第14話 遠足の終わり
昼ご飯休憩を済ませると、そのままハイキング後半もつつがなく終了した。
ハイキング自体は楽しかったものの、長時間歩き続けたこともありさすがに足腰にきている。
しかし、運動部に所属している他の三人はピンピンしており、帰宅部の自分だけ体力がないことを思い知らされてしまう……。
どうやらこれは、継続的に運動を始めた方が良さそうだ……。
なにはともあれ、ハイキングも無事に終了した。
班のみんなで昼食をともにして以降、より四人の絆も深まったおかげでとても有意義な時間を過ごす事ができた。
そしてそれは、同じ班に音洲さんがいてくれたことがやっぱり大きかった。
空に輝く太陽のように眩しい笑みを浮かべながら、誰よりも楽しんでくれている音洲さんがただ傍にいてくれるだけで、自然とこちらまで楽しい気持ちになっているのである。
学校での彼女は、絶対に落とす音洲さんと呼ばれている――。
けれどそれは、彼女自身の魅力が成せる業であり、そんな二つ名で呼んでいいものではないと思う。
まだ知り合って日は浅いけれど、それでも俺は音洲さんのことを知ることができたし、これからもっと彼女のことを知りたいと思っている。
それぐらい音洲さんは、他の子達とは違った魅力の持ち主なのだ。
そして今は、帰りのバスの中。
行きは騒いでいたバスの車内も、帰りはみんな疲れていて静かだった。
中には寝息まで聞こえてきて、聞いているとこっちまで眠気に誘われてしまう。
けれど、今の俺には寝たくない理由がある。
何かというと、それは同じ班のメンバーで作ったグループチャットがあるからだ。
『道端の草引っこ抜いて、エクスカリバーは笑ったわww』
『は? 本当にエクスカリバーだし』
『聖剣に選ばれし勇者wwwww』
『おい、草を生やすな草を。引っこ抜くぞお前ごと』
バスの通路を挟んで、すぐ隣合わせの光雄と小山さん。
でも二人とも直接言葉を交わす事はなく、スマホのチャット上で絶賛レスバを繰り広げている。
その絵面もまた傍から見ているとシュールで、俺も音洲さんも二人のやり取りに笑いを堪えるのに必死だ。
かく言う二人も、言葉は発さないものの目ではコンタクトを取っており、そんな二人が一番楽しそうだった。
今日の遠足で得られたもの。
それは、こうして新たな友達の輪を広げることができたこと。
そして同時に、音洲さんの更なる魅力にも気付くことができた。
これから先のことなんて分からないけれど、それでも今日の遠足のおかげで俺は、とても大きなものを得ることができたと思う。
一人そんな納得をしていると、小山さんの奥に座る音洲さんが、こちらへじっと視線を送ってきていることに気付く。
何だろうと目を合わせると、ひょいひょいと指で自分のスマホを指している。
――スマホ? 見ろってことかな?
何だろうと自分のスマホを確認すると、一件のメッセージが届いていることに気付く。
それは、さきほどから続く光雄と小山さんのチャットコントではなく、音洲さん個人から送られてきたものだった――。
『南光くん、今日はありがとね!』
それは、音洲さんからの感謝の一言だった。
しかし、そうは言われても別に俺は何もしていない。
感謝される覚えがなければ、感謝したいのはこっちなのだから。
『こちらこそ、ありがとう』
だから俺も、ありがとうを返す。
そして送ってみて、俺は納得する。
別に感謝することに、明確な名目なんてなくてもいいのだと。
ただ一緒に、今日は一日遠足を楽しむことができたことに対するありがとう。
きっと音洲さんも、同じ気持ちで送ってくれたに違いない。
そんな納得とともに、俺はスマホから再び音洲さんへ視線を移す。
するとそこには、自分のスマホ画面をじっと見つめながら、少しだけ頬を赤らめている音洲さんの姿があった。
そして俺の視線に気が付くと、音洲さんは照れくさそうにこちらへ微笑んでくれる。
トクン――。
その微笑みを前にした途端、自分の胸が小さく弾んだことに気付く――。
女子から笑みを向けられることは、これまでの人生何度もあった。
けれど音洲さんには、他の子とは違う何かがある――。
そのことに気付いた俺は、少しだけ自分の頬に熱を帯びていることに気が付くのであった――。




