城に戻る
城に到着すると、侍童が馬車の扉を開けた。ヘンリーはついに戴冠式を終え、正式に王となった。側近たちも「殿下」から「陛下」へと呼び方を変えたが、彼はその呼び方にどこか慣れない気持ちを感じていた。その時、ナクトが迎えに出てきた。
「陛下、お帰りなさい!戴冠式は無事に終わりましたか?」
「順調だったよ、ナクト。でも、陛下って呼ばないでくれる?」
ナクトは少し驚いた様子で答えた。
「陛下、今は王なのですから、陛下と呼ばないのは失礼にあたりますよ。」
ヘンリーの顔には一瞬ためらいが浮かんだ。彼は少し間を置いて、ナクトにこう言った。
「ナクト…やっぱり殿下かヘンリーって呼んでくれ。」
「わかりました、ヘンリー殿下。」
ヘンリーの表情は少し和らぎ、ナクトに微笑みかけた。
「それでいいよ、ナクト!」
「殿下、その衣装もさぞ重かったでしょう。部屋には着替えの服を用意してありますよ。」
「うん。」
彼は部屋に戻り、身にまとっていた重々しい礼服を脱いだ。この礼服は彼に似合っているとは言えず、彼自身も王になることを望んでいなかった。しかし、これが「理想」に近づくための道なのかもしれない。ポケットから一枚の銀貨が落ちた。粗雑に作られたその銀貨を拾い上げ、彼は無意識に涙を流した。
「兄上…僕…僕…どうすればいいんだ…」
銀貨を強く握りしめ、頬を伝う涙が手に落ちた。ヘンリーは兄、ヘック・ランクチェスを思い出した。「お前は嘘つきだ」と心の中で呟いた。