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ランクチェス王記  作者: 北川 零
第一章 ヨハン親王
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恐ろしい質問

食堂では、ヨハンの将軍たちが跪き、緊張した面持ちで額に汗が止まらなかった。ヨハンはテーブルに座り、足を組んで不機嫌な表情を浮かべていた。どうやら何人かの「幸運な者」が危うい状況になりそうだった。


「お前ら…誰が裏切り者だ?ん…」


「殿下!!絶対に私ではありません!!!私は殿下の臣下です!!」


「親王!私もです!!どうか信じてください!!」


一部の将軍はヨハンの足元に這い、必死に許しを請うた。この光景は滑稽で、親王が猜疑心から自分の将軍や家臣をこうも扱うとは。


「やあ、ロウ、来たか。この数人が一番怪しい。殺してしまえ」


「いやいやいや!殿下!信じてください!!いくら胆力があってもそんなことしません!!!」


ヨハンは足元の将軍を蹴り飛ばし、その頭を踏みつけ、凶悪な目で睨んだ。


「気持ち悪いな、お前。こんなに焦ってるってことは、お前が裏切り者だろ」


「殿下、おやめください。彼らは無実です。このように扱うべきではありません。ホブム将軍との戦いは避けられません。今、将軍を失えば我々の軍は弱体化します」


「ちっ、どうせ見つけるさ」


ヨハンは食堂を出て行き、将軍たちはほっと息をつき、地面にへたり込んだ。


「ロウ様、ご助言ありがとう!あなたがいなかったら、殿下に殺されていたかもしれません!」


「いや、皆さんがこんなヨハン殿下に仕えるのが大変だろう」


「ロウ様こそ、毎日殿下のそばにいる方が怖いでしょう」


「いや、まあ、何でもない。俺は先に帰るよ」


ロウは歩きながら窓の外を見た。果てしない海が広がっていたが、夜の闇で何も見えなかった。背後から声が聞こえ、彼の名前を呼んだ。


「ロウ!!!」


昨日出会った少年の声だと分かった。彼は立ち止まり、カオが目の前にやってきた。


「ロウ、ようやくお前が誰か分かった。なんで昨日教えてくれなかったんだ?」


「ふん、知っても知らなくてもどうでもいいだろ」


ロウは無関心な態度だった。この少年はただの通りすがりで、どうせもう会わない。昨日はいつもの優しさで助けただけで、毛布一枚なんて高価なものではない。


「でも、昨日助けてくれただろ。少なくとも寒くならずに済んだ」


「そんなの些細なことだ。小さなことで満足してたら大仕事はできないぞ」


カオはロウの言葉を聞いて考えた。彼の言うことは間違っていないが、完全に正しいとも思わなかった。


「確かにその通りだ。でも、全部正しいわけじゃない。小さなことで満足できるのは幸せなことだ。だって、大きなことなんてそうそうできないからな」


「ふん」


ロウはまた歩き出した。彼はそんな大義を聞く気はなく、ただ命令に従う従者だ。満足なんて必要ない。だが、カオはまだついてきた。


「なんでヨハン殿下に従ってるんだ?お前と殿下の性格、合わない気がする。お前は親王の家臣の家系でもなさそうだし」


「『使命』だ」ロウは歩きながら言い、顔がだんだん重くなった。何か心に秘めたものがあるようだった。


「なるほどな…」


カオはロウを見て、彼の使命はヨハンを守ることだと思い、それ以上は聞かなかった。


「お前もそろそろ戻れよ。明日、戦闘になるかもしれない。さっきドアの外で聞いてただろ」


カオは驚いた。ドアの外で盗み聞きしていたのがバレていないと思っていたが、ロウは気づいていて、咎めなかった。カオは裏切り者と疑われるか心配になった。


「お前、俺を裏切り者だと思わないよな…?」


「思わない」


話しているうちに部屋のドアに着いた。ロウは今日、ヨハンの後始末で休めず、疲れ切っていた。カオはロウの部屋に着いたのを見て別れを告げた。


「やあ、部屋に着いたな。じゃあ、俺も戻るよ。おやすみ、明日な」


「おやすみ」と言い、カオは去った。ロウは部屋に入り、枕に倒れ込み、深い眠りに落ちた。明日、会うだろうな…

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