「奴」の礼服
どれくらい時間が経ったかわからないが、彼は薄いスープの入った碗を持って戻ってきた。細かく刻まれた野菜が少し浮かんでいて、匂いはほとんどしない。単純に煮ただけのものらしく、さっきの料理のような精緻さや美しさはない。
「このスープは何だ…?」
俺は嫌そうに尋ねた。見た目からして美味そうじゃない。飲み込めるかどうかもわからない。もしこのスープで吐いたら、絶対に彼をますます嫌いになる。
「これは俺が作ったものです。野菜が少しあったので、薄味の野菜スープにしました。殿下なら食べやすいかもしれません…」
彼はスープの碗を持ち、まるで奴隷のようだった。虐待された奴隷だ。気性の荒い領主に狂ったように鞭打たれ、ただ黙って耐えるような人間の姿。
スプーンでスープをかき混ぜ、軽く吹いて熱さを和らげた。彼は不器用に膝をつき、スープを俺の口元に差し出した。その姿が、なぜか優しく、安心感を与えるものに感じられた。
「殿下、もう熱くありません。飲めますよ。」
「…もしまた吐いたら、絶対にお前を殴るぞ。こんな姿でもな…」
軽く一口飲んでみた。確かに薄味で、ほとんど味はないが、ほのかな甘みがあった。温かいスープが焼けた喉を潤し、細かく刻まれた野菜は噛まずに飲み込めた。
だが、しばらくすると吐き気がした。それでも、さっきほど強くはない。我慢できる程度だ。細かく刻まれた野菜のおかげで、体が気づきにくいのかもしれない。
「殿下、どうですか…?まだ吐きそうですか?」
「まぁ…悪くない…お前、いいスープを作ったな…でも、その姿は気持ち悪い。早く服を着ろ。」
「はい!」
彼は俺にわずかに微笑んだ。こんな俺を見て喜んでいるのか?冗談じゃない。今の俺は歪んだ不満と吐き気を抱えている。やっぱり情けをかけるべきじゃなかった。一緒に消えてしまえば…。
俺は彼に衣装部屋から服を取ってくるよう命じた。それはかつて彼のために用意したものだ。彼の誕生日を祝うために。まだ何も経験していなかったあの頃は、なんて純真だったんだ。
それは濃紺の礼服で、貴族の最高規格で作られたものだ。今、彼が傷だらけの体でそれを着ると、まるで場違いだ。血が服にまで染みつき、着るのも苦労している。服が肌に触れるたびに痛みが走るらしく、慎重に着なければならなかった。
着終わった瞬間、彼は昔の彼に戻ったようだった。傷を隠し、そばにいるだけで安心感を与えるロー。
彼の傷は隠れたが、俺はまだ血にまみれた白い礼服を着ている。ナイシャへの執着を抱きながら、なんて皮肉なんだ。
「う…」
奇妙な声を上げたので見ると、彼が靴を履こうとしていた。だが、足の捻挫で履けず、ゆっくりと足を入れようとしている。見ていて本当に辛そうだ。
「やめろ。靴はまだ履かなくていい。そんな姿で履くのは見ていて辛い…」
「はい…申し訳ありません…」
やっぱり傷を隠すだけの手段だ。見えなくても痛みは消えない。見た目を華やかにするだけの無意味な偽装だ。でも、少なくとも奴隷のような姿ではなくなった。
彼の足は靴下だけ履き、他の靴を履かせることもできない。このまま地面に立つしかない。そもそも、今の彼の足に靴を履かせるのは傷を悪化させるだけだ。




