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ランクチェス王記  作者: 北川 零
序章 新しい王
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「王になる」

ヘンリー、ランクチェス王朝の第二王子。今日、彼は王となる日を迎えた。しかし、それは彼がすべての権力を握ることを意味しない。なぜなら、彼の父王ヘンサー二世がなお健在で、王国の真の支配者だからだ。それなのに、なぜか彼は共同統治王に任命された。理由はわからないが、彼には受け入れるしかなかった。それが父の意志だからだ。あるいは、知られざる別の理由があるのかもしれない…


「ナクト、この格好は本当に似合っているかな?」

「殿下、もちろん似合っています!今日はいよいよ王になる日ですよ!」


ヘンリー・ランクチェス、今日が彼の戴冠式だ。彼はランクチェス王朝の王となる。まだ幼さの残る顔立ちに、透き通った青い瞳が輝いているが、その瞳にはほのかな憂いが漂っている。侍童が彼の金褐色の髪を整えているが、どんなに整えてもその表情には不安が拭えない。彼は赤い礼服をまとい、紫の長袍を羽織り、肩には白い豹の毛の装飾が施され、王家の威厳を漂わせている。白い手袋をはめ、戴冠式に向かう準備を整えた。


「殿下、もう準備は整いました。ご満足でしょうか?」

「これでいいよ、ナクト…あまり飾りすぎるのも良くないからね。」


ヘンリーは自分の姿を鏡で見つめたが、なぜか心から喜べなかった。なにしろ、ランクチェス王朝を築いた父王がまだ健在なのだ。ナクトは彼の疲れ切ったような顔を見て、両手で彼の口元を引き上げた。


「殿下、笑ってください。今日は王になる日です。民衆は笑顔のない王を見たくないでしょう?」


ヘンリーはナクトを見て、ぎこちなくではあるが微笑みを浮かべた。


「殿下、その笑顔がいいですよ!門の前には馬車が用意されています。ヘンリー、急がないと間に合いませんよ。」

「じゃあ、行こう。」


(なぜ僕が王になるんだ…なぜ父は僕に王位を継がせたんだ…)


今日の天気は良くない。曇り空で、空気は湿気を帯び、どこか不快な気分にさせる。馬車は豪華な装飾で覆われ、車体には王家の紋章が輝いている。黒と金の装飾が施された車体は確かに王にふさわしいが、父王の馬車の豪華さに比べれば五分の一にも満たない。従者が階段を用意し、ヘンリーが馬車に乗り込むのを手伝った。扉が開かれ、彼は一歩一歩進み、栄誉騎士が長袍の裾を持ち上げ、馬車の中に収めた後、扉を閉めた。御者が馬車をヨスラン大聖堂へ向けて走らせた。馬車の中には彼一人だけ。指がわずかに握り締められる。


窓の外の景色を眺めながら、馬車は石畳の道を進み、大聖堂の入り口に到着した。沿道には多くの民衆が集まり、新王の姿を一目見ようと歓声を上げていた。


衛兵が馬車の扉を開け、ヘンリーはゆっくりと降りた。四人の栄誉騎士が長袍の裾を持ち、ヨスラン大聖堂の門がゆっくりと開かれた。大聖堂は高く雄大で、人々を小さく感じさせる。色とりどりのステンドグラスから光が差し込み、そびえ立つ石柱がこの古の建築を支えている。歴史上、数多くの王がここで戴冠してきた、厳粛で荘厳な場所だ。


左右には多くの貴族や大臣が立ち並び、彼が王座に向かって進むのを見守っている。背後には新王の騎士たちが続き、前方には王座のそばで戴冠を執り行う主教と聖職者たちが待っている。大聖堂の正面には高くそびえる神の像があり、まるで「新王」の誕生を待ち望んでいるかのようだ。


(王座か…なぜ父は僕にこの地位を継がせたんだ…彼はいったい何を考えているんだ…)

ヘンリーは前方に佇む王座を見つめながらそう思った。


彼はゆっくりと戴冠用の王座に近づき、腰を下ろした。しかし、そこには彼一人だけが王として座っているわけではなかった。左側にはもう一つ空いた王座がある。彼はその王座をちらりと見た。すると、左の扉が開き、やや年老いた中年の男が出てきた。山羊ひげを生やし、顔には隠しようのない威厳が漂っている。深い眼差し、紫の衣をまとい、数人の侍童を従えて左の王座に向かい、腰を下ろした。そして彼を見つめた。それが彼の父王、「ヘンサー二世」だった。ヘンリーは全身が震え、不安か恐怖か、どちらともわからない感情に襲われた。


「殿下、ご気分は大丈夫ですか?」

「主教様、大丈夫です。どうぞ続けてください。」

「承知しました。」


聖童が金色の盆を持ち、歩み寄った。盆の上には王権を象徴する聖球と権杖が置かれている。主教は聖球と権杖を手に取り、ヘンリーに渡した。


「殿下、左手に聖球、右手に権杖をお持ちください。」


主教が聖球と権杖を渡すと、ヘンリーは両手でそれを受け取った。主教は神に祈りを捧げ、聖童たちが聖歌を歌い始めた。神の美しさを讃え、新王の誕生を祝う歌声だ。


戴冠の時が訪れると、場にいる貴族や大臣たちも敬意を表して立ち上がった。侍童がそばで王冠を差し出した。宝石が輝くその王冠は、王家に代々受け継がれてきたもので、至高の王権を象徴している。主教が彼に王冠をかぶせた。彼は神に選ばれた王だった。しかし、その重圧は彼にとって耐え難いものだった。彼はこの「共同統治王」という名目上の王位に就いたが、実権はなく、名義上は父王と共に国を治めるにすぎない。


主教が誓いの言葉を読み上げた。


「ランクチェス王国の領土と民に誓う。善と愛を持つすべての民は、永遠の真心をもって、疑うことなき王に忠誠を誓う。天皇祐あれ。」


民衆は彼のために誓いの言葉を述べ、彼は正式に王となった。民に愛され、神に守護された、ランクチェスの王だ。


誓いの言葉が終わると、戴冠式も終盤に差し掛かった。彼は父王を見たが、父は一言も発せず、彼を見つめたまま王座から立ち上がり、左の扉から退出した。ヘンリーには父の考えがまったくわからなかった。彼の心はひどく混乱していた。彼は王座から立ち上がり、栄誉騎士が長袍の裾を持ち上げ、大聖堂の門を出た。馬車に乗り込み、歓声を上げる民衆に手を振った。馬車は彼の城に向かい、騎士と侍童たちは白馬に乗り、馬車の後を追った。城に到着するまで、その行列は続いた。

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