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ランクチェス王記  作者: 北川 零
第一章 ヨハン親王
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自ら望む刑罰(7)

ヘンリーはナクトを支えながら慎重に自分の帳篷に戻った。びしょ濡れの体はヘンリーの寝床に横たわり、弱々しく息をついていた。


「服を脱いで。」


ヘンリーがそう言うと、ナクトは命令に従うように素直に服を脱いだ。白く清潔な体が露わになったが、暖かであるはずの体は雪が降るように冷たかった。


乾いたタオルがなかったため、ヘンリーは自分の服を使ってナクトの体を拭いた。力強く、慣れない手つきで、肌に少し違和感を与えたが、それでも、いつも世話をされる側の王が、逆に自分の従者を世話しているのだ。


「殿下、もう少し優しくしてもらえますか…」


「え、じゃあ、もっと軽くするよ。」


ヘンリーは力を少し弱め、ナクトの水で濡れて冷たい体を拭いた。そばで蝋燭が燃え、帳篷にヘンリーの影を映し出し、それは安心感を与えるものだった。


「お前…計画を立てる前に俺に話してくれ。こんな風に、目的を言わずに勝手に進めるな…」


「すみませんでした…」


ヘンリーの口調は厳しく、どこか怒っているようだった。彼はナクトが一人で苦しむのを好まなかった。


「ちゃんと俺に話してくれればいいだろ。俺だって他の方法を考えただろう。なんでお前が一人で全部背負うんだ…」


「すみませんでした…賢い方法じゃないかもしれないけど…今はこれが一番効果的だったんです…」


ナクトは頭をそらし、苦しそうで怒っているヘンリーの顔を見ないようにした。それでも、ヘンリーは我慢強く彼の体を拭き続けた。


「痛かっただろ…手…」


ナクトの手首には深い赤い痕が残っていた。縄で締め付けられ、さっきの挣扎で皮膚が擦れてわずかに血が滲んでいた。ヘンリーは慎重に彼の手を上げ、そっと水分を拭き取った後、包帯を巻いた。


「ただの小さな傷です。気にしないでください…」


「…これは俺の問題だ。お前が一人で苦しんで耐えるべきじゃない…」


ナクトは壁に映る影を見つめるしかなかった。彼は自分の痛みに慣れていた。ヘンリーに見えない片隅で、苦しみや軽蔑を受けても一言も発さなかった。今回のように、ヘンリーの前で直接「苦難」をさらすのは珍しいことだった。


「すみませんでした…でも、あなたは今、王だから…」


「ナクト!俺を見て!」


ヘンリーの怒った声に驚いたナクトは、思わず彼の方に顔を向けた。その顔は怒りに満ちていたが、どこか心痛と悲しみに満ち、ナクトのために心を痛め、罪悪感を抱いていた。そんな姿を見て、ナクトは少し慌てた。


「ヘン…リー…?」


「お前はもう一人で耐えるべきじゃない。こんな苦しいことを。俺が王だからこそ、お前にこんなことをさせてはいけないんだ。」


「すみませんでした…俺…」


ナクトがさらに何か言おうとした瞬間、ヘンリーに遮られた。


「ナクト、もう謝るな…」


「はい…」


ナクトの体を拭き終えた後、ヘンリーは乾いた服を取り出した。それはヘンリー自身の寝間着で、王家の紋章が付いていたが、それをそのままナクトに着せた。


「え…ヘンリー、これ…俺が着るんですか?」


「うん、早く着なよ。じゃないと風邪ひくぞ。こんな弱ってる状態なんだから。」


「わかりました…」


柔らかい寝間着を着たが、ナクトには少し小さく、思ったほどフィットしなかった。


ヘンリーはナクトに似合わない寝間着を見て、しばらく黙った。


「もう俺より背が高くなったんだな。気づかなかった…とりあえず、濡れた寝具を交換して、寝よう。」


「え?俺たち?」


ナクトは「俺たち」という言葉に一瞬驚き、尋ねた。


「ヘンリー、俺たち一緒に寝るんですか?」


「そうだよ。じゃなきゃどうするんだ?」


「でも、俺たちの身分は違うじゃないですか。一緒に寝るなんて…」


その言葉を聞いて、ヘンリーはナクトを見た。懐かしそうな表情を浮かべ、温かな笑みを湛えた。


「昔もそうだっただろ?ずいぶん一緒に寝てなかったな。それに、今のお前、世話が必要な状態だろ。」


「俺…世話なんて必要ないですよ…あなたに世話されるなんて、なんか気まずい…」


ナクトの顔が少し赤くなった。今夜、ヘンリーに世話されるなんて、想像もしていなかった。ヘンリーはすでに寝床を整え、枕を一つ増やしてナクトの分を用意していた。その寝床を見ても、ナクトはなかなか上がろうとしなかった。


「ナクト、早く上がって寝なよ。」


「…ヘンリー…どんなことがあっても、貴賤の差はあるじゃないですか…」


「そんなものはない。俺にとってお前はそういう区別がない。お前はただのナクトだ、わかるか?」


ヘンリーはナクトの手を引き、ナクトが反応する間もなく、寝床に引き上げた。だが、ヘンリーの力はとても優しく、まるで彼を傷つけないように気をつけているようだった。


「まったく…またこれだ。」


ナクトは小さく文句を言ったが、かすかに微笑んでいた。



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