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勇者一行と交わらぬ価値観

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。


~前回のあらすじ~

聞く耳を持たず襲ってくるハリソノイアの兵に対し、レピはシェリルの剣に雷の魔術を纏わせ、斬るのではなく叩くことで無力化する術を授けた。

しかしレピの想像と異なり、剣の纏う雷は何故か力を増していき、ついには触れただけで人を殺めうる威力を持つ。

スウォルが敵を救い、シェリルの剣を盾で受け止めると、敵は敗北を認めたのだった。

 必要な者に一通りの治療を施し、関所内に運び込み、安静にさせた後、一行は男から情報を聞き出していた。


「曲がりなりにも自国の長を“クソ女”呼ばわりしているのは何故ですこと?」

「ついこの間、大王が代わった。先代が殺されて、代わりにその椅子に座ったのがあのクソ女だ」

「ふむ。先代を慕っていらしたのですね。それで彼を殺した、現大王の…その女性が気に入らないと」

「慕う?何を言ってるんだ」


 男は大きく笑い、戸惑うリリニシアに語って聞かせた。


「負けるヤツが悪いんだ、殺されて当然だろう」

「…では、何故?」


 ハリソノイアの“当然”に顔を引きつらせながら、リリニシアは質問を重ねる。


「あの女、ハリソノイアは変わるべきとか抜かしやがったんだ!」

「変わる?ですの?」

「あぁ!何が平和だ、何が外交だ!?ハリソノイアの誇りなんざ持ち合わせちゃいねーってのか!」


 男は語気を強めた。

 リリニシアの後ろで話を聞いていたシェリルが聞く。


「現大王は、他国と外交を深め、平和を目指そうとしているのですか?」

「…胸くそ悪ぃ話だぜ」

「戦わなくていいのなら、歓迎すべきことのように感じますが…」


 悪態を肯定と捉えたシェリルが続けた。


「冗談じゃねぇ!…ハリソノイアも、もう終わりかもな」


 男は自嘲気味に笑った。

 シェリルに変わり、腕を組み、関所に体を預けたスウォルも尋ねる。


「そんなに気に入らねぇなら、その“クソ女”がやったみてぇに取って代わっちまえばいいんじゃねぇか?あんたらには“当然”の話なんだろ?」

「はっ。それが出来るヤツがいるなら、その日の内に殺されてたろうぜ」

「…そんなに強いのかよ」

「バケモンだ」

「名前はなんてんだ?」


 スウォルの問いに、男は口にするのも嫌そうに、一瞬躊躇った。


「…“ユミーナ・クオシャー”」

「そうか。助かった」

「僕からも一ついいですか?」


 最後方で手頃な岩に腰を掛けたレピも続いた。


「貴方は先程、“負けたヤツが悪い、殺されて当然”と言いました。もし今、僕たちに殺されていても構わない、ということですか?」

「そうして欲しいモンだな」

「…?どういう意味ですか?」


 自身の質問に対する回答として成立していないと考えたレピは、続きを促した。


「殺す価値もねぇんだろうが、俺らには。…クソッ」

「…価値があるから生かすのでは?」

「あ?何言ってやがる?」


 男はレピの言葉を、本気で理解できていないようだった。


「…僕たちとハリソノイア人(あなた方)とは、前提となる価値観から違っているようですね」

「あぁ…?」

「あなた方にとって、敗れて生かされることは屈辱なのですか?」

「…あぁそうか、お前らはヤクノサニユ人なんだったな。軟弱なヤツらめ」


 感覚の相違に困惑する男だったが、一行がヤクノサニユからの旅人であることを思い出し、忌々しそうに吐き捨てた。


「僕はマキューロ人なんですが…」

「んなこたぁどうでもいい!テメェらもあのクソ女と同じかよ…」

「同じ?なにがです?」


 クソ女…ユミーナ・クオシャーについて更に情報を得られそうだと踏んだレピは、質問を重ねる。


「あの女…手前(てめぇ)が大王になってから何人挑んで来たって一人も殺してやがらねぇ。全員生かしてやがるんだ…」

「敗れた者が殺されるのが当たり前、なんですよね?」

「あぁそうだ!なのにあの女…!」

「…気になっていたのですが、その口振り…もしかして貴方自身も?」

「…クソッ」


 男は悔しそうに俯き、黙った。

 聞きたいことは概ね聞けたか。

 四人で目配せし、頷くと、スウォルが立ち上がりながら言う。


「色々教えてもらって助かった。迷惑掛けて悪かったな」

「…」

「…行こう」


 男は沈黙し、答えない。

 自尊心(プライド)に傷を付けたことを悟ったスウォルが、仲間に出立を促した。


「うん」

「分かりました」

「そうですわね!…あ、ちょっとお待ちになって!大事なことを聞いていませんでしたわ!」

「まだ何かあるのか!?」


 傷心の中、解放されたと期待したのに裏切られ、男が苛立ちを込めて言った。


「中央部って歩いてどのくらいかかりますの?」


 数時間後──。


「と~お~い~で~す~わ~!!」


 リリニシアは全力でぶーたれていた。

 関所を後にした一行は、“歩いて一ヶ月かかる”というハリソノイア中央部を目指し、ひとまずもっとも近くの町で休むことを決め、それでも半日かかるという道のりを踏破するため、荒れた林道を歩き進めていた。


「聞き覚えあるなぁ、それ…」

「あぁ、俺も…」


 リリニシアの隣を歩くシェリル、少し前を歩くスウォルは、旅立ち直後の様子を思い出し、苦笑した。


「リリニシア様、せっかくですので少し、お伺いしたいのですが」


 女性二人の少し後ろ、最後方を歩くレピは、気遣って声を掛ける。


「あら、なんですの?」

「えぇ、リリニシア様の魔術についてですが」


 喋りながら歩きを早め、リリニシアの隣に並ぶ。

 シェリルは“魔術の話なら二人の方が”と、同じく歩きを早め、スウォルの隣に追い付いた。


「マキューロ人でもない方が独学で魔術を修めるなんて聞いたこともありません。どのような勉強を?」

「修めると言っても、火の魔術(オレム)癒しの魔術(チュリヨ)だけですわよ?」

「それでもですよ。マキューロ人でも修行を初めてから、一つ目を修得するまで五年は掛かります」

「そんなに掛かるんですの!?」


 先程までと打って変わって、リリニシアの楽しげな声に、シェリルも嬉しそうに笑った。


「なぁ姉ちゃん、俺今気付いたんだけどさ」

「ん、なに?」

「レピさんが入ってくれて一番助かるの、リリニシアの相手してくれることだよな」

「あ、あはは…」


 否定できないシェリルは、嬉しそうな笑顔を再び苦笑に変えた。


「リリニシア様は、どのくらいの勉強でその二つを?」

「えぇと確か…始めたのが9歳くらいでしたから…八年ほどでしょうか」

「八年…。ヤクノサニユ人が、八年で、独学で…!」


 レピが驚嘆する。


「マキューロ人に並ぶ…いえ、大半を超える速さですよ」

「も、もしかしてワタクシ、天才というヤツだったりするのかしら…!?」

「リリニシア様が凡才なら、マキューロ人は皆、凡才以下ですよ」

「お…おーっほっほっ!そうでしょう?そうでしょう!?」


 リリニシアの高笑いが響く。

 さっきまであんなにぶーたれてたのに、現金なモンだ。

 スウォルも苦笑を浮かべた。


「それだけに惜しいです。もしリリニシア様がマキューロに産まれていれば…」

「そ、そんなに変わるものですの?」

「こと魔術に関しては、マキューロでの一年は他所での十年、あるいはそれ以上に相当すると言われています」


 レピは分かりやすく、両手の指を立て、バッと広げて見せた。


「じゅ、十倍以上ですの…!」

「教え方も確立していますし、環境も魔術に向いていますから」

「環境…そうですわね、自然の力を借りるのですから、環境には大きく左右されますわよね」

 

 周囲の林を見回し、何度も頷き納得を示す。


「えぇ。例えば科学の国(ティサン)のような自然が破壊されたような環境では、一生掛けても修得は難しいのではないでしょうか」

「なるほどぉ…!」

「リリニシア様の才能に興味が湧いてきました。僕でよければ旅の途中、少し手解きしましょうか」

「本当ですの!?」

「僕もまだまだ修行中の身ですが、それでよければ喜んで」


 ハリソノイア嶺の関所を通り過ぎしばらく進めば、流石に魔物もそうそう現れない。

 大きな問題も起こらず、夜には無事、関所からもっとも近い町に辿り着いた。


 昨晩眠らなかったシェリルは、宿に着いた途端に眠りに落ち、リリニシアは一人、上機嫌で入浴に向かい、男二人が残された。


「いやー、レピさんには頭上がりませんよ」

「なにがです?」


 スウォルはベッドに腰掛け、レピに感謝を述べた。

 何に対する感謝か読み取れず、レピは困惑する。


「既にリリニシアの扱いを分かってる、って感じじゃないですか」

「扱い、ですか?」

「ほら、おだてて操縦するのが一番って」

「…あぁ、昼のですか」


 ようやくスウォルの言いたいことを理解したレピは、しかし首を横に振った。


「あれは“おだて”なんかじゃありません。全部本心ですよ」

「え…そうなんですか?」

「はい。もしリリニシア様がマキューロに産まれ、幼い頃から修行していれば…今頃、あの若さで()()()に名を連ねていたかもしれません」

「げんろーいん?」


 聞きなれない単語をおうむ返しするスウォルに、レピは別の表現を探し、続けた。


「マキューロの…まぁ、権力者とでもいいましょうか」

「ふーん。それ、魔術が上手いとなれるんですか?」

「えぇ。まぁ、()()上手いと、ですけどね」

「ハリソノイアみたいですね、なんか」

「え?」


 スウォルが率直な感想を漏らすと、レピは思わずすっとんきょうな声をあげた。


「ここも、大王より強ければ取って代われるんでしょ?」

「…まぁ、そうとも言えるかも知れません。それよりスウォルくん、そろそろ眠りませんか?明日からも歩き通しになりそうですし」

「んー…そうですね、寝ますか」


 複雑な心境のレピだったが表情には出さず、スウォルもそれに気付くことなく、やがて二人とも眠りについた。


 そして翌朝──。

お読みいただき、ありがとうございました。

温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は4月21日20時にXでの先行公開を、22日20時に本公開を行う予定です。


~次回予告~

翌朝、一行を尋ねて現れた女性は、背に大きな斧を背負い、武装した兵を引き連れていた。

応対したシェリルは警戒を強めるも、女性は敵意がないことを示しながら言う。

「君たちを迎えに来た」


次回「勇者一行とお出迎え」

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