勇者一行と関所の男たち
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
リリニシアには扱えぬ魔術を披露し、魔術師としての腕を見せつけたレピを加え、ハリソノイアの中央部に向け歩を進る一行。
関所で止められ、“ヤクノサニユから来た”と伝えると、兵たちは警戒を強め、武器を抜くのだった。
「なんでそうなんだよ!」
ハリソノイアの男たちが武器を抜いたのに応じスウォルが剣に手を伸ばすと、リリニシアはそれを制した。
「待ってください!ワタクシたちに敵対の意思はありませんわ!」
「ふん…テメェらになくてもこっちにはあるんだよ。ヤクノサニユ人の上にあのクソ女の客だ?冗談じゃねぇ」
「…さっきから、自国の統治者を指す呼び方とは思えませんわね。どういうことですの?」
対話で収める糸口を探し、リリニシアは言葉を紡ぐが、男たちは聞く耳を持たなかった。
「テメェらには関係ねぇことだ!」
一人の男が剣を振りあげ、リリニシアに斬りかかる。
スウォルが間に滑り込み、盾で受け止めた。
「こうなっちゃやるしかねぇ!誰も殺すなよ!」
剣を押し返し、体勢が崩れた男の腹に蹴りを見舞いながら、仲間に声を掛けた。
「国王の孫ですわよ!?国際問題ですわよ!?なんで躊躇ありませんの!?」
「シェリルさん、ちょっと」
リリニシアが騒ぎ、剣を抜いたものの斬る訳に行かず、スウォルが盾で敵を捌く中、レピはシェリルに声を掛けた。
「なんです?」
「剣を抜いてください」
「で、でも相手は人で──」
「分かっています。殺さず無力化するのでしょう?」
「…わ、分かりました」
理解した上で剣を抜け。
レピの思惑が読めず、しかし理解しているのなら、とシェリルは従った。
「動かないでください。…纏わせる雷の魔術」
「えっ…!?」
レピが呟くと、シェリルの剣は青白く輝き、パチパチと弾けるような音を立て始めた。
「剣に雷を纏わせました。切るのではなく、平たい面で叩く形であっても、充分戦えるかと。威力は抑えていますので、うっかり死なせてしまうこともないでしょう」
「すごい…こんなことまで…!ありがとうございます!」
レピに礼を言ったシェリルは、棍棒でスウォルの盾を殴っている男の懐に潜り込み、その腹を剣で殴った。
青白い火花が輝き、バチッ、と弾け、男は意識を失った。
「姉ちゃん!?なんで斬って!?」
「いえ、斬れてませんわ!今のは…?」
盾で見えないスウォルと違いリリニシアからは、男が出血していないことが見て取れる。
「スウォルは下がって、リリニシアとレピさんを守ってあげて。人を相手に魔術を使わせるのも怖いしね」
斬る訳にも行かず防戦一方だったスウォルを押し退け、シェリルが一人、前に出た。
「ね、姉ちゃん…」
「ここは私が」
「大丈夫なんですの!?」
「…姉ちゃんに任せよう」
足手纏いなんかじゃないと誇示するように。
「な、なんだ…?」
一方、男たちは困惑している。
屈強なハリソノイア人の男が、華奢な女の一撃で昏倒させられた。
剣で攻撃したようだったが、斬られた訳でもない。
「な…何をしやがったんだ!?」
「…リリニシアが言った通り、私たちに戦う意思はありません。その方も死んではいないはずです。…たぶん」
一度言葉を切ると、剣を握り直し、構えながら続けた。
「ですが私たちを阻もうとするなら、皆さん眠っていただきます」
「…っざけんな!!」
剣を持った男が激昂し、シェリルに向けて振り上げた剣を切り下ろす。
剣は右足を一歩引き、体を少しひねったシェリルを紙一重で逃し、空を斬る。
シェリルは殴るのではなく、首筋に軽く剣を当てた。
バチッ。
「が…っ!」
男は短い悲鳴をあげて崩れ落ちた。
「…これでも充分、か」
威力を確かめたシェリルは、残る男たちに向け、再び構え直した。
一方、リリニシアと共にレピの元まで下がり、二人の前で盾を構え、有事に備えながら、スウォルを目を丸くしていた。
「ど…どういうことだ…?」
姉の動きに、ではない。
彼女の剣が発光し、弾けるような音を立て、触れた程度の敵を気絶に追いやったことに対してだった。
「あ…あれが勇者の剣の力…なのか…?盾にもあんな…?」
思えばシェリルがあの剣を武器として使うのは初めてだ。
…というより、まともに握ることすら洞窟で最初に触って以来。
盾に視線を落としたスウォルに、レピは真相を話した。
「いえ、あれは僕が付与しました」
「え?レピさんが?」
「では…魔術ですの?」
「はい。ディケン…雷の魔術を剣に纏わせています。一時的なものですが」
「そ、そっか…。剣の力じゃないのか…」
スウォルが小さく肩を落とす。
そんな話をしている間に、一人、また一人と敵を昏睡させていくシェリルを見て、レピは疑問を口にした。
「しかし…妙ですね。あそこまでの威力は与えていないはずなのですが。…というか、徐々に威力が増しています」
「そ、そうなんですの?」
「はい。音も火花も、明らかに強くなっています。どういうことでしょう…」
遅れて状況を理解したスウォルとリリニシアには分からないが、魔術を掛けた張本人であり、最初から状況を把握しているレピには一目瞭然だった。
「レピ様に分からないことをワタクシが考えても分かりっこありませんわね。…シェリル、あんなに強かったんですの…?」
威力が増していることについては魔術師に任せることにしたリリニシアは、目の前の光景に対する素直な感想を漏らした。
スウォルは少し誇らしげに頷き、答える。
「言っただろ?その気になりさえすりゃあ、姉ちゃんは強い。今回みたいに殺さない戦いなら尚更だ」
「シェリル…」
「力じゃ俺のが強いけど、今はレピさんの魔術があるからな…」
「だから…魔物とは戦いたくないんですのね。勇者の剣ならば、殺せてしまうから」
「…」
スウォルは、何も言えなかった。
「ですがマズいですね、あそこまで威力が上がっては…。人間相手なら触れただけでも、命を落としかねません」
レピが汗を滲ませながら呟く。
「え!?か、解除出来ねぇのか!?」
「離れた位置では…。手元にあれば出来るのですが」
「…シェリルー!もういいですわ、お戻りなさい!」
リリニシアが声を張り上げるが、命を狙う敵を相手取り、意識を集中しているシェリルの耳には届かなかった。
「さぁ、貴方が最後です」
「くっ…くそ…!」
更に魔術が威力を増している剣を構え、シェリルは最後の一人、槍を持った男と相対していた。
「ハリソノイアを…ナメるなァ!!」
鋭く踏み込み、突き入れる。
剣の男の時と同じように見切り、最低限の動きで槍を躱し、その首元に剣を当てようとしたところ──
「ぐあっ!?」
男を肩で弾き飛ばし、スウォルが盾で受け止めた。
「スウォル!?」
「もういい姉ちゃん!そんなん当てたら死んじまう!」
「何を──」
「スウォルくんの言う通りです、シェリルさん」
「レピさん?」
状況を飲み込めないシェリルに、レピが語り掛けた。
「よく見てください。私が魔術を掛けた時より、明らかに威力が増しています」
「え…?」
改めて、バチバチと弾け、ぼんやりと輝く剣を見る。
言われてみれば──
「音と光が、強くなってる…ような…?」
「はい。申し訳ありません、僕の計算違いでした。まさかこんな現象が起こるとは…」
「い、いえ…?」
「その威力では、軽く触れるだけでも人を死に至らしめてしまうかも知れません」
「え!?」
レピがシェリルに説明し、魔術を解除する間、スウォルは剣を抜き、自分が押し飛ばした男に体を向け直し、語り掛けていた。
「悪いな、選手交代だ。こっからは俺が相手になるぜ」
「くっ…」
男は立ち上がり、槍をスウォルに向けながら、チラリと周囲も見る。
「…最初の方に倒れた方々は問題なさそうですが、後の方は…仕方ありませんわね。癒しの魔術!」
“ヤクノサニユ王の孫娘”と名乗った小娘が、倒れた仲間に何かをしている姿が見えた。
トドメを刺しているようには見えない。
あれは…魔術か?ヤクノサニユ人が何故?
男は一行の得体の知れなさを認識すると、構えを解いた。
「…分かった、俺たちの負けだ。好きに通れ」
「あん?いいのかよ」
「お前たちの方が強かった以上、やむを得まい」
「…」
敵意が消えたと感じたスウォルも、剣を収め構えを解く。
一行は、ハリソノイア中央への通行を許された。
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次回は4月14日20時にXでの先行公開を、15日20時に本公開を行う予定です。
~次回予告~
一人も殺めることなく関所の兵を屈服させた一行は、兵から現在のハリソノイアの情報を一通り集める。
ハリソノイア中央部までは遠く、ひとまず近くの町で休息を取ることにした一行。
その道中、レピとリリニシアは魔術談義に花を咲かせるのだった。
次回「勇者一行と交わらぬ価値観」