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ランクチェス王記  作者: 北川 零
序章 新しい王
4/76

バンケット⑴

ヘンローは涙を拭き、赤い夜会服を着直し、袖口と手袋を整え、長靴を履いた。今夜は彼が国王に即位したことを祝う晩餐会だ。彼は銀貨を手に取り、じっと見つめた後、丁寧にしまい、ゆっくりと部屋のドアを出た。

「殿下、大丈夫ですか…?」

ナクトは心配そうに彼を見つめた。ヘンローの目尻に涙の跡を見つけ、理由は分からないながらも気にかけて尋ねた。


「大丈夫だよ、ただちょっと目が赤くなってるだけ。拭けば問題ないさ。」

ヘンローは目尻を軽くこすり、気づかれたことへの気まずさを隠そうとした。ナクトはそれを見て軽く微笑み、ポケットからハンカチを取り出して彼に差し出した。


「殿下、初めてじゃないですよね。子どもの頃からずっとお仕えしてきました。僕に隠すなんて、殿下は僕を信用してないんですか?」


「わ、俺、俺、そんなつもりじゃないよ!? ナクト、ひどいぞ!!」

ヘンローはハンカチを受け取り、顔が少し赤くなって頭をそらし、照れた表情を隠した。ナクトはそんな彼を見てくすっと笑い、すぐに片膝をついて謝罪した。


「失礼しました。それでは殿下、どうぞお罰を。」

ナクトはそう言ったが、ヘンローが自分を罰することはないと分かっていた。なにせ彼は7歳の頃、城に仕えに来た時からずっとヘンローに仕えてきたのだ。


「俺が罰するわけないって分かってるだろ…。」


「殿下、そんなこと言わないでくださいよ~。」


「もういいから、立てよ。宝石の間に行かなきゃ。」


「了解です。今日は殿下が主役ですから、早めに到着しないとですね。」

ナクトは笑顔を浮かべ、ヘンローもそれを見て少し気が楽になった。二人は宝石の間へと向かった。


(ナクト、たぶんお前がいてくれるから、俺はこんな風にリラックスできるんだ。あの時も…)ヘンローは心の中でそう思った。


宝石の間は豪華絢爛だった。壁にはさまざまな水晶が嵌め込まれ、部屋全体が金色に輝いていた。床にはランクチェスの国章が大理石で描かれ、部屋の天井には赤い水晶のシャンデリアが吊り下げられていた。ヘンローが入場すると、貴族たちはすでに揃っており、次々と近づいてきて礼を尽くし、即位を祝った。ヘンローも彼らの祝福に感謝したが、これらの貴族はみな「老獪な狐」だ。すべてを見透かしながら、表面的には笑顔を浮かべるだけ。ヘンローもこれはただの儀礼だと理解していた。だがその中に、明らかに新しく爵位を授かった若い侯爵たちがいた。新鮮な顔ぶれだ。その中の一人、老貴族が息子を連れて祝いの言葉を述べに来た。その息子は、さわやかな墨緑色の髪が右目を少し隠し、クリスタルのような美しい緑の瞳を持ち、鼻が高く、緑の礼服を着ていた。ヘンローより少し年上に見え、男爵ではあるが、貴族の礼儀をあまり好まない様子だった。顔には不本意な表情が浮かんでいたが、それをあまり表に出さないようにしていた。それでもヘンローはその不満を鋭く感じ取った。彼は丁寧に腰をかがめて挨拶し、名乗った。


「陛下、はじめまして。私はゴザンス伯爵の次男、ウィギル・ゴザンス男爵です。新国王即位おめでとうございます。国王の気分はどうですか?」

彼の口調には軽い軽薄さが混じっていた。


「あまり満足してなさそうだな、ウィギル男爵。」

ヘンローは一瞬沈黙した後、そう言った。声には少し苛立ちと不快感が含まれていた。


ヘンローは普段は誰に対しても優しいが、彼は王族だ。少なくとも表面上、貴族たちに軽んじられるわけにはいかなかった。まして今は国王なのだ。父王に軽視されるわけにはいかないし、兄との約束を果たすためにもだ。


「いえ、いえ!陛下、彼にそのつもりはありません!どうかお許しを!この愚息は口が軽いだけです!早く陛下に謝罪しなさい!」


ゴザンス伯爵は慌ててウィギルの頭を下げさせ、謝罪を強いた。ウィギルは父親の圧力に屈し、謝罪したが、その態度は誠意に欠け、むしろ適当だった。


「陛下、申し訳ありません。私の言葉が不遜でした。お許しください。」

ウィギルは頭を下げさせられたままそう言ったが、心の中では不満でいっぱいだった。

(たかが第二の国王、戦場にも出たことない、何もしてないくせに国王だなんて。所詮は傀儡じゃないか!)


「今日は祝いの日だ。こんな不愉快な雰囲気にしたくない。次はこんなことがないように、…いや、次はない。」


ヘンローは歩きながらそう言い、ウィギルを一瞥もせず立ち去った。ゴザンス伯爵は慌てて感謝したが、ウィギルは不満げにヘンローの背中を睨んだ。「傀儡のくせに、なんて傲慢なんだ…」


ヘンローとナクトは王座の側まで歩いた。そこにはすでに父王が座っていた。父王は相変わらず無表情で、厳格そのものだった。(…何を考えているか分からない。全く表情がない…)ヘンローはそう思った。彼が到着すると、父王は王座から立ち上がり、ヘンローは恭しく礼をしたが、体はわずかに震えていた。ナクトはそばでそれを見ていた。彼の緊張を感じ取ったが、ただ少し頭を下げ、半目で彼を見ることしかできなかった。父王とのことにはナクトも介入できない。なにせこれはヘンローと父王の問題なのだから。


(ヘンロー、こういう問題はお前が自分で向き合うしかない…俺にはどうすることもできない…)


ヘンサー二世はヘンローの前に歩み寄った。ヘンローは頭を下げ、父の目を直視できなかった。

「ヘンロー、王座に座れ。」


低く響く声でそう言った。その声はいつもと同じだったが、そこには一欠片の温もりも感じられなかった。いや、そもそも温もりなど感じたことがない。いつからか分からないが、俺はただ「はい、父王」と従順に応えるだけだ。従順に座り、用意された原稿を読み上げる。そこには魂が感じられない。まるで人形だ。だが、人形ではないはずなのに、なぜ父王の前ではいつも人形のようになってしまうのか。俺はただ「人間らしい」存在に過ぎない。可哀想か?どうすれば父王の俺を見る目が変わるんだ?ああ…

ヘンローは原稿を読み終えた。貴族たちは拍手し、称賛の声を上げた。


「さすが第二の国王、素晴らしいお言葉です!!」


「ヘンロー国王、実に理想的です!」


「陛下の功績はヘック王子を超えるかもしれません!!」


(兄貴…?)ヘックという名を耳にした瞬間、ヘンローの心は震えた。(こんな傀儡でいてはいけない!父王に軽んじられてはいけない!兄貴との約束を果たさなきゃ!!)

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