邪の黒袍
ジョンは壁にもたれかかりながら、城の塔をゆっくりと降りていった。ローに支えられ、一歩一歩下りていく。重厚な鎧が骨と皮だけの体を覆っているが、もはや戦場に戻ることは叶わない。
「ロー、捕まえた奴ら、訓練終わって解放したか?役立たずのクズども…まあいい、今の俺の方が彼らよりクズかもしれない…」
自らの無力感が全身を覆い尽くす。外からは兵士たちの足音と武器がぶつかり合う音が響いてくる。
「殿下、彼らは武器を手にしています…ただ…皆、やる気がないようです…恐れているのでしょう」
「…それも無理はない。彼らは死に行くのだ。強制されているのだから当然だ。勝利のためには重要な戦力となる。これはあの役立たずの兄貴への贈り物だ。その慈悲深さは捨てろ」
城の広場に降り立つと、将兵たちが既に待機していた。ジョンはかつてのような威厳を見せねばならない。ローの支えを振り払い、絞首台のある木製の台へと歩み寄った。静かに吊るされたのは抵抗した男性で、ジョンより少し年上だった
全ての視線が彼に注がれていた。兵士たちの背後には戦場に連行された民衆もおり、怒りと恐怖に満ちた目で見ていたが、声を上げることはできず、粗末な武器を手にしていた。
「ヘンローがついに攻めてきた。お前たちは私の忠実な部下だ。ただの飯食いの役立たずどもだが、必ず勝利せよ。勝たねば我々は敗れ、皆死ぬ。全力を尽くしてあの連中を打ち倒せ!目の前の障害を掃討し、私を王の道へ導け!行け!兵士たちよ!民衆よ!」
ジョンの言葉には彼らへの不満がにじんでいた。暴力的な言葉ではあったが、恐怖が彼らの生存本能を呼び覚ました。死にたくないという生存本能、愛する者への生存本能、もがき苦しむ生存本能
「はい!承知しました!」
兵士も民衆も次々と城門へ向かって歩き出した。圧倒的な軍勢を前に、彼らには厚い城壁と、生き延びたいという渇望、そして発散する場所のない怒りがあった。
それぞれの理想を背負った戦いが始まった――
ヘンロは攻撃命令を下そうとしていたが、黒衣の王の軍勢はとっくに突撃を開始していた。
「トカ様、側面はご担当ください。我々は従来通りの戦術で…?矢が飛んできた!」
城壁の上で兵士たちが火のついた矢を敵軍に向けて放つ。黒衣の王は全く恐れることなく、盾で防ぐよう命じた。盾は全て金属製で、隊列を組んで盾を箱のようにして前進したため、炎は彼らに効かなかった。
ヘンロは衝撃を受けた。そんな戦術は考えたこともなければ、兵士が火矢で防御するとも予想していなかった。今後の行動に不安を覚え、何が起こるか分からない
「ヘンロ陛下、お恐れになる必要はありません。黒衣の王は数多の戦いを経験した者。王国の名将と比べものになりません」
カトの慰めはヘンロの心を少し和らげたが、ほんのわずかに過ぎなかった。自らの未熟さを痛感し、貴族たちが彼に従わないのには理由があると悟った。戦略の差があまりにも大きすぎたのだ。
このままではいけない、そう心に誓った。前方には暗闇が広がっているが、約束された道でもある。虐殺に満ちた道だ。
「そうだ…そうだ…お前の言う通りだ!さあ!将兵たちよ!進め!攻めよ!謀反の者どもを皆殺しにせよ!戦いは必ず我々の勝利だ!」
兵士たちの士気を高揚させる叫びが響き渡る。騎馬の将校もいれば、城壁へ駆け上がる歩兵もいた。彼らは必ず勝利すると信じていた。忠誠心から来る者はどれほどいたか、おそらく大半は自らの栄誉を求めていただけだろう。だが、それで十分だった。
ヨハネの兵士たちは城門で抵抗し、石で門の開放を阻んだ。しかし将軍の軍勢は攻城兵器を用い、幾度も激突させた。その衝撃は地面を震わせ、瞬く間に城門は打ち破られた。門全体が地面に倒れ、ヨハネ側の兵士や民衆を押し潰した。門の重みが彼らを血肉混じりに押しつぶし、見るに堪えない惨状となった
軍は死体を踏み越えて進撃を続け、戦場では武器の衝突音が絶え間なく響いた。しかし、捕らえられた一般市民は黒衣の王の軍隊に全く敵わず、容赦なく皆殺しにされた。
残された女性たちは慌てて逃げ惑い、子供を連れた者たちは隅に身を潜めて震えながら身を隠すしかなかった。無防備な彼らは、この戦争の犠牲となるしかなかった。




