第12話 ハイキングスタート
全体での注意事項を軽く受けたあと、ハイキングがスタートする。
基本的に一組から順番にスタートすること以外は、特に何の指定も無かった。
その結果、案の定というか……俺達の班の周りには、他の班の人達の壁が出来上がっていた。
クラス順にスタートしているので、うちのクラスの班だけならば偶然だと思えたかもしれない。
けれど周りには、先にスタートしたはずの班の連中までいるため、これは明らかな俺か音洲さん目当てに違いない……。
こうした状況は、今始まったものでもない。
だから慣れたものではあるけれど、だからと言って気にならないわけではない。
自分だけならまだしろ、班のみんなにも迷惑がかかってしまうからだ。
どうしたものかと隣を向けば、目の合った音洲さんが苦笑いを向けてくる。
きっと音洲さんも、俺と似たような感情を抱いているのだろう。
一人ではないことに少しだけ安心感を覚えた俺は、同じく苦笑いを返すことしかできなかった。
似た者同士の音洲さんのおかげで、負担も半分。
こういう状況に陥ると、その有難みが身に染みてくる。
「うーん、案の定というか何と言うか、背後霊がすげーいなぁ」
「だねぇ……」
しかし、光雄と小山さんの二人は違った。
周囲の人達を背後霊と呼び、周囲を警戒してくれている。
「よし、みんな一回ストップしよう」
「ん? なんでだ?」
「いいから」
突然光雄が、謎の提案をしてくる。
意味が分からなかったが、小山さんはその意図を察しているのか面白そうに微笑みながら一緒に立ち止まったため、俺も音洲さんも二人に合わせて立ち止まった。
すると、さっきまで背後霊のように周囲に張り付いていた人達が、徐々に先へと進んで離れていく。
「よーし、全員行ったな」
周囲に人が居なくなったことを確認して、光雄が勝ち誇るように胸を張る。
つまり光雄は、こうなることを予測して立ち止まったのだ。
周りにいた彼らだって、明確に俺達のストーカーをするつもりだったわけではなく、ただ引き寄せられる形で周囲にいただけ。
だから俺達が、立ち止まることで意思表示をすれば、相手だって迷惑をかけまいと察してくれたというわけだ。
普段、囲まれる側である俺と音洲さんでは、そういう発想を持つことはできなかっただろう。
第三者目線の光雄や小山さんだからこそ気付けたその方法に、俺も音洲さんも素直に感心するしかなかった。
「ま、あんなについて来られたら楽しめないからな!」
「そうね! せっかくの遠足なんだし!」
気づけばすっかり意気投合している光雄と小山さんが、したり顔でハイタッチをする。
もしかするとこの二人、実は相性ピッタリなのかもしれないな。
「まぁここは、素直にありがとうだな」
「うん、そうだね! ありがとね!」
俺の言葉に、音洲さんも頷く。
嬉しそうに微笑む音洲さんのおかげで、自然と班のみんなの頬も緩んでしまう。
こうして背後霊もいなくなったことで、改めてハイキングを再開する。
さっきの一件のおかげで、スタート時よりも四人の距離が近付いたのは気のせいではないだろう。
「あ、おいあれ見ろよ! 変なキノコ生えてるぜ! 見た目派手だし、やっぱ毒キノコだよな?」
「そんなに気になるなら、食べて確かめてみたら?」
「え、何!? 小山さん殺す気!?」
道端のキノコ一つで、コントのようにおどける光雄と小山さん。
二人がバカしてくれるおかげで、俺も音洲さんも素直に笑ってしまう。
「二人とも、すっかり仲良しさんだね」
「そうだね」
じゃれ合う二人の後ろ姿を、一歩下がって見守っている俺と音洲さん。
「……いいなぁ」
しばらく歩いていると、音洲さんは小さく言葉を漏らす。
二人のことを羨ましそうに見つめながら、時折こちらをチラチラと見てきていることには俺も気付いている。
「ど、どうかした?」
「ふぇ!? あ、いや、何でもないですっ!」
気になって声をかけてみるも、慌てて何でもないという音洲さん。
そのオーバーな反応が、余計に何かあることを意味している感じがして、俺もどうしたものかと反応に困ってしまう。
「つーか、二人ってさ……」
「結構お似合い的な?」
すると、そんなお互いに困惑している俺達に向かって、光雄と小山さんの二人がいじってくる。
「ち、違うからぁ!」
「そうだ、変なこと言うな。さっさと先行くぞ」
気まずくなり誤魔化すも、光雄と小山さんは何か分かった風に顔を見合わせている。
俺達をいじる前に、お前達の方がよっぽどお似合いなんじゃないだろうか?
でも今ここでこれを言えば、小学生レベルの反論にしかならないため、今は黙っておくことにした。
そんなこんなで、ただ歩いているだけでも話題に尽きないハイキングも無事に中腹地点の広場へと到着する。
広場にはアスレチックも設置されており、全学年が集まっても十分な広さがあった。
というわけで、これからここで一時間ほど休憩時間となる。
ほぼ最後尾を歩いていた俺達は、周囲に見つからないようこっそりと人気の少ない方へ避難してきたため、スタート時のような混雑は無事回避できた。
まぁその結果、弁当を食べるのに適した場所とは少し言い難い、少し傾斜のかかった芝生の上で食事をとることになってしまったわけだが……。
それでも、誰かに見られている状態よりも、こっちの方が全然気楽で良いというのが班のみんなの総意だった。
「忍法! 隠れ身の術だねっ!!」
上手く傾斜を利用して隠れていることに、ニンニンと満足そうな音洲さん。
しかし残念ながら、音洲さん以外の三人は少し頭が見えてしまっているのだが、満足そうな音洲さんにそんな野暮なことを言う人は誰もいなかった。
というわけで、四人で並んでのランチタイム。
音洲さんは嬉しそうに、またチキチキの歌を歌っている。
だから恐らく、今日もお弁当箱にはチキチキボーンが入っているのだろう。
そんな音洲さんのおかげで、食事中も全員笑いが絶えることはなかった。
空を見上げれば、雲一つない快晴。
風に揺れる木々の葉音は心地よく、普段の生活では感じることのできない開放感に溢れている。
そして隣には、無邪気に微笑む音洲さんの姿。
それだけで、今日は来て良かったなと思える自分がいるのであった。




