私の恋は定時上がり
17時、仕事終わりにビル一階のカフェに急ぐ。
「今日もお仕事お疲れ様です」
このイケメン、このイケメンに会うために私はカフェに通うのだ。イケメンに、生まれてきてくれてありがとう。
「ありがとうございます」
コーヒーを受け取って、席に座る。彼をみながらそんなに好きではないコーヒーをちまちま飲む。どうしてこんなにガン見してるかというと、彼は17時15分には仕事が終わるからだ。どうして、どうして定時上がりなの! もっと長くいてほしい!
そんな祈り虚しく、いつも通り彼は15分に仕事を終える。せつね。
私はどうして七百円という決して安くない金を払って彼に会いに行っているんだろう。しかも、15分、15分だけのために。これが推し活か?
今日も仕事が終わって、速攻カフェに急ぐ。エレベーターは使わない、なぜならみんな定時上がりで混むから。階段を全力で駆け降りて、今日もカフェに向かう。
「今日もお仕事お疲れ様です」
ぜえ、はあ、と息をする様子のおかしいOLに、笑顔で対応してくれる、このイケメン。ありがとう。
「ありがとう」
いつものコーヒーを受け取って、いつもの席。今日もイケメンでいてくれて、ありがとう。
私の次に、可愛らしい子がコーヒーを買っていた。ぼーっと美女を眺めていると、私はみてしまった。イケメンが美女に耳打ちしているところを! な、なんてこった。もしかして、彼女、彼女なのか? ショックだ!
いや、彼は悪くない。私が勝手にアイドルのように推して、勝手に幻想を抱いて、勝手に失望している。なんてことだ。なんて身勝手なんだろう。
今日も仕事が終わって…….、残業をした。カフェにはもう行かない方がいいだろう。私の気持ち悪い推し活で、彼と、彼女が不快になってもいけない。カタカタとなるキーボード音、こんなに虚しかったか? 私は、彼を、相当思っていたようだ。そもそも推しってなんだよ。推しはアイドルに限るな。
今日も仕事が終わって…….、なぜか私はいつものカフェにいた。なぜだ。習慣って恐ろしい。まあ、イケメンは変わりなくイケメンだ。眺めるだけでもいいんじゃないか?
「お疲れ様です。昨日はいらっしゃらなかったですね? 体調不良とかでしたか?」
こんな女に心配してくれて本当にありがとう!
「あはは、仕事が終わらなくて残業してたの。心配してくれてありがとう」
「大変ですね、今日もいつものコーヒーでいいですか?」
「お願いします」
いつもの席、しかしイケメンを眺めるのもなんだか申し訳ない。謎の罪悪感がある。私はスマホをぽちぽちとしていると、こないだの美女がコーヒーを買っていた。
彼は、15分に上がって、彼女も席を立つ。窓から二人が手を繋いで店を出て行く。
私はただ眺め続けた。涙が溢れる。ああ、私、好きだったのかも。推しという言葉に押し込めて、恋を見ないようにしてた。ああ、私の恋も、定時で上がっていったな。




