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ランクチェス王記  作者: 北川 零
第一章 ヨハン親王
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ヘックの怒り

ヘックは二人のいる東屋に向かってまっすぐ歩いていったが、いつもの穏やかな表情はなく、顔には怒りが満ちていた。これは彼が滅多に見せない珍しい姿だった。庭園の衛兵でさえ彼を止められず、ヘックが衛兵に立ち去るよう命じると、怒りに満ちた威圧的な声に衛兵は逆らうこともできず、道を譲るしかなかった。


ユウドはまっすぐ歩いてくるヘックを見て、面白がるようにヘンサーに言った。

「ほら、お前のいい息子がやってきたぞ。」


ヘックはヘンサーの前に立ち、怒りに任せてテーブルを叩いた。テーブルの上の静かな紅茶もその衝撃で揺れた。これは彼が父王に対して怒りをあらわにする極めて稀な瞬間であり、内心はまるで炎に焼かれるように燃えていた。


「お前がやったんだろ!」


彼は激しい怒りを込めた口調でヘンサーに問い詰めた。なぜなら、クレイス一家を皆殺しにできるのは父しかいないと彼ははっきりと知っていた。目的を達成するために残酷な手段で標的を排除したのだ。


「それがどうした?」


ヘンサーは否定せず、あっさりと、まるで取るに足らない出来事のように平然と言った。彼にとってこれは大したことではなかった。

だが、ヘックはそうは思わなかった。彼はこの父がネイシャという無垢な人間まで殺したことを知っていた。それが彼には理解できなかった。


「ネイシャは関係ない人間だった! なぜ彼女まで殺したんだ!? しかもジョンの目の前で!」


ヘックは怒りに拳を握りしめたが、国王である父に対して手を出せず、衝動を抑え、怒りを心に押し込め、言葉だけで感情を吐き出した。


「そのような『残党』は生かしておけない。」


「だが…ネイシャはジョンが愛していた人だ! お前が自分でジョンの未来の妻として認めた相手じゃないか! 罪があるとしても、監禁すれば済む話だったはずだ! お前はジョンにどうしろと言うんだ? 彼の心は今、どれほど苦しんでいるか!」


ヘックは弟の苦しみをよく理解していた。愛する人が目の前で死ぬことの痛みはどれほどか。それを「埋め合わせ」しなければ、心は壊れ、別の深淵に落ちてしまうだろう。


「そのような無駄な良心は捨てなさい。権力者にはそんなものは必要ない。」


ヘックは父の言葉に反論できなかった。父が正しいことはわかっていた。たとえ一人を残しても「残党」が復活する可能性がある。だが、それでも彼は受け入れられなかった。無力な非難にしかならないとわかっていても、父にこう告げた。


「お前はただ自分の『良性』を隠しているだけだ。自分にもジョンにも良くない。一生こんなことを繰り返すつもりか…」


「何が悪い? 創ったものは守らなければならない。」


ヘンサーは怒りを向ける息子を見て不安を感じた。いつか息子たちが自分から離れるのではないかと。しかし、彼は自分が築いた王朝を守らなければならなかった。外敵の侵入を許すわけにはいかなかった。


「そう、この王朝はボロボロなんだよね。」


ユウドがこのタイミングで口を挟んだ。彼はこの父子の争いを楽しんでいた。それが彼にさらなる楽しみをもたらすからだ。

だが、ヘックは目を吊り上げ、怒りに満ちた視線でユウドを振り返った。彼はこの男を嫌悪していた。この「処刑人」が行う「汚い」行為に。彼はユウドの襟をつかみ、怒りの顔を近づけてその男を睨みつけた。

「俺が知らないと思うな。お前が『実行者』だろ。こんな卑劣な手段を使うなんて、お前には報いがあるぞ…」


ユウドは抵抗せず、むしろ軽蔑するように笑いながらヘックを見た。


「どうした、殿下は不満か? 私がやらなければ、お前たちが自分でやるしかなかった。それこそ汚れるのはお前たちだったぞ。」


「てめえ!」


突然、ユウドがヘックの襟をつかむ手を握り潰した。その力はヘックに痛みを与え、見た目にはか弱そうなこの男が予想外の力を持っていることに驚き、ヘックは仕方なく手を離した。

ユウドは服を整え、テーブルの上のクッキーを手に取り食べ始めた。まるで何の恐怖も感じていない様子だった。


「ヘック、言い終わったか?」


ヘンサーは目の前の息子に苛立ちを感じ、ヘックにここで騒ぐのをやめて立ち去るよう促した。

だが、ヘックはこれが無意味だとは思わなかった。これはジョンという弟の兄としての非難だった。弟が受けた傷を耐えられなかった。すでに起きたことは変えられないとわかっていても、彼は最後にヘンサーにこう告げた。

「父王、ジョンのことをもっと気にかけてやってくれ。」


去る前に、ヘックはユウドを一瞥した。その視線には鋭く、憎しみに満ちた光があった。彼はこの男を心底嫌っていた。


「どうやら俺のこと嫌いみたいだな。俺はお前のその息子、結構気に入ってるんだけどなー」


ユウドは少し残念そうに言ったが、すぐにいつもの調子に戻り、まるで先ほどの言葉を言っていないかのように振る舞った。


「それで、お前のその傷心の息子を気にかけるつもりはあるのかい?」


「…」

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