赦免
ナクトはテントの外へ出た。昨日彼を嘲笑っていた貴族たちが、彼の自由な姿を見て驚きと動揺の表情を浮かべ、指をさして囁き合った。
「お、お前…どうして陛下のテントから出てくるんだ?お前、罰を受けているんじゃなかったのか?」
「はい、確かに罰を受けました。」
「それならどうして陛下のテントに入れるんだ?これは大逆不道だ!必ず陛下に告げるぞ。その時はお前が大変なことになるからな!」
その傲慢な貴族は不敵な笑みを浮かべ、ナクトを嘲り続けた。しかし、彼がなぜナクトが罰を受けずに済んでいるのかを考えたことはなかったのだろう。
「何を笑ってるんだ、ヴィード男爵?」
ヘンローがテントから出てきて、鋭い目でその貴族を睨んだ。手に佩剣を握り、まるで敵を前にしているかのように振る舞い、口調も険しかった。
「陛、陛下!?彼があなたのテントから出てきたのは…彼は…」
その貴族はヘンローを見るとすぐに態度を軟化させ、剣の刃の輝きに気圧されて息をすることもできず、体が震えていた。
「哦、昨日はただの誤解だった。ナクトには何の問題もない。それで、ヴィード男爵、何かまだ言いたいことがあるか?」
「い、いえ…誤解なら問題ありません。では、陛下、失礼します!」
彼は慌ててヘンローに礼をし、恐れおののいた表情で立ち去った。しかし、ナクトが彼を呼び止めると、足を止め、不安そうに振り返った。
「他、ほかにも何か…?」
ナクトは彼に何かを差し出した。それはさっき落とした家徽で、白銀で作られ、「栄光と忠誠」の文字が刻まれていた。
「大人、落とし物です。これはあなたのですね。」
「はい…ありがとう…」
その貴族が遠ざかる姿と、ナクトの微笑みを眺めながら、ヘンローは静かにナクトを見つめた。やがてそれに気づかれた。
二人はしばらく見つめ合い、ようやくナクトが口を開いた。
「殿下…なんでそんなに見てるんですか?顔に何か付いてますか?」
「あいつがお前にそんな態度を取ったのに、なぜ拾ったものを返すんだ?そのまま捨てておけばいい。礼儀正しく返す必要はないだろ。」
ヘンローは再び貴族たちへの不満をぶちまけたが、ナクトは軽く首を振るだけで、微笑みを浮かべたままだった。
「彼らは殿下のこれからの軍力です。こんな態度を取れば不服従になるかもしれません。」
「…そんな奴はいらないよ…」
彼はそう言い、顔に不満を隠さず、まるで殺意を宿したような恐ろしい表情を浮かべていた。
ナクトはヘンローのその姿を見て、慰めるように言った。
「大丈夫ですよ。こんなことでこれからの仕事に影響を与えないでください。僕、気にしていませんから。」
「お前って…本当に救いようがないな。」
ヘンローは呆れたように彼を見た。怒っているわけではなく、ただナクトがあまりにも良い人すぎて、何でも受け入れてしまう性格に呆れているだけだ。きっとナクト以外にそんな人間はいないだろう。




