「理想」
外はまた雨が降り始め、テントに滴る雨音が響いた。彼らはテントの中で深い眠りに落ち、混乱した思いが交錯していた。雷鳴が空を切り裂き、テントの中でナクトは兵士たちと一緒に寝ていたが、その雷の音で眠りから覚めた。
彼は幼い頃から雷を怖がっていた。だが、ヘンローの側近であり遊び相手だった頃は、ヘンローと一緒に寝ることができた。女官も片目をつぶって黙認していた。だから雷が鳴ると、ナクトはヘンローの布団に潜り込んで一緒に寝た。
「ヘンロー、雷が怖いよ…!」
「お前、ほんと臆病だな~。何が怖いんだよ」
「めっちゃ怖いよ!!」
ナクトは布団をしっかりかぶり、ヘンローの腹に頭を埋め、体を震わせた。だが、ヘンローは彼の頭を撫でて怖がらないよう安心させた。
なんて温かいんだ…小主人にこんな風に世話されるなんて…俺、ほんと情けないな…でも…気持ちいい…安心する…
だが、12歳の頃には半分克服していた。もうヘンローと一緒に寝ることはできなかった。雷が鳴っても震える程度で、眠れなかった頃に比べればずっとマシだった。
「…」
誰かがテントに入ってきた。ナクトは、トイレから戻った兵士だと思っただけだった。だが、その足音は彼に向かい、ナクトは横になっていて見えなかったが、足音だけが聞こえた。その人物は他の兵士を跨いで慎重に彼のそばに来て、座った。
「ナクト…寝てるか…そりゃそうだ…何年も経ったんだから、雷なんて怖くなくなってるよな…」
(ヘンロー?こんな時間になぜ…もう遅いのに…)ナクトは黙って目を閉じたまま動かなかった。
「ごめん…俺、兄貴の足跡を追いかけたかった…本気で追いかけたかった…兄貴に約束したんだ、父王に認められるって。どんな手段でも俺の能力を証明する…父王がなぜ俺を国王にしたのか分からない。共同国王にしたのが父王の認める気持ちだとは思えない。でも、これで兄貴に近づける。"理想"に近づける…でも、まず兄貴の"彼"を取り戻さないと…」ヘンローは独り言のように小さな声で語り、ナクトに布団をかけてやり、頭を撫でた。
「だから、お前がいないとダメなんだ…昔はお前を守ろうと思ったけど…もうお前は俺に守られる必要すらない…残ってるのはお前が俺を守るだけだ…俺を"許して"くれてありがとう…俺の騎士…」
そう言うと、彼は立ち上がり、テントを出て行った。彼はナクトの潤んだ目元に気づかなかった。
俺を"許す"って思ってるのか?…でも、それは"許す"じゃなくて、"成長"のためだよ…殿下…




