第24話 ランチタイム
「ぐぁー! 疲れたぁー!」
「そうだね、そろそろ休憩にしよっか」
光雄の悲鳴をキッカケに、小山さんの提案でそろそろ休憩を入れることにした。
時計を見れば、既に十三時を少し回っていた。
集中していて気付かなかったが、どうやら結構時間が経過していたようだ。
正面を向けば、そこには今にも知恵熱でも起こしそうなほどヘロヘロ状態な音洲さんの姿。
あれから一心不乱に勉強の鬼と化していた音洲さんだけは、消費エネルギーが明らかに違っていたから仕方ない。
というわけで、一度勉強に見切りをつけた俺達は、四人でランチへ出かけることにした。
ちょうど近くにファミレスがあるから、悩む必要もなく満場一致でそこに決定。
最強のランチ論争を始めている光雄と小山さんの後ろを、ヘロヘロな音洲さんと歩く。
「音洲さん、大丈夫?」
「あははは、平気平気……」
「全然そうは見えないけど……」
「あ、あはは……」
……うん、これはちょっと駄目そうだ。
これは一刻も早く、ファミレスでカロリーを補給させなければ……!
そんな謎の使命感とともに、すぐに到着したファミレス。
四人掛けのボックス席へと案内され、椅子は両側ともフラットタイプ。
何となく、ここは図書館と同じ位置で座るものだろうと思っていると、小山さんが音洲さんの背中を押す。
「じゃ、姫花はそっち座ってね」
「え? うん」
まず最初に、音洲さんを席へ座らせる小山さん。
「で、私はここねー」
それから小山さんは、音洲さんの隣ではなく向かいの席へと座る。
そして――、
「さ、どっちに座る?」
不敵な笑みを浮かべながら、誰がどっちに座るかの選択肢をこちらへ委ねてくるのであった。
「あ、おい! 卑怯だぞっ!」
「いいから、早く選んでよね」
「ちっくしょう……!」
悔し紛れに光雄は、こちらを向いて俺に判断を仰いでくる。
光雄の性格からして、こういう時にスマートな行動ができないのは分かる。
であればここは、俺が選ぶのが丸いということ。
となれば、選択肢は一つだけだ。
「じゃ、俺はこっちで」
俺は一切迷う素振りを見せず、音洲さんの隣を選択する。
理由はシンプルで、音洲さんとは普段学校でも隣の席同士だから。
それに音洲さんと小山さんなら、音洲さんとの関係値の方が不快。
であれば、どちらを選ぶのかと言われれば音洲さん一択だ。
「えー、南光くんこっちじゃないのー?」
「小山さんは、光雄の方がテンションとか合ってるんじゃない?」
「あはは! それはたしかにー! じゃ、西城くんは私の隣へどうぞ」
「くっ、やりづれーなぁ!」
不服そうに光雄が小山さんの隣へ座り、これで着席完了。
これでようやく注文ができると思っていると、何やら座席に振動を感じる。
何だろうと思い隣を向くと、そこにはプルプルと震える音洲さんの姿……。
「お、音洲さん?」
「ななな、南光くんは、こ、こここ、こっちなんですね」
こっちというのは、さっきのどっちに座るか問題の話のことだろうか。
俺は全然気にしないのだが、音洲さんの方はかなり気にしてしまっているご様子だ……。
「あはは! 姫花、生まれたての小鹿みたーい!」
「小鹿って……たしかに」
震える音洲さんを指差して笑う小山さんと、それにふむふむと納得する光雄。
何故こんなにプルプルと震えているのかは謎だが、生まれたての小鹿みたいなのは納得する。
「もう! 笑わないでよぉ!」
「ごめんごめん、でも二人って学校でも隣同士じゃない。何を今更気にしてるのよ」
「そ、それはそうだけどぉ……」
「まぁ細かいことはいいじゃない、はやく注文しましょ! 私お腹空いたー」
「俺も俺もー」
不満そうにする音洲さんだけれど、ここでも小山さんのペースに飲まれて有耶無耶にされてしまう。
まぁ何はともあれ、はやく注文を済ますのには俺も賛成のため、それぞれ食べたいメニューを選んで店員さんへ注文を済ませる。
「でも本当、姫花も変わったよねぇ」
「変わったって、何が?」
「姫花って、男の子のことが苦手なのよ」
「え、そうなの!?」
驚く光雄に、俺も内心で同意する。
たしかに得意な感じはしないが、苦手という感じもしていなかったから。
それに教室でも、他の男子達に囲まれながらも上手く対応しているし。
「そう、だからこうして男女でファミレスにいるなんて、近年稀に見る奇跡ね」
「奇跡じゃないし! あんまり変なこと言わないでよー!」
「あら、じゃあ他にも経験あるの?」
「……そ、それは、ないけど」
あ、本当に無いんだ……。
嘘を付けない性格のせいで、あまりにも分かりやす過ぎる音洲さん。
ということは、本当にこの場が初ということになるのだろうか……。
「まぁ、それを言うなら輝も同じだよな」
「俺?」
「うん、苦手だろ? 女子が」
「まぁ……」
光雄に言われて納得をする。
たしかに俺は、女子が苦手だ。
でも教室では女子達に囲まれても、当たり障りなく接していて――。
「そう考えると、輝と音洲さんって似てるのかもな」
「たしかにー、みんなにはほこたて対決だなんて言われてるけどね」
そうだ、俺と音洲さんは似た者同士。
俺が自分を作ってるなら、音洲さんだって同じだったのかもしれない。
一方的に向けられる好意は、扱いの難しい錘でしかないのだ。
でもそれなら、音洲さんは俺も苦手だからさっきはあんな反応を……?
そのことに気付いてしまった俺も、急にこの席が気まずく感じられてくる。
何迷わず隣を選んでるんだよと、自分が恥ずかしくなってくる。
しかし、もう座ってしまったものは仕方ない。
ただここで何も言わないのも違うため、一応音洲さんへ詫びを入れておくことにした。
「あはは、ごめんね苦手なのに」
「ち、違うの!」
「違う?」
「……ちょっとだけ、意識してしまっただけでして」
……意識?
いや、それって何も違わないんじゃ……?
そう思ったが、本当にもう平気だからという音洲さんに対して、俺もそれ以上は何も言わないでおいた。
そして小山さんは、そんな俺達のぎこちないやり取りをどこか満足そうに見つめてきているのであった。




