虚無の忠僕⑶
「かなり差があるな……動作を観察するためか……」
心配そうに眼前の局面を見つめながら、カトは百戦錬磨の身でありながらもロの考えがまるで読めなかった。 ただヒグの攻撃を防いだだけで、これだけで彼の強大さが垣間見える。
「カト様……まさか、ヒグ様が負けるとおっしゃるのですか?」
「いや、ヒグも相手を探っている。 だが、あの男はどこか……妙だ、というべきか」
一つの反撃もせず、ただ避け続けている。 何を待っているのか? それとも、こちらが恐れる必要などなく、ただ我々が一方的に彼を推し量っているだけなのか?
ロがようやく「稊の刃」を使い、ヒグの心臓を狙った一撃を防いだ。
「なかなかやるじゃないか、防いだな。だが、喜ぶのは早い!」
「稊の刃」の中の生物が興奮していた。 感情がロの脳に直接伝わってくる。 だがロは歯を食いしばり、この強烈な衝動を必死に抑え込んだ。 彼が最も不安を感じるのは敵ではなく、手に握るこの「稊の刃」そのものだった。
「“お前”の感情を……俺に伝えるな……」
「何? 独り言か? お前のような者は生かしておけん!」
ヒグが再び激しく攻め立てる。 無限の剣の雨がロに向かって降り注ぐかのような、猛烈な連続攻撃。
だが今度は、ロは避けなかった。 一撃一撃を正確に受け止め、しかもその連撃の合間を縫って、ヒグの手に傷を負わせた。
「まだ本気じゃないだろう。 この嵐のような攻撃の中で俺に傷を付けられるなら、もう一度本気でかかってこい!」
対決の最中、ヨハン側の将領の一人が、含み笑いを浮かべてホブムに尋ねた。
「将軍閣下、今まさに戦っているところですし…… 今のうちにヨハンを捕らえに行きませんか? あいつの側にはもう誰もいませんよ」
ホブムは軽蔑の視線を投げかけ、怒りをぐっと抑えた。 その視線に、問いかけた将領も思わず身震いした。
「誰もいない? 目が腐っているのか? ヒグと戦っているあの男は誰だ、見えていないのか?」
「しかし……今は戦闘中ですし、怪我をしたヨハンのことなど構っていられないはず……」
「お前たちは、あの男がヨハンの側に長年仕えているのに、未だに正体に気づいていないのか?」
「え? ロはただのヨハンの従者でしょう? 体に傷はあるものの、見た目は普通の従者と変わりませんよ」
元々、ホブムもロをごく平凡な従者だと考えていた。 ただ頑なに降伏しなかった倔強な男だと。
だが「ロ」という名を聞いて、どこかで聞いた覚えがある。 そして今、ようやく思い出した。
「テミス档案局」で見た名前。 一瞬しか目を通さなかったが、記憶に強く残っていた。 忘れられるようなものではなかった。
ある村落が一夜にして滅んだ。 全村民が、たった一人に殺された。 誰も覚えていない。誰も知らない。 その村落は国王の地図から消え、痕跡一つ残さなかった。 建物の基礎すら残らず。
今ではただの森となり、旅人が通っても、 かつてそこに百人以上が暮らしていた村があったことなど、誰も知らない。
「本人は見たことがないが、この名前と、ヒグに傷を付けられる剣術……間違いなくあいつだ。 もちろん、死にたいならヨハンを捕まえに行っても構わん。 だがヒグと戦いながら、お前たちを皆殺しにするくらいの余裕はあるだろう」
問いかけた将領は声が震え、言葉もまともに発せなくなっていた。 自分たちの側に、こんな恐ろしい人物がいたとは知らなかった。 これまで怖いと思っていたのは、気分のむらで残虐なヨハンだけだったのに、 ロの正体を知った今、背筋に冷たいものが走る。
「い、いえ……! いえ、結構です! どうか将軍閣下たちにお任せします!」
彼らは一斉に後退し、二度とその質問は口にしなかった。 今はただ、ヒグがロを倒せるかどうかだけが問題だった。
たった一人で一つの村を滅ぼした“従者”が、 なぜ無能で軟弱なヨハンの側にいるのか――




