?」
「原付なら持ってるで」
実は浩一は、これから始まる定時制高校生活でのアルバイトを見据え、春休みのうちに原付免許を取得していたのだった。
当時は高校生に対する「三ない運動(免許を取らせない・買わせない・運転させない)」が厳しかったが、定時制高校の合格証とアルバイトの明細書を免許センターへ提出することで正式に認められたのだ。過去問を繰り返し勉強し、一発試験で見事合格を果たしていた。
「行地は何か乗ってるん?」
「俺も原付やで。スズキの『RG50ガンマ』って知ってるか?」
「いや、知らん……単車のこと、全然分からへんねん」
「そっかー! それで六甲山走っとるねん」
「へぇ、凄いなぁ……!」
「まあ、めちゃめちゃ速いやついっぱいおるけどな」
他愛もない会話を通じ、浩一は行地という人間の素顔を少しだけ知ることができた。
給食時間が終わり教室に戻ると、1時限目よりも生徒が5、6人増えており、室内は少し賑やかになっていた。しかし、私服や作業着に身を包んだその風貌は、これまでの全日制の生活であれば決して近づかないようなタイプの生徒たちばかりだった。
(これが……定時制高校なのか……?)
まだたったの一日。けれど、これまで生きてきた世界とは何もかもが違う環境に、浩一は戸惑いを隠せないでいた。
ご覧いただきありがとうございました!
淡々と流れる授業、食堂での短い給食時間、そして放課後の暴走エピソードを語る行地。
全日制の規則正しい日常とは打って変わり、それぞれの人生や事情がそのまま持ち込まれる定時制高校のリアルな空気感が描かれた一章です。
三ない運動の時代に、将来を見据えて自力で原付免許を取っていた浩一のたくましさ。
自分が置かれた環境を言い訳にせず、しっかりと自分の足で歩もうとする浩一だからこそ、行地のような男とも自然に対等な絆を結んでいけるのだと感じさせられます。
戸惑いながらも新しい風を受け入れ始めた浩一の第2の高校生活、次回もどうぞお楽しみに!




