表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ライゴールの翼獅子

小兎と雪狼

作者: 雲丹屋
掲載日:2026/03/09

田舎貴族の小兎娘は幼少期から猛獣大好きでした……というお話です。

 その日、私は父上に叱られた。


 田舎貴族の末っ子の私は、甘やかされて放置気味にのびのび育っていたけれど、それでも叱られることはある。


「うわーん、お父様のバカぁ~っ! ヒゲクマ鬼〜っ! 大っ嫌いだ〜!!」


 端くれとはいえ貴族の令嬢が当主相手に叫んでいい言葉ではないが、私も小さくて淑女教育などは蹴飛ばして生きていたので仕方がない。

 カッとなった父上が「出ていけ〜!」と叫んだのは、おそらく部屋を出ろと言う意味だったのだろうが、私はそのまま屋敷を飛び出した。


 ああ、このまま私は帰る家もなく生きていかなければならないのだわ。


 5歳や6歳の子供が何を言っているかと大人は笑うかもしれないが、当人としてはいたくマジメにそう思って辺境の荒野……っぽいウチの前庭を私はトボトボと歩いた。かなり歩いた先(子供の足と気分換算)で、私は頼りになる相手を見つけた。


「ラス〜」


 駆け寄った私に、雪狼のラスは耳をピンと立てて「ウォフ!」と嬉しそうに吠えた。

 私は雪狼用の囲いによじ登り、ちょっと緩んでいる場所の狭い隙間に身体を押し込んで、なんとかラスのいる側に入った。賢いラスは私が怪我をしないように、灰白色のモフモフの背中で上手に受け止めてくれた。

 私はラスにギューッと抱きついた。


「ごめんね。今日はお前のゴハンもオヤツも持ってきてないの」


 スンスンと鼻を押し付けるラスの首元を撫でる。


「私、おうちがなくなっちゃったのよ」


 その場に座り込んで膝を抱える。

 地面が冷たくて、抱えた脚や肩がひんやりして、鼻先は冷たいのに鼻と目の奥はじんわりと熱くなった。


 これからどうしよう。


 このままお外で夜を迎えたら、凍えて死んでしまうかもしれない。もう自分は家には入れてもらえないのだから自分でなんとかしなければならないのだ。

 そんなことを考えれば考えるほど、指先が冷えて身体がこわばってくる気がした。


 そんな私の隣で、ラスは静かに座ってくれていた。


「ラス……お前は私のこと心配してくれるのね」


 ラスはその大きな身体を私に擦り寄せた。……温かい。

 その温もりは私をほっとさせた。


 気分が楽になった私は良いことを思いついた。


「お前のおうちにかくまって」

「ウォン」


 ラスの小屋は、ラスの大きな身体がゆったり休める大きさだったので、私が入っても余裕があった。

 丸く寝そべったラスに守ってもらって、その夜、私はぬくぬくと幸せに眠った。




 当たり前だが、年端もいかない貴族の令嬢が屋敷から姿を消して行方不明などという事態は十分に非常事態で、大人達は皆、大騒動だったらしい。

 翌朝、雪狼の囲いの中でラスの背に乗って雪狼達と駆け回って遊んでいた私を発見したうちの騎士は、たいそうみっともない野太い悲鳴をあげた。



 §§§



「それはまぁ……そうでしょうね」


 私の子供時代の話を聴いていた旦那様は、何とも言えない顔をして、我が家自慢の雪狼の訓練場を眺めた。

 あまり人に慣れない雪狼を群れで飼育して、このように猟犬のように訓練できるのは、我が家ぐらいのものである。

 もちろん、王都で結婚した私が、初の里帰りで旦那様をここに案内したのは、物珍しいからというだけではない。私にとっては、ここの雪狼達も紹介しておきたい家族なのだ。


「今、ここにいるのは、皆、ラスの群れの子達だから私の弟分も同然なのよ」


 全員、降参して服従するまで、ひっくり返して腹を撫でまくってやった奴ばっかりだと教えると、旦那様の綺麗な顔はさらに微妙な表情になった。


「みんな、おいで〜」


 一声かけると我が雪狼達は皆、大喜びで集まってきた。実家に戻ってきたのは久しぶりなので、彼らもはしゃいでいる。

 私は群れの規律を保つべく、ビシリと命令を出して全員に待機姿勢をとらせた。


「はい。今日は私の大切な人を紹介します。こちらがレオニード様、私の番ですからみんな覚えてね」


 雪狼達は自分達と同じ白銀の髪をした美貌の青年を値踏みするようにジロジロ見たり、警戒気味に低く唸ったり、バカにするように欠伸をしたりした。


「ちょっとあなた達、なによ。私の最高で素敵な旦那様をバカにする気?」


 "これが最高だとかまたまたご冗談を"と言わんばかりの態度で、先ほど欠伸をしていた雪狼が鼻を鳴らした。

 私はその鼻面を思いっきりぶん殴ってやった。


「文句があるやつはかかってきなさい!」


 啖呵を切った私に若い雪狼達は一斉に後ずさった。


「はっ!この根性ナシどもが」


 なおも挑発しようとした私の頭が後ろからコツリと叩かれた。


「こら。無茶もいい加減にしたまえ」

「でも、レオニード様、こういうことは最初が肝心なんですよ。ちゃんと教えておかないと、大事な時に言うことを聞いてくれなくて困ることになります」

「だったら……」


 我がレオニード様は、その麗しい顔で優美に微笑まれた。


「貴女が命じてゴリ押しするだけではダメでしょう」


 顔がいい男は笑うだけで迫力があるのがズルい。ついでに上背も力もあるから、抱え上げられてしまうとちょっと抵抗しづらいのが悔しい。

 私を抱き上げた彼を囲んで、雪狼達は鼻にシワを寄せて唸り始めた。


 氷雪の翼獅子の二つ名持ちの我が旦那様から猛烈に怖い殺気が放たれ、ブリザードも平気な雪狼達が硬直した。


「こら」


 私はレオニード様の頬を、ちょんとつついた。


「やりすぎ」


 雪狼達は、散り散りに逃げ出した。


 レオニード様は、うっすら殺気の残る妙に色気のある目付きで私を見ると、頬をつついた私の指を戯れに咥えて薄く笑った。


 小屋の奥にいたラスがこちらにゆっくり歩いてきて、ウォンと一声吠えた。


「ラス。そんなことはしないわよ」

「この雪狼は何を言いにきたんだい?」

「ふざけて甘噛みしてると、私に噛み癖の矯正と称してひどい目に遭わされるからやめておけですって」

「……やったことがあるのか」

「ラスは賢いからそんなことはしてないわ」


 レオニード様はそっと私を降ろしてくれた。私は久しぶりに会う真っ白で大きな雪狼のラスに思いっきり抱きついた。賢い雪狼は昔馴染みの小さな兎娘を変わりない温かさで包み込んでくれた。

 おっきくて賢い獣って大好き。



 このあと、私はレオニード様を雪狼の囲いの中に入れたということで父上にこっぴどく叱られた。

「いいじゃない。群れを従えるなら序列の管理は大切よ」

「お前は少しは当主で父親あるわしの言葉を聞け!」

「聞いてるわよ。ちゃんと言いつけ通りレオニード様を捕まえて連れてきたでしょ」

「気に入られろとは言ったが、捕獲してこいとはいっとら~ん!!」


翼獅子を獲物扱いして咥えて戻ってきた赤晶兎(カーバンクル)にめまいがしたヒゲクマ親父であった。



ーーー

お読みいただきありがとうございました。感想、評価☆、リアクションなどいただけますと大変励みになります。


本作から読んだ方はぜひこの兎(?)が翼獅子と婚約したときの話もお読みください。

「政略結婚のお相手は氷雪の翼獅子様!〜お家のために絶対に落としてみせます」

(タイトル上のシリーズリンクからどうぞ)


……この二人、割れ鍋に綴じ蓋です(笑)


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
レオニード様は、うっすら殺気の残る妙に色気のある目付きで私を見ると、頬をつついた私の指を戯れに咥えて薄く笑った。 カ〜〜〜〜〜〜ッ! ご馳走さまです〜♫レオニードさま素敵♡ 逃げ散った弟雪狼たち、き…
わーい、懐かしい。兎の皮を被った兎()のお話だ! 嬉しくなって前作と妹ちゃんの連載も読んできてしまいました。 最近、奥様(鎧)とか奥様(市民)とか奥様(鷹)とか、年齢高めのお話が続いたので、うにやさ…
はい、本作から読みました! で、どこが兎さんなのぉ〜?(笑) 立派な猛獣使いさんですよね〜。 こういう女子、大変好みです!! 「男は優しく、女は凛々しく」 が、あるべき姿と信じて疑わない私であります!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ