「紅の莎」⑶
ジョンは前方を歩き、思わずネッサの手を強く握りしめた。彼自身も恐れていた。これは彼が初めて目にする光景で、あまりにも衝撃的だった。しかし、愛する人を守るため、彼は前に進み続けなければならなかった。
「階段が見えた!早く下りよう!ローなら下にいるかもしれない!!」
「ジョン…父上と母上は大丈夫かな…」
ネッサは両親の安否がますます心配になってきた。一路上、彼らの姿は全く見えなかったが、侍女たちの様子を見て、彼女はここがもう安全ではないと悟った。今、彼女にできることはジョンだけを信じることだった。
「…僕には…わからない…でも、絶対に君を守る!絶対に!」
ジョンの声は恐怖で震えていたが、勇気を振り絞って彼女を守ると固く誓った。この瞬間、ネッサの目には、ジョンはもうあの純粋で臆病な少年ではなく、まるで本物の騎士のようだった。その背中はどれほど心強く、たとえ強がりであっても、彼はすでに勇者だった。
「絶対に信じてる!だってジョンは私の騎士だもん!」
「うん!」
ジョンは剣を構え、ゆっくりと前方の階段に向かって進んだ。少しも気を緩めることなく、もし襲撃があっても長くは持ちこたえられない。ネッサを先に逃がすしかない。だから彼は神経を張り詰めて進み、彼女を守るために――
階段の曲がり角にたどり着いたジョンは下を見たが、その光景に完全に凍りついた。彼は進めず、ネッサにこの光景を見せたくなかった。
ネッサはジョンの背後に立ち、彼の反応を見て悪い予感を抱いた。ゆっくりと前に進もうとしたが、ジョンは振り返らずその光景を見つめ、これまでネッサに使ったことのない厳しい口調で言った。
「ネッサ…見ない方がいい…」
彼女はジョンの言葉が本気だとわかったが、さっきの惨状を見ていた彼女には、それ以上の恐ろしいものはないと感じていた。
しかし、ジョンは彼女の目を手で覆い、最後の阻止を試みた。この光景は彼女が受け入れられるものではなかった。ジョン自身も必死に耐え、足は震え、胃はひっくり返りそうだった。
「見ないで…」
「ジョン…いつかは向き合わなきゃ…たとえ嫌でも…」
彼女はジョンの手をゆっくりと下ろさせた。しかし、目の前の光景は想像を絶するものだった。彼女は口を押さえ、信じられない思いで立ち尽くした。
なぜ…
どうして…
階段の下にはクライス公爵夫妻の遺体があった。彼らは地面に倒れ、死に様はあまりにも凄惨だった。喉は切り裂かれ、声帯は引き抜かれ、口には短剣が突き刺さっていた。公爵の目は階段の上を見つめ、顔は恐ろしく歪み、死の前に大きな苦痛を味わったことが明らかだった。
「…父上…母上…」
ネッサは地面に跪き、涙を抑えきれず泣き崩れた。口を押さえ、吐き気を堪えた。この光景はあまりにも衝撃的だった。なぜこんな残忍な方法で殺されたのか、その手口は熟練しており、明らかに意図的で、冷血な処刑のようだった。
「ネッサ…」
ジョンがしゃがんで慰めようとした瞬間、ネッサは突然彼の腕を掴み、震える足で立ち上がった。
恐怖、生存本能、そして怒りが彼女を支えていた。
「ジョン、進もう…ここから出るの…」
「大丈夫か…?」
ジョンは心配そうに尋ねた。こんな残酷な光景を見れば、恐怖で動けなくなる者も多く、感情が崩壊する者もいる。彼自身も例外ではなかったが、ネッサの状態がもっと心配だった。
「うん…外に出る…」
彼女の声は泣き声に震えていたが、強い意志で支えられていた。
ここは危険だ。自分のため、そして目の前で彼女を守る人の安全のため、絶望的な感情を抑え、彼女は重い足取りで進んだ。二人とも絶対に安全に出なければ…ジョン…
「このまま進む…?」
「ここが一番早い…行くよ…ジョン…」
彼らは階段を下り、公爵夫妻の遺体の前にたどり着いた。ネッサは両親の遺体を見つめ、しゃがんで二人の目を閉じ、極端な悲しみを抑えながら両親に誓った。
「父上、母上…必ずあなたたちの死の真相を突き止めます。天国で幸せでいてください…」
「…」
ジョンもこんな状況で公爵夫妻と再会するとは思わなかった。未来の親族であるはずが、冷たい遺体となってしまった。一体誰の仕業なのか…
彼らはさらに下へ進み、一階にたどり着いた。あとはこの長い廊下を曲がれば大門に着き、外に出られる。
外に出るという希望を抱き、急いで進んだが、廊下は真っ暗だった。彼らは壁に沿って慎重に進んだ。この暗闇では襲撃に遭いやすいため、細心の注意を払った。
「手をしっかり握って…」
「うん…あ――」




