攻城前夜⑵
「陛下はどうですか!」
あの夜、ヘンローが自分に話した言葉を聞いたが、ヘンロー自身はそれを知らない。だから、彼と向き合う時は慎重に、感情を気遣いながら接していた。しかし、聞いたことを直接ヘンローに言うわけにはいかない。それは彼を困らせるだけだから、今まで何も言わず、ヘンローの今の気持ちが全く分からないままだった。
「そんなこと、俺には分からないよ。大人は自分で聞きに行った方がいい」
カトーは軽く笑い、自分が持っていた飾り物をナクトに渡した。カトーは膝をかがめ、ナクトと目線を合わせてその目を見つめた。
「何か気にしていることでもあるんですか?大人自身?陛下?それとも他の誰か?」
ナクトはすぐに顔をそらし、もう見られたくないという表情を浮かべた。自分の感情を他人に見られたくなかった。この人の洞察力はあまりにも鋭く、これ以上見つめられたら心の中まで見透かされそうだった。
カトーはその「見られたくない」という気持ちを感じ取り、それ以上見つめるのをやめ、謝罪した。
「すみませんでした、ちょっと失礼だったかもしれません」
「いや、カトー様、気付かせてくれて感謝します。でも、この飾り物は?」
目の前に差し出された嵌め込みのペンダントを見て、ナクトは少し困惑した。なぜカトーがこんなものを自分にくれるのか。親しい間柄でもないのに、まるで「最後の品」のような雰囲気だった。
「もしかしたら、俺のあの言葉が本当になるかもしれないからね」
カトーの表情はどこか憂鬱で、何を考えているのか分からなかった。何か悪いことが起こる予感がする。ただの14歳の親王、しかも愚かなヨハンに対してだけなのに。
「この物は返します。こんな『不吉な』ものは受け取れません。そんなこと絶対に起こらないですよ、カトー様」
ナクトは飾り物をカトーの手に戻した。そして外へ歩き出した。カトーは手に持った飾り物を見て、苦笑いを浮かべた。なぜこんなことを考えてしまうのか。失うことを恐れているのか?でも、失うものなんてあるのか。ホブム将軍が言った「家」のことだろうか?
「本当に将軍の言う通りなのか…。そろそろ弟や妹たちに会いに行かなきゃな」
一方、ナクトは武器庫へ向かい、兵士たちから弓矢を受け取った。彼は少し練習したが、昔の技術はまだ錆びついていなかった。森の中にウサギを見つけ、弓を引き、簡単に射抜けるほどの腕前だった。感情が技術に影響することはなかった。しかし、陛下はそうではない。
天幕で作戦を話し合う時、ヘンローはよく感情に影響されていた。その時の気分に左右され、君主としては好ましくないことだった。感情に流されやすく、その点ではヨハンと似ていた。ただ、ヘンローのやり方が少しマシなだけだ。もうすぐ攻城戦が始まるというのに、感情を安定させられず、ホブムが言う「新米」のままだった。
だが、これは彼自身を証明する戦争だ。このままではヘンサーに軽蔑され、ただの「飾り物」として扱われるだけだ。功を急ぐあまり、一部の若い貴族と何も変わらない。彼は落ち着いて判断し、不安な感情を抑え、目の前の作戦に集中しなければならなかった。
「そうだ、感情に支配されるな!作戦に集中しろ!」
ヘンローは自分の欠点に気づき、心を整えた。将軍たちの意見を取り入れ改善しようとした。しかし、整えたというよりは「隠した」だけだった。その感情はまた後で掘り起こされ、心に絡みつくことになるだろう。




