世話を受けている人
ドアの外で誰かがノックし、ローゼルがドアを開けると、そこにはいつもまとわりついてくるあのうるさい男がいた。ローゼルは眉をひそめた。
「やあ、ただ親王の様子を聞きたかっただけなんだよ」
カオはヨハンの様子を覗こうと首を伸ばしたが、ローゼルの大きな体に遮られた。しかし、ローゼルの表情を見ると、疲れ果てて今にも眠ってしまいそうな様子だった。
「ローゼル?大丈夫か?」
ローゼルはぼんやりとして、目蓋が開きそうにないほどだった。しばらくしてようやく反応し、疲れた声で言った。
「いや、殿下はただ寝ている…だけだ」
彼の疲れはもはや体を支える力すら残しておらず、体が揺れ、今にも倒れそうだった。カオはそれを見て慌てて彼を椅子に座らせたが、ローゼルは頑固にこう言った。
「俺は、大丈夫だ。殿下の世話をしなきゃ」
「もう眠りこけてるじゃないか!少し寝なよ!親王のことは俺が面倒見るから!」
カオは目を覚まそうと頑張るローゼルを見ていた。ローゼルはヨハンの従者だが、命を顧みず世話をする姿に、カオは少し理解できない気持ちだった。
「いや、殿下は俺だけを信頼してる…」
「どうせ寝てるんだから誰が世話しても分からないだろ。起きたら俺が呼ぶよ――」
ローゼルはもう耐えきれず眠りに落ちた。カオは彼に毛布をかけてやったが、ローゼルの体に触れると少し熱いことに気づき、額を触ると発熱していることが分かった。そこでカオは教会に薬草を取りに行った。教会の人々はヨハンの兵士であるカオを見て嫌悪感を示したが、彼が何かするのではないかと恐れて渋々薬草を渡した。
「ありがとう!これは少しばかりの報酬です、受け取ってください」
教会の人々は「ありがとう」という言葉に驚いた。この軍隊の中に感謝する兵士がいるなんて、しかも金まで払うなんて。しかし、彼らはまだ不安そうで、年配の神父が慎重に尋ねた。
「その、受け取ったら何かされるのでは…」
「大丈夫です…ただの感謝の報酬です…我々がしたことに対して申し訳なく思います…」
カオの声には罪悪感が滲んでいた。彼は元々そんな人間ではなかった。小さな騎士の家に生まれ、家で雑用をしながら育ち、騎士の家の子として幼い頃から訓練を受けた。父はいつも「騎士は悪事を働いてはいけない」と教え、彼はそれを心に刻んでいた。しかし、軍に入ると領主の命令が全てで、どんなに嫌でも従わなければならなかった。それは彼の良心に反するものだった。
年老いた神父はカオの肩を軽く叩いた。神父の目は慈愛に満ち、カオの心を見透かしているようだった。目を閉じ、彼のために心から祈った。
「若者よ、君は生まれながらの悪魔ではない。一時的に操られているだけだ。神は忠実で善良な者を救い、愛するだろう」
「神父、祈ってくれてありがとう…」
カオは跪き、神父の祝福を受けた。両手を合わせ、神への忠誠を示した。彼は本心を捨てておらず、善良で、助ける心を持っていた。この優しい少年は――
カオはヨハンの部屋に戻り、二人の様子を確認した。二人ともまだ眠っていた。彼は一人で厨房に行き、ローゼルのために薬草を煮た。夜遅く、人気はなく、薬の匂いがどれほどひどくても他人に影響はなかった。しかし、誰かがやってくることもあり、例えばシオンだ。
「なんでこんな臭いもの煮てるんだ?病気か?飲みすぎるなって言っただろ」
シオンは目の前の真っ黒な薬を見て、鼻をつまんだ。彼はこの匂いが嫌いで近づきたくもなかったが、それでもカオを心配してやってきた。
「違うよ!俺は病気じゃない!これは他の人のためだ」
「誰が?」シオンは好奇心を覚えた。カオが誰のために、しかもこんな遅くに薬を煮ているのか。
「ローゼルだよ」
シオンは驚いた。ヨハンの従者のために突然薬を煮るとは。数日前にはローゼルが誰かも知らなかったのに、今は世話までしている。
「まじかよ!数日前には俺に誰だよって聞いてたのに、なんで急にそんな親しくなったんだ?」
「まぁ、俺がしつこく絡んだって感じかな、はは」
カオは頭をかいて、照れ笑いした。自分はローゼルにとってただの普通の人間だと分かっていたが、出会ったのは縁だ。それにローゼルは彼を助けてくれたのだから、できる範囲で世話をするべきだと思った。
「またそんなことしてる。お前、なんでそんな余計なことするんだよ。ローゼルの地位はお前よりずっと高いんだぞ」
シオンはため息をつき、愚痴をこぼした。彼はカオがこんなことをするのは無駄だと思っていた。ヨハンの従者なら、もっと多くの人がカオよりうまく世話をするはずだ。
だが、カオはローゼルが地位は高いが、近づく人は少なく、心は孤独だと見抜いていた。ローゼルにはヨハンしかおらず、彼はヨハンを「支えている」。だが、カオは何も言わず、ただ軽く微笑んだだけだった。
「かもな。よし!煮えた!先に持って行くよ!」
「俺も一緒に行くよ」
「いいよ、シオンは先に休んでて!」
カオの遠ざかる背中を見ながら、シオンは胸に微妙な感情が湧き上がるのを感じた。胸を押さえ、不思議に思った。なぜ突然こんな気持ちになるのか、心の不快感が。




