追い払う
「…お前も、行け。もうここにいるべきじゃない」
カオは一瞬躊躇し、呆然とした。これでジョンへの裏切りになるが、自分はまだ軍の一員だと感じていた。ましてや親友が戦場で命を懸けているのだから
「いや…あの子たちには、身を守る武器を渡した。俺がここに残るべきだ。今すぐ前線に向かう。戦死すれば贖罪になる。戻ってきたら軍法会議で処刑してくれ」
異様に真剣な眼差しでローを見つめ、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。しかしローは動じなかった。カオの精神はローの目には虚ろで、彼はすでに「大罪」を犯していたのだ。
「お前は戦場にも城にもいられない。今やお前は裏切り者だ。軍隊はお前を受け入れられない。去れ…」
「たとえそれが自分のためでも、贖罪のためでも、行く!」
カオは全く説得されず、かつての殺し屋時代の凶暴な眼差しを浮かべた。左拳を握りしめ、カオの腹部に力一杯打ち込んだ。カオは苦痛に腹を押さえ、よだれを垂らした。
「な…な…ぜ…だ…か…」
痛みにカオはほとんど言葉が出ず、口から漏れるのは断片的な呻きだけだった。
「すまない、お前は行かねばならない。ここはもうお前の居場所じゃない。お前が手に入れたからな。戦争は失敗する運命だが、それでも続けねばならない。こんな乱暴なやり方で申し訳ない。お前の善意が真の善か何かはわからないが、お前は善良な裏切り者だ。これはお前の『正しい』判断への敬意であり、私の恩返しでもある。ここまでの協力、ありがとう」
「せ…せき…せきせき…理解できない…せきせき…なぜ俺を追い出すんだ…」
ローはカオを支え起こし、深い闇の通路へと導いた。それは生存への道だった。
カオは全く抵抗できず、ただローに連れ出されるままだった。暗闇の道でもローははっきりと見通し、正確に城外の密林へと導き、子供たちの元へ託した。
子供たちはカオの苦しむ姿を見て、どうすればいいのかわからなかった。羅は女の子たちに傷を癒す薬草を渡し、使い方を説明すると、再び暗路へと戻り、城に戻ってジョンを守るつもりだった。
一人の少年が羅に向かって罵声を浴びせ、なぜカオをそんなに痛めつけたのかと詰め寄った。羅は淡々と言った。
「善意の償い…生き延びろ… もう一度、もしできるなら…」
「悪い奴!カオ兄ちゃんをそんな風に殴るなんて!お前は最低の悪党だ!!!」
罵声を浴びせられ、ローは足を止めた。しかし怒りは湧かなかった。反論は無意味だ。それにその言葉は正しかった。彼は確かに悪党だった。ジョンにとってそうであり、カオにとってもそうだった
実際、羅は手加減していた。カオがあれほど痛がっているように見えても、カオ自身も深く理解していた。打撃が皮膚に触れた瞬間、衝撃は明らかに弱まり、その拳の真のダメージは与えられていなかったのだ
「…ロー…」
ローの背中は次第に暗くなり、この地下通路を完全に閉ざした。重厚な石の扉が閉まり、もはや城内へは戻れなくなった。
カオは「追放」された。体裁も顧みず追い出されたのだ。




