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第8話 バイト先

 学校を出た俺は、そのまま電車に乗ってオフィス街へとやってきた。

 高層ビルに囲まれる中、俺は迷うことなくあるオフィスビルの中へと入ると、そのまま五階にあるオフィスの受付へと向かう。


「お、きたきた! 今日は時間通りね!」

「お疲れ様です」


 俺の到着を待っていたのは、ここの社員さんである冬月ふゆつきさん。

 ショートカットの黒髪に、細目の眼鏡がよく似合ういかにもキャリアウーマンって感じの女性だ。


 そしてここがどこかというと、ファッション雑誌の編集部。

 実は今俺は、この生まれ持った容姿を活かして、ここから刊行しているファッション雑誌でモデル活動をさせて貰っているのだ。

 そんなわけで、こちらの冬月さんの正体はというと俺の担当マネージャーである。


「それじゃ! さっそく撮影したいから準備してね」

「分かりました」


 冬月さんにグイグイと背中を押されながら、早速衣装室へと連れて行かれる。

 そして今日も卒なく、雑誌の撮影を一通り済ませるのであった。



 ◇



「おつかれさまー。今回も良い写真撮れたって、カメラマンさんも喜んでたわよ」

「それはどうも」


 撮影を終え、事務所の休憩ルーム。

 出されたお茶とお菓子を頂きながら、すぐに帰るのもあれなので今は冬月さんとしばしの雑談中。


 手持無沙汰になった俺は、置いてあった先月号の雑誌のページをペラペラと捲りながら自分の写真を確認する。

 ちなみに俺がモデルをしているのは、人気のストリート系ファッション雑誌。

 主に十代から二十代前半をターゲットにした、若者向けの内容となっている。

 しかし、同年代が買うにはちょっと価格帯の高い服ばかり載っているため、正直これが本当に若者の参考になっているのかは謎だったりする。

 それでも、雑誌自体は結構売れているようで、男女問わず同年代に強い支持を受けているのだとか。


 編集部の人達は、俺がモデルに加わってから更に売り上げが伸びているのを理由に、これは『輝マジック』だなんて言ってくれてはいるが、モデルの世界には俺以上のイケメンなんてゴロゴロいるのだから、勿論それがリップサービスであることは分かっている。


「にしても、輝も今日から二年生かー」

「なんです? おかしいですか?」

「ううん、まぁ何ていうか親心的な? こうして輝も、段々大人になっていくんだなぁーって」

「なんすかそれ……」


 冬月さんだって、まだ二十代前半で全然若いはずなのに、たまにこうして謎の母親ムーブをかましてくることがあるから困ったものだ。


 というか、冬月さんが母親って時点で違和感しかない。

 小顔でスタイルも良く、普通に美人なお姉さんって感じの冬月さんこそ、モデルに向いていると思っているからだ。

 前にもこんな話をしたことはあるが、本人曰く表に出る仕事は性に合わないから、こういう裏方の仕事の方が本人的には合っているのだそうだ。


「それで、学校はどう?」

「どうって……別に普通ですよ?」

「嘘ね、今ちょっと間があったじゃない」


 そう言って、すぐに俺の考えを見透かしてくる冬月さん。

 だから俺も、別に隠すことでもないかと、この場の話題提供のため白状する。


「まぁ、ちょっと変わった子が隣の席になったんですよ」

「変わった子?」

「はい。冬月さんは、俺が学校で何て呼ばれているか知ってますよね?」

「あー、あれでしょ? 難攻不落の南光様!」

「……様は余計ですけど、まぁそうです。でも実は、同じ学校にもう一人異名を持ってる子がいるんですよ」

「へぇ、それがその隣の席の子ってわけね?」


 俺が説明するより先に、事情を察した冬月さんは興味深そうに微笑む。

 どうやらこの話題、完全に冬月さんの興味を引いてしまったようだ。


「……ええ、そうです。ちなみにその子は、『絶対に落とす音洲さん』って呼ばれてます」

「え? 何それ何それ! つまり、難攻不落の輝と、絶対に落とす女の子が隣の席同士になったってこと!?」

「まぁ、そういうことです」

「うわぁー! 何それおもしろー! どんな子かめっちゃ気になるんですけどぉー!!」


 どんな子って、それはまぁ……。

 たしかに可愛いのは認めるし、天然で似た者同士だったりする珍しい女の子なんだけど……。

 でもそんな話は、冬月さんには言わないでおく。

 だって、絶対に面倒くさくなるから。


 しかし、すっかり興味津々になってしまった冬月さんは、今度学校まで迎えに行くから紹介しろと言ってくるが、もちろんその申し出は丁重にお断りさせて貰う。

 だって、絶対に面倒くさくなるから。


 まぁそんなこんなで、俺が難攻不落であるもう一つの理由——。

 それは、モデルという一応は人気商売をしているため、尚更女性関係には気を付けないといけないのであった。



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