表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

第9話 数学

 次の日。

 まだ学校の生活リズムが馴染んでいない中、アラームで無理くり目を覚ました俺は、眠気を堪えつつ今日も無事に登校し自席へ腰を下ろす。

 何とか起きれはしたものの、寝ようと思えばすぐにでも眠れそうなぐらい眠たい……。


「ふぁ~」


 欠伸を噛み殺しながら、気持ちを切り替えるため一度大きく身体を伸ばす。

 しかし窓際の席ということもあり、差し込む朝の良い日差しが心地よく尚更眠気を誘われてしまう。


「あれ、南光くん朝からお疲れ?」

「あーし、肩揉んであげよっか?」

「いいねー、わたしも揉みたいー」


 だがしかし、今は教室の中。

 俺のコンディションなど関係なく、今日も朝からクラスの女子達に囲まれてしまう。


「うん、ちょっと寝不足でね。気持ちだけ受け取っておくよ」


 俺は作り笑いを浮かべながら、そんな彼女達の相手をする。

 朝からカロリーを使うのは極力避けたいのだが、彼女達も好意で集まっているのだ。

 だからここで、彼女達を無下に扱うこともできない。


 だが、暫くするとそんな教室内の空気が一変する。

 何故なら、隣の席の音洲さんが教室へとやってきたからである。


 どうやら今日は朝練終わりのようで、朝からお疲れ気味の音洲さん。

 俺は単なる寝不足だが、朝から運動をしてちゃんと疲れている音洲さんは、隣の席に着席するなり鞄を枕代わりにして机に突っ伏してしまう。


「うぐぁ~、じゅかれだぁ~」


 そして、うめき声のような言葉を漏らしつつ、完全に朝から机と同化してしまった音洲さん。


 ……まぁそれも無理はなく、俺よりも早起きをして朝からもっちり運動しているのだ。

 想像するだけで、俺までぐったりしてきてしまう。

 そんなわけだから、音洲さんが疲れているのは当たり前で、昨日撮影があっただけで疲れている自分が何だか申し訳なくなってくる。


「あ゛ぁ~無理゛~。もぅおうぢがえりだぁ~い゛」


 どうやら、よっぽど疲れてしまっているようだ。

 そんなうめき声を上げる音洲さんに気を遣うように、席へ集まっていた女子達も離れていく。

 正直俺も、隣の席が気になって仕方がなくなってしまう。


「う゛~、も゛ぅ部活や゛めだい゛ぃ~」


 ……にしても、止まらないな。

 止まらないそのうめき声に笑いを堪えつつ、俺はそんな音洲さんのおかげで朝からちょこっと元気を貰えたのであった。



 ◇



 一限目は数学。

 授業が始まるも、やっぱりしんどそうにしている音洲さん。


 教科書を開いているものの、やっぱり疲れていて眠たいのか早速コクコクと船を漕いでしまっている。

 その振れ幅は徐々に強まっていき、背の低い音洲さんはそのまま机に頭突きをしてしまうのではないかと不安になってくる。


「音洲さん、大丈夫?」


 だから俺は、そんな大惨事になる前にこっそり声をかけて起こしてみる。

 このままでは授業にもついて行けなくなるだろうし、何ていうか色々と心配になってしまう。


「……ふぇ? あ、ご、ごめんなさい!」


 完全に別の世界へ行きかけていた音洲さんだったが、ギリギリのところで正気を取り戻してこちらの世界へ帰ってくる。

 そして恥ずかしがるように、教科書で顔を隠しながらペコペコと頭を下げる音洲さん。


 教科書からはみ出したその顔は真っ赤に染まっており、それだけ恥ずかしかったことが窺える。

 そんな分りやす過ぎる反応も、見飽きることなく面白い。


 まぁ何はともあれ、これで音洲さんも目が覚めたようだ。

 俺は一安心しながら、授業に集中することにした。


 黒板には見慣れない数式がビッチリと書かれており、ちょっと気を抜けば俺まであっという間に遅れてしまいそうだ。

 慌てて黒板に書かれた数式をノートへ書き写していくが、高二にもなれば内容も難しくなってきており、これは少し気を抜いただけで本当に取り残されてしまうだろうな……。


 なんなら、音洲さんは既についていけないのではないかと心配になったその時だった――。



 ガンッ!!



 隣から聞こえてくる、大きな衝撃音。

 それは、コツコツと先生が字を書くチョークの音だけが響いていたこの教室において、その音は明らかに異質だった――。


「あでで……」


 それから少し遅れて聞こえてくるのは、痛そうに呟く音洲さんの声。

 まさかと思い隣を向けば、そこには机に頭突きをして固まっている音洲さんの姿……。


「音洲ー。目は覚めたかぁー?」

「……はいぃ、覚めましたぁ」

「よろしい。じゃあ、授業の続き説明するぞー」


 先生の言葉に、教室内はドッと笑いに包まれる。

 音洲さんは額を机にくっ付けたまま、教科書で防壁を作りながら恥ずかしそうに縮こまっている。

 隣の席からも音洲さんの顔は見えないが、その耳はさっきより真っ赤に染まっていた。

 結局音洲さんは、本当に机に頭突きをするまで眠気には抗えなかったようだ……。


 このままでは、恋より先に単位を落とす音洲さん――。


 そんな言葉が、脳裏に思い浮かぶのであった。




眠いものは仕方ない

居眠りせずにいられる魔法を与えてください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ