戦争の陽
陰雨が降り続いており、この平定戦の中で、誰もが悲しみの先へ逃れることはできない。 朝陽は昇らず、空は灰色に覆われている。どうやら天は双方に慈悲も幸運も与えていないようだ。 もしかすると、この戦場はすでに運命づけられているのかもしれない。風が城と陣営を吹き抜け、湿り気と粘り気のある感覚をもたらす。
ヘンローはすでに攻城の準備を始めていた。彼は自らの鎧を着込んでおり、外では兵士たちが出発の準備に追われている。 ナクトは彼に鎧を着せる手伝いをしているが、その手はまだ赤く腫れて、焼けるような刺痛が残っていた。
「殿下、本当に俺を連れて行かなくていいんですか…」
「もう言っただろ、連れて行かない。昨日お前がそんな状態になったんだ。行けねえ。後方で支援してくれ。」
ヘンローはきっぱりと言い切り、一切の妥協を許さなかった。いや、これは命令だ。ナクトに後方を任せることで、彼は前線でより安心して戦える。
「はい、了解しました…」
ナクトは少し落ち込んだ様子だったが、余計なことは言わなかった。昨日ヘンローを怒らせてしまったので、もう発言権はないと感じていた。 だが、ヘンローが後方で支援させるのは、彼があまり辛い思いをしないようにするためであり、また彼を信頼しているからでもある。
テントの外から誰かが入ってきた。鎧を着込んだカトだった。彼の顔にはわずかな笑みが浮かんでおり、二人を見る目にはどこか奇妙な感じがあった。
「カト大人、どうしてここへ?外の兵士は準備できましたか?」
「もちろんさ。陛下が初めて戦うんだから、準備を怠るわけにはいかないだろ。でないと、俺も懲罰を受けちゃうかもしれない。ナクト大人みたいにね。」
ヘンローはその言葉を聞いて少し怒ったようだったが、衝動的に動くことはせず、こう反論した。
「カト大人、それはおっしゃりにならない。ナクトは今、懲罰を受けているわけじゃない。昨日のことはただの誤解だ。こう言う必要はない。彼はまだ俺の従者だ。」
さらに続けるつもりだったが、ナクトがそれを制止した。彼は顔を赤らめて言った。
「殿下…もうやめてください。カト大人は最初に気づいたんです。昨日、俺が演技してるって見抜いてました…」
「…なんで早く言わなかった!これは…カト大人、申し訳ありません…」
カトは慌てて手を振って、恐縮した様子で言った。
「いやいや!冗談だよ、そんなことはいい。そろそろ出発の時間だ。将軍も城外に着いてるはずだ。」
「じゃあ、出発だ。指揮官たちを起こして、寝てるんじゃない、早く起きてこいと伝えてくれ。」
「俺が行くよ。ほんと、どの貴族もナクト大人みたいに勤勉じゃないな。」
「彼は俺の最も忠実な従者だ。そいつらと一緒にするな。」
ナクトは後ろでその会話を聞いて、口元が自然と上がった。きっとそう言われて嬉しいんだろう。 カトは後ろでこっそり笑うナクトを見て、前に真剣な顔のヘンローを眺め、ついに我慢できずに笑い出した。
「カト大人、なんでまた急に笑うんだ?何かおかしいことでもあったのか?」
「いや、ただお前たちってすごくお似合いだなって。」
彼は笑いながらテントを出て行き、呆然とする二人を残した。カトが何を考えて馬鹿げたことを言ってるのか、わからない。
「この人、妙ちきりんな奴だな。ホブムがなんでカトを副官にしたのか、性格的に合わない気がする…」
ヘンローはつぶやいたが、深くは考えなかった。今目の前にあるのは、ソードリンを攻略することだ。
外ではまだ細かい雨が降っていた。ナクトはレインコートを取り出してヘンローの肩にかけさせた。
「殿下、外はまだ雨が降ってます。体を濡らさないで…」
「お前がそんなこと俺に言うなんて、ナクト。反省しろよ。」
「はい…」




