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ランクチェス王記  作者: 北川 零
第一章 ヨハン親王
101/113

暗夜の襲撃⑴

「どうやら俺もあいつらと同じ穴のムジナか……この後の運命、父上はきっと俺を罰するだろうな……」


シーンは目の前にいる裏切り者たちを見ながら、自分の運命を嘆いた。最初から道を誤っていたのかもしれない。実は彼はジョンを憎んでいるわけではなく、むしろ目の前の偽善的な貴族たちを憎んでいた。王や周囲の人々に対してあれほど虚偽に満ちた態度を取る彼らを、烈火でしか溶かせない黄金の仮面だと感じていた。


「時間だ。さっさと黒袍王たちに旗を掲げろ。もう攻撃の時間だ! 俺たちの昔の悪魔を倒しに来い!」


将軍の言葉は人心を奮い立たせ、他の兵士たちもジョン打倒を叫んだ。彼らは戦争を早く終わらせて命を保ちたいのか、それとも財宝を手に入れたいのか。悪魔本人の方がまだマシで、悪魔の部下たちの方がよほど恐ろしい。

一方、ヘンリーはその報せを受け取ったものの、どうしても喜べなかった。


「陛下、この状況に喜ばないのですか? これは陛下の望み通り、無駄な犠牲が出ないのです。彼らはもう我々の味方になったのですから」


カトーはそう言ったが、顔には笑みがなく、代わりに厳粛な表情が浮かんでいた。


「ではカトー殿、あなたはなぜ笑わない? もう虐殺せずに済むのだから。まさか、俺が笑わないからあなたも笑わないというわけではないでしょう?」


「……申し訳ありません。このような行為にはどうにも好感が持てません。相手が悪魔であろうと、裏切りという行為は嫌いです。悪魔は裏切りを得意としますが……」


「その通りだ。ある意味、彼らにも全く責任がないわけではない。だが、彼らは我々に寝返ることで全てを隠してしまう。それに“悪魔”は俺の弟だ。本当に辛い……もう、彼を助けられる者はいない……」


ヘンリーは静かに杯を握りしめ、手が微かに震えていた。怒りなのか、恐怖なのかわからない。

心情は複雑だった。昔のジョンはこんな人間ではなかった。あの事件が、彼を歪めてしまった。だが、その経緯を口にすることはできず、狂気に至るほど追い詰めるようなことではない。


「天に光の輪が見えますね。きっとこれは祝福でしょう。もう誰も傷つくことはありません。ジョン殿下も、これほどの軍勢を前に無駄な抵抗はしないはずです。彼はもう一人きりですから……」


「そうであることを願うよ。誰も傷つかずに済むのが一番だ。父王が知ったら、きっと俺に失望するだろうな……」


「失礼を承知で一つお尋ねします……陛下が即位してすぐにあんなに急いで功を立てようとし、あの異常な難攻不落の水上都市を攻めたのはなぜ……」


カトーが言いかけて言葉を止め、何かを思い出したように口を閉じ、ヘンリーに謝罪した。

ヘンリーはただ静かに首を振り、微笑みながら「気にしないでくれ」と答えたが、その表情には果てしない苦涩と痛苦が滲んでいた。

ホブムの陣営では、焚き火のそばから騒がしい音が響き、清らかな金属のぶつかる音が絶え間なく聞こえてきた。どうやら彼らは行動を開始したようだ。

ヘンリーの軍にいる貴族の一人が、気楽にパンをかじりながら、軽い足取りで近づいてきた。


「陛下、彼らはこんな遅くまで何をしているんですか? 我々も一緒に参加した方がいいですか? まあ、大したことじゃないですけど」


ヘンリーはこれらの貴族の子弟を無力に見つめた。彼らはだいぶ大人しくなったとはいえ、世間知らずな性格は時折顔を出す。戦場での功績とはほぼ無縁なのに、彼らは祝賀ムードに浸っていた。


「お前たちは……行かなくていい。城門の各入口に人を配置して、誰も城から出さないようにしろ」


「了解しました〜すぐに兵を派遣します」


彼らの態度は改めたが、貴族の子弟に根深く染みついた性質までは改められなかった。それに、偽装が得意なのはまさに最上層の人間だ。ヘンリーこそがその中の異端だった。隠すのが下手なのではなく、見透かせないからこそ本心をさらけ出すのだ。


「軍の規律です、陛下。罰を与えるべきです。散漫な規律は陛下の軍にあってはならない。威嚇が必要です」


「まあ、いいだろう。ナクトがすでに彼らを怯えさせて口答えできないようにしている。俺が話すときもだいぶ静かになった。多少は規律が形作られている……所詮、彼らは本物の軍人ではない。あまり厳しくしてもよくない……」

カトーは静かにヘンリーを見つめ、冷めた水を捨て、小声で呟いた。


「どうやら功を立てることより、陛下はまず見極める必要があるようですね」


「何?」


「陛下、このままでは本当に小さな王のままです。少し失礼ですが、これは陛下ご自身で見極めなければなりません。あちらで動き始めました。陛下もご一緒しますか?」


「もちろん行く。俺はジョンに直接聞かなければならない」


ヘンリーは装備を整えた。夜の奇襲のため、黒袍軍の装備を身につける必要があった。動きやすく、今の彼は黒袍軍と何ら変わらない、統一された黒一色だった。

見極める、だがその中で彼は誰が誰だか全く見分けがつかない。完全に溶け込んだというより、強制的に押し込まれた子供のようだった。妙に他の黒袍軍の兵士より半頭分背が低く、傍から見れば明らかだったが、彼自身はそれに気づいていなかった。

ホブムは揺れる旗を指し、普段より小声で命令を発した。それでもその声は彼自身の威厳を失わず、“王”以上に強い号令だった。


「あそこに見えるだろ。あれが我々が潜入する門だ。到着すれば誰かが応じる。まだ降伏していない者が少し残っている。彼らは敵だ。降伏すれば殺さない。だが、降伏しなければ全員殺せ。行動の迅速さが肝要だ。敵の領主を即座に捕らえ、この面倒な戦争を終わらせる。誰一人として他人を足止めするな。足止めした者は即座に切り捨てる。返事は不要だ。今すぐ旗の下へ向かえ」


彼らは規律正しく、ゆっくりと進んだ。城内の者に気づかれないよう、一面の漆黒の中では高所からでも発見は難しい。ましてや灯火のない戦場の夜だった。

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