第23話 勉強会開始
「お、輝と音洲さんは数学やってたのか! じゃあ俺も〜♪」
「え、みんな数学なら私も〜♪」
光雄と小山さんが合流したことで、場の空気は一変する。
クラスでも明るい二人が揃えば、会話の主導権はもう二人のもの。
自分から無理に話す必要もないし、さっきみたいに様子を探り合うような気まずさもない。
というわけで、四人揃っての勉強会が開始した。
今日の目的は、勉強が苦手だという女子二人のため。
そして光雄はそれほど勉強が得意ではない以上、この場では俺がみんなに助言をする側でなくてはならない。
……しかし、勉強を怠ってきたつもりはないが、かと言って人様に教えられるほど熟知しているかというと不安しかない。
さっきは音洲さんの相手はできたけれど、小山さんはどうだろうか……。
そんな緊張感みたいなものを密かに抱きながら、自分も数学の復習をしていると──、
「う〜ん、ここどうやるんだっけ……」
「どれ? 見せてみ? あーここね、この公式使うんだよ」
「あっ本当だ! ありがとう恵!」
「任せなさい」
悩める音洲さんを、小山さんは問題を一目見てフォローしていた。
そのたった一度のやり取りだけれど、俺はある異変に気がつく──。
──あれ? 小山さんって勉強が苦手だって話じゃ……?
今日のこの集まりは、そもそも勉強が苦手だという小山さんのお願いから始まったもの。
だというのに、小山さんからは全然勉強が苦手だという感じは伝わってこないのである。
まぁたまたま数学が得意だったとか、たまたま同じ問題をやっていたとかだって有り得る。
だから最初は流していたのだが、それからも小山さんは明らかに教わる側ではなく教える側だった。
別に、小山さんが勉強できること自体はいい。
教えられる側が増えれば気が軽いし、何なら今日この場を作ってくれたことにだって感謝しかない。
けれどどうして、小山さんは勉強が苦手だと言ったのだろうか……。
まず考えられるのは、音洲さんのため。
しかしそれなら、別に俺と光雄にまで声をかける必要はなかったはず。
女子二人での方が、多分勉強するだけなら気楽にすら思える。
だからこの線は多分違うのだろう。
となると、次に考えられるのは小山さんは口実が欲しかっただけ。
あくまで勉強会は誘い文句であり、俺か光雄のどちらかを呼び出したかった。
そう考えると、辻褄は合う。
けれど、肝心のその理由が分からない……。
俺は過去にも、似たような事が何度もあった。
直接俺を誘うのではなく、友達を利用して俺を呼び出そうとするのだ。
最初は俺も、友達の誘いだからと断ることはしなかった。
しかし、そういう事が何度も続くとさすがに嫌気が差してきて、それを察した友達から断ってくれるようになった。
しかし、今は高校二年の新しいクラス。
故に、そんな過去を知らない人は、また理由を見つけて俺との時間を作ろうとすることだってあるだろう。
それ自体は仕方ないことだと思うし、多少大人になった俺ももうそんなことで腹を立てたりはしない。
けれど問題は、小山さん自身からその意図が微塵も感じられないのである。
小山さんの振る舞いはいつも通りで、俺達に対しても普通の友達として変わらず接してくれている。
だから今まで、小山さんに対して危機感みたいなものを抱いたことなんて一度もないのだ。
となると、目的はなんなのか……。
対象は俺ではなく光雄なのかもとも考えたが、そういう訳でもなさそうだ。
とはいえ、こんな事を直接本人に聞くわけにもいかないし、今は変なことを考えずに勉強に集中すべきだろう。
そう思った、丁度その時だった──。
「あれ? つーかさ、小山さんって勉強苦手なんじゃなかったっけ?」
俺の感じていたことを、光雄はあっけらかんと直接本人に質問したのである。
いきなりの光雄からの質問に、小山さんはピタリとペンを止める。
そして真っ直ぐに光雄を見つめ返すと、真剣な面持ちでゆっくりと口を開く──。
「あーごめん、それウソ」
そして語られた小山さんの一言に、俺の思考は停止する。
──え、ウソ?
何故小山さんは、そんな嘘をついたのか……。
その理由が何も思い浮かばないのは、どうやら光雄も同じ。
なんなら、音洲さんも驚いた様子で小山さんのことを見つめている。
「なんで、そんなウソついたんだ?」
「え? だって、楽しそうじゃん」
「楽しそうって……まぁそれはそうだな!」
「でしょ?」
光雄の疑問に、小山さんは即答する。
そして何故か二人して、意思疎通して悪戯に笑い合っている。
「ていうか私、学年八位だからね」
「は、八位!?」
得意げにカミングアウトする小山さんに、俺はもう驚くしかなかった。
というか、光雄はともかく音洲さんまで驚愕の表情を浮かべている。
「え!? なんで嘘ついたの!」
「そういえば、姫花とはクラスも違ったし、あんまりこういう話はしなかったよねー」
「そうだよ! なんで!?」
「ごめんごめん。でもさ、おかげでこの場があるわけじゃん?」
「それはそうだけど……」
腑に落ちない音洲さんを、よしよしとあやす小山さん。
こうして見ていると、二人の関係性がよく見えてくる。
「まぁあれよ、せっかく遠足組のグループがあるんだし、こういう場を作りたかっただけ。みんなだって、勉強する場があった方が良かったでしょ?」
小山さんの説明に、全員納得するしかなかった。
一人でするのではなく、こうして集まって勉強した方が有意義なのは間違いないから。
「というわけで、この場で赤点ピンチなのは妃花だけ。分かったら勉強勉強!」
「うぐぅ!」
現実を理解し、絶望とともに慌てて勉強に戻る音洲さん。
そんな音洲さんの反応が可笑しくて、最後はやっぱり音洲さんがこの場を和ませてくれるのであった。




