作戦室(2)
ジョンは眉をひそめて目を閉じ、口の中でぶつぶつと呟き続けた。まるで何かを呪っているかのようだった。
ローが城の構造図を広げると、ジョンはかすかな気配を感じて疲れた目を開けた。目の前の図面とローの姿――これは元ソドリン城の城主から入手したもので、全ての出口と隠し通路が記されていた。
「さっきどこに行ってたんだ?こんな大事な時にそばにいないなんて、君らしくないぞ」
ジョンの口調には皮肉が混じり、おそらく叱責と、ロがさっき何をしていたのかへの好奇心が入り混じっていた
「すまない、地下牢で設計図を取ってきた」
「それで?この書類に何の意味がある?何日もここにいれば、これらの位置はとっくに把握しているはずだ。今解決すべきは中央広場の敵軍だ」
ローは黙って図面を見つめ、何も言わず、持ってきた目的も説明しなかった。
これにジョンは不審に思い、城の構造図を注意深く観察した。図面には丸で囲まれた位置があり、彼は目を見開き、疑問から怒りに変わり、羅を睨みつけた。
「ここに丸印をつけたのは、俺に逃げろってことか?ロー?えっ!?まさか俺に逃げるよう指示したのか?」
図面の丸印は全て隠し通路を示しており、中には崖の洞窟へ通じるものや、砂浜へ続く道もあり、船で脱出できるルートもあった。
「殿下…お逃げください。道中、私が護衛いたします」
傍らの兵士たちはジョンが怒りに震える危険な気配を感じ取り、巻き込まれないよう二人から距離を取った
「ロ、よくも逃げるなんて言えたな!兄貴のあのクズ野郎、もう目の前にいるんだぞ!俺が殺してやるだけだ!!」
「殿下、もうお相手にはお見えになりません。これは仕方のないこと…」
ジョンは激昂して反論し、前線の方角を指さすと短剣を抜き、図面に激しく突き刺した
「あのクズはこの城にいる!俺が殺せないわけがない!あいつは明らかに!役立たずだ!王位に就くことなど絶対にありえない!あの老いぼれも頭が狂ってる!王になるべきは俺だ!あのジジイはとっくに退位すべきだった!」
「では、殿下がおそれほど不満なら、なぜヘンロ王が即位するまで待って反乱を起こしたのですか?もっと早くヘンサー陛下を倒す計画を立てるべきではなかったのですか?」
「そ、それは…まだ準備中だったんだ!ところで、ロー、お前はすごいな!ついに俺に口答えするようになったか!」
ローは恭しく跪き、ジョンへの失礼を詫びたが、それでもそっとジョンの手を握り、真摯な眼差しで彼を見つめた。それはジョンの心を侵すためではなく、ただ考えを伝えるためだった。
「殿下、誠に申し訳ございません。しかし我々は敵の戦力を過小評価しておりました。黒衣の王の支援は全くの予想外でした」
ジョンは沈んだ表情で、今となっては認めざるを得なかった。この予想外の事態とは悪魔の支援、忌々しい黒衣軍が全てを台無しにしたのだと。
「まさか外部の援軍を呼ぶとは…自分が役立たずだと知って黒衣王を呼んだのか…くそっ!くそっ!」
「…殿下、これは取り返しのつかない事態です。私は船を準備しました。脱出が可能です…」
ジョンはこれを聞くと、即座にロの頬を平手打ちした。不満と怒りがこの一撃に込められていた。衰弱した彼が全力を振り絞った一撃だった。
しかしローの顔には何の痕も残らなかった。彼にとってはかゆい程度の一撃に過ぎない。だが彼はこれがジョンの限界だと理解していた。今の感情の表れだと。
「お前はとっくにこいつらを準備してたんだろ?船なんて急に用意できるものじゃない。ここに来る前から準備してたのか?まさか俺が勝てないと思ってたのか?」
ジョンの腕がロの首を締め上げ、ロは怒りに燃えるジョンの瞳を直視しながら問い詰めた。
「最初から準備してたんだ。出発する時から…」
「ロー!!!お前は黒衣軍が来れば俺が負けると思ったんじゃない、あのクズ相手でも負けると思ったんだろ!なぜ俺に逃げ道を用意する資格があるんだ!」
ローの目は細く、決してジョンから離さず見つめ続けた。だがそれこそがジョンをさらに怒らせた。ローは反省などしておらず、ただひたすら背後に隠れて責任を果たそうとしているだけだった。




