見知らぬ血縁者⑵
ヘンルオはジョンの正面に立ち、背後でカトが小声で囁いた。
「手加減してください、陛下。貴方の弟は……」
ヘンルオは小さく頷き、王の宝剣を抜いた。攻めにも守りにも対応できる構えを取り、いつでも動ける体勢を作る。
「見たところ、そんなに弱くはないようだな。だが、あのうるさい奴と比べたら天と地ほどの差がある」
「ジョン、本来なら俺たちはこんなことを……」
ホブムはずっとジョンの左脚を見つめていたが、まるで父親のような穏やかな口調で尋ねた。
「お前の左脚、本当に持つのか? さっきからずっと震えているぞ。支えがなくなれば、かなり不利になるだろう」
その言葉で初めてヘンルオも気づいた。確かにジョンの左脚は微かに震え、内側に力を入れなければ体を支えられない状態だ。弱点がはっきりと分かった。
ジョンはホブムを睨み、歪んだ笑みを浮かべて答えた。
「ふん、ジジイ。親父みたいな口を利くなよ。……まあ、あの冷血漢よりはマシか。『優しい』心配、どうもありがとう。これで俺も全力でヘンルオを殺せる」
「遠慮するな。あの人はそんな言葉、吐かないからな」
ジョンは虚しく冷笑い、少し悲しげに目を伏せた。それから再びヘンルオへと視線を戻し、表情を引き締めた。
「ヘンルオ、この際は敬意を込めて呼ぼう。王兄、死ね!」
右脚だけで強く地面を蹴り、ジョンは一気に間合いを詰め、剣をヘンルオの頭部へ振り下ろした。
ヘンルオは素早く剣で受け止める。だが次の瞬間、ジョンは突きから左臂へと切り替えた。ヘンルオは咄嗟に身を捻ってかわしたが、それでも左臂の甲冑を浅く削られた。
(なぜこんなに鋭い……いつからこんなに強くなった? あの突き、完全に読めなかった……!)
回避と同時に、ヘンルオは足を振り上げてジョンの下腹を蹴りつけた。甲冑があっても衝撃は十分に伝わり、ジョンは数歩後退した。
腹を押さえ、苦しげに顔を歪め、口元から涎が少し垂れる。
「ジョン、もういいだろう……」
あまりの様子に、ヘンルオはそれ以上手を出せなかった。さっきの蹴りは咄嗟に全力が出てしまったが、まさか一撃でここまで効くとは思わなかった。
「これ……なんだよ……クズ……類は友を呼ぶってか……クズと臆病者が戦って……考えただけで笑える!」
ジョンは再び飛び込んでくる。ヘンルオは剣で受け止める。今度は右への突き、と思った瞬間、ジョンは軌道を変えて横薙ぎに払った。
(!? 突きはフェイクだったのか!?)
反応は速かったが、それでも右頬を浅く斬られ、鮮血が滴った。
攻撃を避けたヘンルオは剣の握りを変え、下から掬い上げるように斬り上げる。刃がジョンの顎をかすめ、ジョンは反射的に首を反らせてかわした。
続けてヘンルオはジョンの左脚を蹴って崩そうとする。ジョンは一歩下がり、小さく笑ったかと思うと、左脚でヘンルオの足を踏みつけた。同時に剣を振り下ろし、足へ突き刺そうとする。
「今だ! ヘンルオ! 待ってたぜ!」
「待っていたのはこっちだ!」
ヘンルオは素早くジョンの剣を握る右手首を掴んだ。刃はブーツに届く寸前で止まった。
手首を強く締め上げられ、ジョンは剣を落としそうになる。歯を食いしばり、睨みつける兄を、もう片方の手で必死に振り払おうとする。
「離せ! クズ!!」
全力で振りほどいたものの、剣を握る右手は激しく震え、手首はすでに限界に近い。仕方なく両手で剣を構え直し、瞳にこれまで以上の決意を宿した。




