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ランクチェス王記  作者: 北川 零
第一章 ヨハン親王
96/113

中央広場⑵

「なぜヘンサー陛下が君を共同統治王に選んだのか、私には理解できない。たとえ息子が君であっても、もっと適任者はいたはずだ。私の目には、向かいのジョンの方が君よりましに見える。君は自分自身と向き合えないのだから。ましてや兄のヘックは、君よりはるかに手腕が優れている」


「ヘック兄も私と同じように民衆を守ってくれると信じています!」


「いや、彼はそうしない。彼は善悪を明確に見分ける者だ。だがお前にはそれができない」


ホブムの言葉にヘンロは言葉を失った。彼はヘックが戦場に立つ姿を直接見たことがなく、ただ無敵の兄として、その優しい一面だけを見てきたのだ


「ヘック…兄さん…」


「お前の独断専行は事態を遅らせるだけだ。早く片付けると言ったのはお前自身だ。俺はただお前の意向に従っただけだ。本来なら三ヶ月もあれば、彼らは自発的に降伏するか、簡単に撃破できたはずだ。だが今、最大の障害はお前自身だ。偽善者め」


「私…ただ…」


「敵となった民衆を守りたいだけか? それが君が善悪をわきまえない最も明白な証拠だ。無実だが、彼らは君の敵だ。邪魔をしている。だから排除すべきだ」


一つ一つの言葉が彼の思考を打ち砕き、行動を裁いた。自らを阻むのは他ならぬ自分自身。これは重大な過ちだ。自分の考えが理解できない

彼らは空の異変に気づいていなかった。光輪は考えが変わった瞬間に現れた。空の静けさは奇妙に思えたが、彼らにとっては些細な出来事だった

ヘンロは呆然と黒衣の王の前に立ち、自分を叱責する人物を見上げていた。王は万能ではない。考えが浅く、能力不足で、なおかつ純真な理想を抱く人間に過ぎなかった

黒衣の王を前にして彼は声を上げられなかった。まるで父親を前にしたかのようだった。父親はただ黙り込むだけだったが、ホブムはその純真さを打ち砕いた。空に輝く一点一点の光は彼の理想のようだった。微小ながらも常に輝き続けていた

黒衣の王は彼の体を敵の方向へ向け、ジョン兵士たちが何をしているのか見せた


「見ただろうか、戦場には慈悲など存在しない。彼らは戦友の死体でしか防御を築けなかった。彼らに躊躇いはあったか?哀れみはあったか?確かにあった。だが彼らは不要な感情を押し殺したのだ」


ジョン軍は慌てて死体を積み上げて防御を築いていた。その死体の一つ一つが黒衣軍に殺された者たちだ。ヘンロと彼の弟がいたからこそ、これほどの犠牲が出たのだ。


「ジョンもあなたのためではなかったのか? あなたに不満があったからこそ反旗を翻したのだ、そうだろう、陛下」


ヘンロの瞳はほとんど光を失っていた。一つ一つの死体は運ばれていく。これが現実の「理想」であり、実は最も見たかった光景だ。敵がこれほど多くの死者を出したのだから、喜ぶべきだろう。

その中には民間人、ジョン軍、女性も混じっている。彼らもかつては臣民ではなかったか。ただ「強制的に」反乱を起こしただけなのだ。


「…死体の壁」ヘンロは震えながら言った。


「その通りだ。我々は再び彼らの死体を踏み潰す。たとえ彼らが天に昇った後でもな」


空はすでに深く暗くなっていた。空の異常のため正確な時刻は判別できず、ただ夕暮れ時であることだけが推測できた

黒衣軍の兵士たちはそわそわと動き出していた。殺戮の快感か、それとも早くこの戦いを終わらせたいのか、彼らは欲望に満ちており、手にした剣はとっくに城塞を向いていた。


「ホブム!もう遅い。夜間のこの地形での戦闘は我々に不利だ。ここで夜明けを待とう」


カトはホブムに大声で呼びかけ、自身の提案を述べた。それはヘンロを窮地から救うためでもあった。崩壊寸前だと悟り、今や一言一言が彼を崖へ突き落とすように感じられた


「カト、この頑固な陛下のお世話を頼む。彼がいなければ我々は『休息』できないからな」

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