やっと見えた
道を見つけて一月ほど歩いてようやく人里らしき所が見えてきた。
まだまだ遠いが道の先に高い壁が見える。
きっとあの高い壁の向こう側に人里があるのだろう。
やっと人に会える。
喜びが心から溢れそうだ。
物々交換用のポイントはいっぱい貯めていたのだが道中でアーリのレベルを上げる為に使ってあまり残っていない。
追加のスキルもポイントを消費して覚えられると聞いたがそのポイントがレベル上げで尽きてしまった後に聞かされて思わず笑ってしまった。
一応、その追加に必要なポイントの一つ分だけでも頑張って草むしりで貯めたが草原でアーリが無双していたから新しいスキルを選ぶ必要性を感じなかった。
物々交換用のポイントとして運用しようと思う。
人里に近づくにつれ赤い草の割合が減り地面がむき出しになっていく。
それでも道があると分かるのはむき出しの地面に比べ道が綺麗に整備されているからだ。
石ころ一つも転がっていない平らな人工の道。
人が居る証拠だ。
やっと人に会える。
そう思うと足が軽くなったように感じる。
チヨコやアーリ以外にも人が居る事が何故だか無性に嬉しい。
もしかしたら寂しさでもあったかもしれない。
アーリは何も応えてくれないし、チヨコは聞けば話してはくれるが自分の聞きたい事はそう多くはなく、最近はアーリが取れるスキルを聞く事が多かった。
スキルのあまりの多さにほとんど覚えられなかったけど。
記憶があれば聞くべき疑問ももっとあっただろうが今の自分はその疑問に思う事も少ない。
そんか話題の幅の少なさに息苦しさを感じていた。
チヨコは頭上から降りて顔の近くに飛んでくる。
飛べるチヨコに空から壁の向こう側を見てきてもらっていたのだ。
「マスター、あの外壁の内側にこの世界の住人の存在を確認しました。
高いリソースを感じませんし、弱者のみだと判断します。
アーリをけしかけますか?」
望んでいた答えが返ってきて心が弾む。
チヨコの提案を拒否して少し早足で進む。
早く人に会いたい、その一心で。
「***!」
求めていた会話の一言目は怒声だった。
それも自分が理解できない言語で。
思わずびっくりして足を止めて壁の上層部を凝視してしまった。
石で造られている事や両開きの門だけ木材である事が分かる程に壁に近づくと壁の上から人影が現れ何かこちらに話している。
しかし、向こうが何を言っているか分からない。
これはどういう事かチヨコに尋ねた。
「マスター、貴方は神によってこの世界で活動ができる体を与えられました。
しかし、言語は一から学ばなければいけません」
聞いてないよ、そんな事。
やっと人と話せると思っていたが話せないと分かると軽かった足と心がいきなり重く感じた。
力が思うように入らずその場に座り込んでしまった。
チヨコと話せた時点でこの世界の住人と言葉が通じないなんて考えもしなかった。
チヨコにも彼らの言葉が分かるか聞いてみたが分からないようだ。
あぁ、だからチヨコは食糧を奪った方が早いと言っていたのか。
言葉が通じない相手にどうやって物々交換の交渉を持ち掛ければいいのだろうか?
しかも怒声を浴びせる相手に。
記憶があればどうにかできたのだろうか。
以前の自分ならこの可能性も考えていたのだろうか。
座り込んだまま似たような事を繰り返し考えてしまう。
今だに壁の方から声が聞こえるが何を言っているか分からない。
しかし時と状況はどんどん進んでいく。
壁の門が少し開けられ鎧を着た人が数人で近寄ってくる。
手に持った槍をこちらに向けた状態で。
「マスター、殺しますか?」
槍を見たとたん、考える事ができなくなった。
チヨコに尋ねられたが頭の中が真っ白で何も分からない。
槍の鋭い先端だけに視線が向く。
その槍が自分に突き刺さる物としか思えない。
下手に抵抗しない方が良いのか?
交換できる物を用意して待った方が良いのか?
それとも一目散に草原に逃げた方が良いのか?
答えが分からない。
その時、背後から影が勢いよく飛び出してまだ距離のある槍を構えた集団に突っ込んでいった。
影に対して集団は槍を突き刺そうと構えていた。
しかし影は突き出された槍を避け、その勢いのまま集団に近付き、そして人が飛んだ。
影が何をしたのか早くて分からない。
ただ結果として人が飛び、首が落ち、消えた。
影がアーリだと気付いた時には壁の外に居たのは自分とチヨコだけだった。
それと見覚えのある肉塊が一つ、地面に落ちていた。
消えたのは、ポイントになったのだろう。
道中の獣と同じようにアーリが倒して。
壁から出てきた槍の集団は全滅し、アーリは閉まりそうになった門にするりと潜り込んでいった。
「マスター、アーリが彼らを敵だと判断しました」
怒号と悲鳴が壁の向かう側から聞こえるなか、チヨコが近くに寄って囁く。
「戦いが始まりました。
感じられるリソース量からアーリが勝つと予想されます」
チヨコの声に熱を感じない。
感情が読み取れない。
淡々と少し先の未来を話す。
「蟲娘は相手が全滅するまで止まりません。
数は多いですから時間がかかりそうです」
言葉が通じなかった。
争いが起きてしまった。
人と関わりたかっただけなのに。
人と話す事ができなかった。
「ポイントがどんどん貯まっていきます。
この数ならばレベルも期待できます」
先程と変わって嬉しそうなチヨコの言葉に自分の役目をはたと思い出す。
世界を壊す。
これからさき、同じような事を繰り返していく。
人を殺して、命を奪って、世界を壊す。
以前の自分が何故、こんな事に同意したのか分からない。
分かりたく、ない。
でも、それでもこのままじゃダメだ。
言葉を知ればもしかしたら今後は違う手を取れるかもしれない。
言葉を教えてくれる相手が居るうちに自分にできる事を。
まずは壁の向こう側が全滅する前に何か手をうたないといけない。
チヨコに教えられたスキルでなにか。
かろうじて思い出せたスキルをチヨコに伝える。
「マスター、そのスキルを追加しますか?」




