悲しみの城を離れる
「…北漢若へ…今夜すぐに出発する…レフ宮へ行く…」
「陛下に報告した方がいいでしょうか…?」
「なぜあいつがあんな風にお前を扱ったのに、まだ報告しろなんて言うんだ?」
彼のこの愚かな忠誠は、どう見ても腹立たしい。彼はあの悪魔を憎むべきなのに、怨み一つ抱いていない。
でも、そんなことはもうどうでもいい。早くここから離れよう。この嫌いな男を連れて行くだけだ。少なくともあの動く彫刻よりはマシだ。でも、もしかしたら…罪悪感からかもしれない。
「…では、俺が使用人に準備をさせます。殿下は少し休んでください…」
休むべきなのはお前の方だろ…。
彼は部屋を出て行き、またこの部屋には俺一人だけが残された。外はもう夜だろう。やっぱりこの光は嫌いだ。日光も月光も、全部嫌いだ。
外に出ると、誰もいなかった。ただ静かな廊下が広がっているだけ。床の血はもう綺麗に掃除されていた。王宮の使用人は本当に仕事が早い。以前よりずっと清潔に感じる。でも、なぜか体に力が入らない。彼の手を握り、ゆっくり歩くしかなかった。なぜ俺たちはこんな惨めな姿で廊下を歩いているんだ?
二人とも「傷」を負った人間なのか?使用人たちはもういない。寝に行ったんだろう。あの悪魔は何をしているんだ?知らないし、知りたくもない。この道、めっちゃ長いな…。
「もう…歩けない…体がふらふらだ…ちょっと止まるぞ。」
体がこんなに弱っているなんて、気づかなかった。本当にゴミみたいな体だ。
「はっ!何やってんだ!」
反応する間もなく、彼は俺を抱き上げた。体全体を持ち上げられた。最初は驚きだったが、すぐに怒りに変わり、彼の肩を叩いた。
「何やってるんだ!こんなことして何のつもりだ!無礼だぞ、わかってるのか!?」
「殿下もこの場所にこれ以上いたくないはずです。それに、こうすれば歩かなくていい…」
彼は俺を抱いたままゆっくりと歩き出した。この体で本当に支えられるのか?服越しでも彼の傷の深さが伝わってくる。足の傷もまだ治っていない。こんな状態で抱くのは相当辛いはずだ。
「お前、バカか?足を捻挫してるだろ!こんな風に抱いて、俺が落ちたらどうするんだ!早く下ろせ!」
彼の腕の中で抜け出そうともがいたが、こんなことをしたら本当に彼がバランスを崩して倒れるかもしれない。そうなれば彼の傷はさらにひどくなり、俺も地面に落ちる。だから、彼の襟をつかんで叫ぶしかなかった。
「もし落ちたら、絶対にお前を殴るぞ!どんなに痛がっても殴るからな!だから早く下ろせ!」
「殿下、この程度の痛みに耐えられなくてどうやってあなたのそばにいられるんですか。馬車まで運びます…」
彼の考えが理解できない。痛みを堪えてまで俺を抱いて歩く。俺を楽にさせるために、こんなにも尽くすのか…。
彼は貴族の従者というより、まるで奴隷のようだ。最初からそうだったのかもしれない。ただ、俺が気づかなかっただけだ。ずっと彼を優しい善人だと思っていた。
俺はそれ以上何も言わず、ただ眉をひそめて彼を睨んだ。俺は彼を嫌ってもいい。殴ってもいい。あの悪魔のよう に彼を苦しめてもいい。でも、どんなことをしても彼は俺のそばにいるだろう。
この宮殿を離れる。でも、依然として縛られている。




