第15話 土曜日
土曜日。
つまり今日は、学校もお休み。
昨日は遠足で長時間歩いたからか、起きた時からふくらはぎに痛みを感じる。
それもそのはず、昨日は何時間も山道を歩き続けたのだ。
次の日に筋肉痛にならない方がおかしい運動量なのだから仕方ない。
それでも、同じ班の他の三人は俺と違って運動部所属。
表には出さなかったが、後半は正直クタクタだった俺に対して他の三人は最後までピンピンしていたところを見せられると、帰宅部の体力不足を思い知らされた。
尤も俺の場合、モデル活動のこともあるしもうちょっと筋肉を付けないとなと思いながらも、今はあまりの気怠さにベッドから起き上がる気力は一向に湧いてこないのであった。
とは言っても、今日はせっかくの土曜日。
学校も無ければ、モデルの仕事も何もない一日完全フリーDAY。
まぁこのまま何も考えず、ただ惰眠を貪り続けるというのも悪くはないのだが、それではやっぱり勿体ないという意識の方が勝る。
というわけで、何とか気合いで起き上がった俺は身支度を開始することにした。
まぁ別に、これから予定が入っているわけでもなければ、何か目的があるわけでもない。
それでも、こんな天気の良い日にはやっぱり外で楽しみたいという動機だけで十分だった。
季節は春を過ぎ去り、初夏を感じさせる過ごしやすい気候。
この前買ったばかりのTシャツに黒のパンツを合わせ、あとは黒のキャップを深く被ればお着替え終了。
別に自分のことを、有名人だと思っているわけではない。
ただ、道行く人から時々声をかけられてしまうこともあるため、一応周囲にバレないように変装はするようにしているのだ。
あとはマスクで口元さえ隠してしまえば、早々バレることは無いだろう。
備えあれば患いなしってやつだ。
というわけで、身支度を済ませた俺は家族に声をかけてから家を出る。
スマホで時間を確認すると、十時半を少し過ぎた頃。
今日はまだ起きてから何も食べていないため、家で食事を済ませてから出てきても良かったのだが、もう朝食というより昼食に近い時間帯。
だからせっかくの休日、どこかでランチと洒落込むことに決めた俺は、空腹を我慢しながらとりあえず駅前の方へと向かうのであった。
◇
駅前に到着した。
近所の住宅街とは異なり、人通りも賑やかだ。
居酒屋やラーメン屋さん。
それから有名チェーン店の喫茶店に、個人経営の飲食店などなど。
駅前に来ればそれ相応にお店も並んでおり、今日はどこでランチをしようか考えるだけで一人心躍る。
「そういえば、こっちにもお店があったよな……」
どこかチェーン店へ行けば、味と価格は保証されているだろう。
でも今日の気分は、どこでも楽しめるお店ではなく、ここでしか楽しめない個人経営のお店に気分が傾いている俺は、ふと前から気になっている喫茶店の存在を思い出した。
ここの曲がり角を曲がった先にある、昔ながらの喫茶店。
お店の前を通る度、コーヒーの良い香りがほんのりと漂ってきて、前々から気になってはいたのだ。
こういう何も予定のない日にこそ、そういうところへ行ってみるべきだろう。
というわけで、お店へと到着。
店先には手書きでランチの看板が出されており、手ごろなお値段でパスタや煮込みハンバーグなどが選べるようだ。
まだ食べたこともなければ、店内に入ったこともないけれど、ここは絶対に当たりだという確信を抱きながら店の扉を開ける。
カランコロンカラン――。
店内は昔ながらの内装に、いかにも喫茶店という感じのドアチャイム。
ちらほらと先客がいるが、それほど混んではおらずゆっくり出来そうなことに安堵する。
今日はここでゆっくりランチを楽しみながら、これからの過ごし方について考えることにしよう。
そんな今日のプランを何となく考えつつ、店員さんからの案内を待っていると――、
「い、いらっちゃいませー! 今ご案内ぶふぁー!?」
ぶ、ぶふぁ……?
慌ててやってきた店員さんが、何故か俺を見るなり吹き出してしまう。
こっちも驚きながら改めて相手を確認すると、そこには何故か音洲さんが立っているのであった――。




