第1話 難攻不落
「あ、南光くんおはよー!」
「わぁ! 南光くんだ!」
「きゃー! 今こっち見たー!」
同じ学校の女子達が、こちらを見て騒ぎ出す。
そんな女子達に向かって、俺はニッコリと微笑みながら「おはよう」と一言だけ挨拶を返す。
すると彼女達は、嬉しそうにまたキャーキャーとはしゃぎ出す。
まるで朝から、スーパースターにでもなった気分だ。
俺、南光輝は、自分で言うのもなんだがとにかくモテる。
百八十センチある高身長に、引き締まったモデル体型。
目鼻筋は通っており、日本人離れした顔立ち。
そんな、モテるという意味において色んなものを持って生まれてきてしまった俺は、中学に引き続き高校でも学校一のイケメンと呼ばれるようになっていた。
まぁそれは、俺としても名誉なことである。
単純な話、モテないよりはモテる方が絶対に良いに決まっているからだ。
……しかし、そうは言っても世の中全てがゼロとイチで別けられるわけではない。
過ぎたるは猶及ばざるが如し――。
毎日こうして周囲に騒がれるというのは、気を抜く暇がないというか、常に誰かしらに監視されているような感覚がして全く落ち着かないのである。
そして俺は、知っているのだ。
人気というのは、高ければ高いほど崩れた時の反動も大きくなるものだと――。
だからこそ俺は、自分の生活を守るためとある自分ルールを己に課している。
それは、『この高校での三年間、俺は絶対に恋をしないこと』だ。
仮に俺が、この学校の誰かと恋に落ち、そのまま付き合うことになったとしよう。
そうなればきっと、俺が誰かと付き合うことに対してよく思わない人も出てくるだろう。
その結果、自分に対して攻撃的な人だって出てくるかもしれない。
更に場合によっては、俺ではなく付き合う相手にだって矛先が向いてしまう危険性だってあるのだ。
まぁこんなもの、いくら何でも考え過ぎなだけで、ただの杞憂だろうと言われればそれまでかもしれない。
でも実際、根も葉もない勝手な噂話が独り歩きしたり、会話すらしたことのない自称彼女が現れたことだって過去に起きているのだ。
だからこそ、俺が本当に誰かと付き合う事になった時、身の回りで何が起きるのかなんて本当に分からないのである……。
そんな環境で生活をしていれば、俺自身の価値観も歪んでいく。
異性に対して何の興味もなくなったし、誰かと付き合うということに一切のメリットを感じない。
一言で言えば、俺はまだ高校生ながら随分と拗らせた性格になってしまっているのである。
だから俺は、選択する事自体を放棄する。
ただ声をかけてくる女子達に対して微笑み返し、周囲からキャーキャー言われる偶像。
それぐらいが、この世界における俺の存在価値として丁度良い。
人畜無害で、誰から見ても無難に良い奴。
誰とも付き合わないし、誰かに惚れたりはしない。
そんな、全てがベストポジションに収まり続けるために、今日も俺は自分ルールを守り続ける。
気が付けば、裏では『難攻不落の南光くん』だなんて呼ばれているようだが、そんなものは心底どうでも良い。
噂が広まって面倒ごとが減ってくれるのなら、むしろ大歓迎だ。
そんな俺も、今日から高校二年生になる。
一年の時とは違い、知った学校に知った同級生達。
もう不安や緊張はないから、仲良い奴らが同じクラスだったら良いなぐらいの気軽な気持ちで、俺はこれから一年間を過ごすことになる新たな教室へと向かうのであった。
◇
「どぅわぁあああ!? ゆ、ゆゆゆ、有名人だぁー!?」
二年三組。
新しいクラスに、驚きの声が木霊する──。
その声に振り向くと、そこにはこちらを見ながら驚いている女子が一人――。
ふわふわとした茶色の髪に、健康的な白い肌。
小柄ながらスタイルも良く、くりくりとした愛嬌のある目がチャームポイント。
そんな彼女を一言で言うならば、男の理想をそのまま体現したような存在。
だから俺でも、彼女の存在は知っている。
クラスの男子達が交わす『この学年で一番可愛い子は誰か論争』で、他のクラスながら常に優勝に輝いている存在――。
一年の頃から男子達の注目を集めている彼女が、新しい教室に入ってくるなり素っ頓狂な声を上げたなら、それはもう事件に等しい。
さっきまで賑わっていた教室内の注目が、一斉にこちらへ向けられる。
彼女は俺と同じく、この学校で名の知れた存在。
故に、彼女もまた俺と同じように裏では二つ名で呼ばれている――。
『絶対に落とす音洲さん』
誰が最初に言い出したのかは分からない。
それでも彼女、音洲姫花はみんなからそう呼ばれているのである。
曰く、彼女と交流を持ったが最後――。
彼女を知った全ての男は、必ず恋に落とされてしまうらしい――。
……いやいや、待て待て。
必ず恋に落とすって、どんな超能力だよって話だ。
俺の難攻不落ならまだ納得できなくもないが、絶対に落とすなんて難易度が桁違い過ぎる。
だから俺は、これまでそんな馬鹿げた話を信じることもなく適当に聞き流してきた。
……しかし、どうやら今日からはそうもいかなくなってしまったようだ。
何故ならこの新しい教室、音洲さんが俺の隣の席になってしまったからだ――。
ということで、ラブコメスタートです!
マイペースにはなりますが連載頑張りますので、ブックマークしてもらえると嬉しいです(`・ω・´)ゞ




