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第16話 接客?

 どうしてここに、音洲さんが……?

 それは目の前にいる音洲さんとしても、俺がここにいるのは予想外だったのだろう。

 まるでこの世の終わりのような表情を浮かべながら、プルプルと震えている……。


 ――というか、その格好は……?


 白のワイシャツに、腰元には黒のエプロンを巻いており、見るからにそれはウエイトレスの服装。

 キレイ系というよりカワイイ系の音洲さんだが、何というか出るところは出ていて、学校で会う時よりも何だか大人っぽく見えるというか……。

 まぁ状況から察するに、音洲さんはここの従業員なのだろう……。


「な、なななな、なんでこここ、ここにななな南光くんが!?」


 ガタガタと壊れたラジオのように、完全に挙動不審になってしまっている音洲さん。

 どうやら音洲さん的に、ここで働いていることを誰かに知られるのは不味いことなのだろう……。

 その目は完全に泳いでしまっており、いつもの元気溌剌な感じはどこへやら。

 ただこの場を誤魔化そうとするも、どうしようもないことに答えを出せていないご様子である。


「た、たまたま来てみただけなんだけどね。……えーっと、もしかして音洲さん、ここでバイトしてるのかな?」


 空気に耐えられなくなり、俺からも質問を返す。

 自分からは言い出し辛そうだし、多分この場は核心に触れなきゃ進まないような気がしたから。

 すると音洲さんも、少し落ち着いてきた様子で周囲をキョロキョロ確認すると、こちらへツツツと近づいてくる。


「そ、そうです……なので、秘密にして欲しいです……!」


 そして耳元で内緒話をするように、恥ずかしそうに囁いてくる音洲さん。

 耳元でそっと息を吹きかけるように、至近距離に近づいてきた音洲さんのことを柄にもなく意識してしまう自分がいた。


 幸いここは、静かな喫茶店内。

 周囲を見回しても、こちらを見ている人なんて誰もいない。

 だからコソコソ話をする必要なんてそもそも無かったわけだが、音洲さんにとってはそれだけ重要なことだったのだろう。

 今もソワソワと、この場をどうしたものかと挙動不審になってしまっている。


「えーっと、じゃあ俺はその、あそこの席に座っていいかな?」

「は、はい! どどど、どうぞ!」

「う、うん、それじゃ」


 何はともあれ、一度入店してしまった以上出ていくわけにもいかない俺は、空いている席へ座らせてもらうことにした。

 音洲さんも断ることはなく、店員モードでちゃんと接客してくれたことにほっとしながら、ひとまず席に置いてあるメニューを手にする。


「Aランチセット……いや、Bも捨てがたいな……」


 そもそもの目的であるランチを注文したいが、どれも美味しそうで普通に迷ってしまう。

 しばらくメニュー表と睨めっこをしていると、テーブルへ水が届けられる。


「ご、ご注文はお決まりですか?」


 その声に顔を上げると、そこには未だ挙動不審な様子で注文を確認しに来た音洲さんの姿があった。

 水を置く手もプルプルと震えてしまっており、明らかにまだ緊張しているようだ……。


「あー、じゃあえっと……Aランチと、ホットコーヒーを貰えるかな?」

「え、Aランチとホットコーヒーですね! う、承りましたぁ!」


 プルプルと震えながらメモを取ると、足早に厨房へと向かっていく音洲さん。

 その去り行く音洲さんの姿を眺めながら、自然と自分の口角が上がっていることに気が付く。


 さっき俺は、一度入店してしまった以上ここで帰るわけにはいかないと自分で残る理由を付けていた。

 でも別に、あのタイミングで帰ったって別に良かったのだ。


 それでも俺が、そうしなかった真の理由――。

 それはこうして、ウエイトレス姿で働く音洲さんのことをもっと見ていたいと思っているからに他ならない。


 クラスメイトがバイトしているという物珍しさ。

 しかもそれが、隣の席の女の子なのだ。

 興味を引くには、それだけで十分と言えるだろう。


 でも理由はそれだけではなく、相手は学校内で有名な音洲さんで、普段とは違う明らかな挙動不審な反応も見ていて新鮮で面白い。

 そして何より、普段見ることのないウエイトレス姿に、俺はクラスメイトとしてだけではなく、一人の男子としても正直気になってしまっているのである。


 俺はこれまで、色んな子と接してきた。

 それは学校や他校の女子達、更にはモデル活動をする中で出会ってきた同じ業界に属する異性も含まれる。

 だから自分で言うのもなんだが、人よりも沢山の出会いの機会に恵まれてきた人生だと思う。


 それでも音洲さんは、これまで出会ってきたどの子とも違っていた。

 似た者同士で、いつだって飾ることのない自然体な振る舞い――。

 そんな彼女だから、もう俺も認めるしかなかった。


 他の子とは違う彼女のことが、俺自身気になってしまっているということを――。


 本当に偶然ではあったけれど、こうして休日にも彼女と同じ空間に居られるだけで、不思議と胸が躍っている自分がいるのであった。

 

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