#61 リリーと名乗る少女
閲覧いただき、ありがとうございます。
勝手に一人で一周年キャンペーン中のみそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
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以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
レピの故郷に辿り着き、最初に出会った老婆に話を聞くと、崖を落ちた二人らしき人物は確かに来て、既に発った後だと言う。
詳しく話を聞くため老婆の家に訪れると、レピの昔馴染み、ラツンジパが暮らしていた。
ラツンジパはスウォルと、リリーと名乗る少女の様子を、一行に語る。
「ヤクノサニユの…使者団?」
自らと転がされている少年が"ヤクノサニユ王からの使者団の一員"だと言う、リリーと名乗る少女。
ラツンジパをはじめ、現地の青年たちは、彼女の言葉を繰り返すことしか出来なかった。
「そうです!決して敵ではありません!どうかお助けください…!」
「なんでレピ兄ちゃんが、ヤクノサニユの使者団に加わってるんだ」
「レピさんは…別口で、個人的に旅をしておられました。偶然出会って、お互いの利害が一致したことので行動を共にしておりましたわ」
「…その利害ってのは?」
「それは…」
ラツンジパの問いに、リリーは僅かに目を伏せ、しかし間を開けず答える。
「ワタクシたちは、先ほど申し上げた通り、ヤクノサニユ王・ゼオラジムの命により、マキューロを含めた各国を回ることを目的としております。レピさんは"禁じられた魔法"について調べていて、その為に他国を回るのは都合がいい、とのことですわ」
「禁じられた魔法…?魔術じゃなくてか?なんだそりゃ?」
「"魔法"です。ワタクシもよく分かっておりません。レピさんの目的には干渉せず、ご本人にお任せしています」
不審がる様子を隠さず、ラツンジパは更に質問を続けた。
「…あんたたちはマキューロに何の用で?」
「国家間でのことです、住人の皆様に具体的な内容は申し上げられません。ただ、決してマキューロや皆様に害をなそうとは考えておりません」
「…少し待て。どうする…?」
「お願いします…。もう半日も目を覚ましてなくて…!」
リリーが攻撃的な武装をしていないこと、スウォルの体を抱くリリーの答弁に不審な点が見受けられないことを認めたラツンジパは、しばし仲間たちと協議した後、リリーに向き直った。
「俺だけで充分だ、皆は崖の様子を頼む。…監視はさせてもらうぞ、リリーさんよ」
「もちろん構いません。ありがとうございます…!」
「あんたは自分で歩けるな?」
「えぇ、歩けます。…あ、お待ち下さい!」
ラツンジパがスウォルを担ぎ上げようとすると、リリーは慌ててそれを制する。
「左腕の盾には触れないよう、お気を付けください」
「盾?なんで?」
「その盾は特別な物でして、スウォル以外の者は触れることが出来ず、弾き飛ばされてしまいますの」
「…そんなことあるのか?」
「お気持ちはわかりますが、実際にありますもの」
ラツンジパは半信半疑で、しかし忠告を無視し恐る恐る、スウォルの盾に手を伸ばす。
──バチッ。
「うおっ!?本当に弾かれた…!?」
彼女の言った通り、盾はラツンジパの指先を弾き飛ばす。
聞いていたとは言え、それが事実だったことに驚くラツンジパだったが、見ているリリーは、別の意味で驚いていた。
「そ…それだけですの?」
「え?」
「あ、いえ、前にレピさんがシェリルの剣に触れようとした時には、結構痛そうにしてらしたのですが…。音ももっと大きかったですし…」
「シェリル?」
咄嗟にリリーが口にした聞き慣れない名にラツンジパが首を捻ると、リリーは口に手を当て、少し迷った末、"シェリル"のことを語る。
「あ、スウォルの双子の姉で、同じ性質を持つ剣を持っていますの。…どういうことですかしら…」
「よく分からんが…とにかく行くぞ」
「あ、はい。そうですわね…」
リリーは顎に指を当て、考え込み始める一方ラツンジパは、今度は盾に触れないよう注意しながらスウォルを肩に担ぎ、仲間たちに仕事を託し、リリーを連れて引き返す。
集落までの道中、ラツンジパはリリーに質問を重ねた。
「レピ兄ちゃんから聞いてたのか?」
「えぇ。幼い頃に離れてしまった故郷が、あの崖から東にあると。本来であれば全員で安全に崖を下り、その集落を経由して更に東に向かう予定でした」
「東…シャファルノールか。国からの使者なら、目指す先はそうだろうな」
「はい。そちらで元老院の方々にお話を」
「元老院、ね。…あの老害どもが他所の使者様と、何の話をするのやら」
「…なんとお呼びすれば?」
軽い口調ながら不快感を滲ませるラツンジパに、リリーは恐る恐る、質問を返す。
「俺か?ラツンジパだ」
「…難しいお名前してらっしゃいますわね」
「同感だ。ウチの村には古くから、名前は"ら、り、る、れ、ろ"で始まり、"ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ"で終わらせる、なんてよく分からん風習があるらしくてな。俺が生まれた頃には、もうあってなかったようなモンだが、祖母ちゃんが風習にこだわったせいでこんな名前だ」
ラツンジパの説明に、リリーは何度も頷き、納得を示した。
「なるほど、レピさんもその風習に沿ったお名前なんですのね」
「あぁ、兄ちゃんの名付け親もこだわりが強い方だったんだろうな。…にしても、レピ兄ちゃんみたいに呼びやすい名前にしてもらいたかったモンだがな…」
ラツンジパの魂のこもったボヤキに苦笑しながら、リリーは改めて質問する。
「…それで、ラツンジパさんは、革新主義者なんですの?」
「革新?なんだそれ?」
「レピさんがそう表現してらっしゃいました。マキューロ人には原理主義者と革新主義者がいると」
リリーの説明に、ラツンジパは首を捻った。
「兄ちゃんが?なんでわざわざそんな言い方…」
「他に言い方があるんですの?」
リリーに問われ、ラツンジパは一瞬、顔を顰め、回答を避ける。
「…ま、いいけどよ。その言い方なら、若い世代はだいたい革新主義だ」
「そうなんですの。ご年齢によって別れるモノなんですのね」
「あとは地域だな。村なんかは比較的、国境に近くてヤクノサニユ人の出入りもあるから、革新主義者が多い。…けど俺の祖母ちゃんはゴリゴリの原理主義者だ。たぶん不快な思いすることになるぞ、"余所者が"って」
「ふふ…それは怖いですわね。心しておきますわ」
精神的に余裕が出来たか、リリーも笑顔を見せた。
「魔術に関しては一流なんだけどな…」
「そうなんですの?」
「あぁ。若い頃には元老院の候補に名を連ねたって話だ。蹴っちまったそうだが…村で一番なのは今でも同じはずだ。…ところで、一つ気になるんだが」
「えぇ、なんでしょう?」
「スウォルと二人で崖から落ちたんだろう?あんたは傷だらけなのに、コイツはなんで無傷なんだ?」
「それは、その…」
ラツンジパの問いに、リリーは答えを口ごもる。
「言えないか?」
「いえ、お話しても信じていただけるか、と思いまして」
「それは聞いてからこっちで決める」
「…治療の魔術ですわ。ご存知の通り、肉体は回復させられても、体力までは…」
リリーはどこか歯切れ悪く、どこか申し訳なさそうに答えた。
「…レピ兄ちゃんは、他の二人と一緒に崖の上なんだろ?」
「えぇ。ですので…ワタクシが」
「…どういうことだ?何を言ってる?」
「ワタクシ、治療の他、火と氷の魔術を扱えますの。と言っても、繊細な制御は出来ない上、治療は決して得意ではありませんが…。今は風を練習中ですわ」
リリーの言葉の意味を処理できず、ラツンジパは足を止め、キョトンとした顔で彼女を見つめる。
「ヤクノサニユ人なんだろ?あんた…」
「はい。独学で火と治療を、レピさんに教わって氷を習得しましたわ。よろしければご覧に入れましょうか?」
「…やってみろ」
「承知致しました。──火の魔術」
上に向けた片手の平の上に、リリーは確かに、顔の大きさほどの火の玉を作り、自らの能力の一端をラツンジパに垣間見せた。
「これが、今のワタクシが意図して出せる、一番小さなオレムです」
「…ウソだろ、ヤクノサニユ人が…」
「レピさんからは"才能がある"とお褒めいただいてます」
目を丸くし絶句したラツンジパは、思わず足を止め、やっとの思いで声を絞り出し尋ねる。
「…独学、って言ったな。ヤクノサニユ人が、いったいどうやって…」
「どう、と申されましても…本を頼りに、8年ほど費やして…ですかしら」
「8年…?ヤクノサニユ人が、たったの8年で…」
「…ラツンジパさん、申し訳ないのですけれど、スウォルが…」
「あ、あぁ…済まない」
リリーに急かされたラツンジパは慌てて足を動かし、村へと急いだ。
「ただいま、祖母ちゃん」
「あぁお帰り。…なんだい、その荷物は?嫌なニオイだね。それに後ろの娘」
「ヤクノサニユからのお客さんだ」
「…なんだって?」
鋭い目つきで睨み、担がれるスウォルを"荷物"と呼ぶ老婆に、リリーは怯むことなく、慇懃に頭を垂れた。
「お初にお目にかかります」
「なんでヤクノサニユ人なんか連れてきた?村に入れるどころか家に…あたしの前に連れてくるってのはどういう了見なんだい」
「だからさぁ…もうこの村でそんなことにこだわってんの、祖母ちゃんだけだって。いい加減受け入れてくれよ、変化をさ」
「フン…出ていきな。ここにあんたの居場所はないよ」
老婆は孫の言葉に耳を貸さず、依然として厳しい目つきで言い放った。
「…ご迷惑をお掛けするつもりはありません。仲間が目を覚まし次第、すぐに出ていくとお約束いたします。どうかお助け──」
「知った事じゃないね。余所者は出ていけ」
「…な?言った通りだろ?」
「ですわね…」
リリーの嘆願を遮り、ラツンジパの予告通り“余所者”を排除しようとする老婆に、二人は顔を見合わせ、苦笑する。
「何がおかしいんだい、さっさと──」
「この子、魔術が使える」
「…なんだって?」
今度はラツンジパが老婆の言葉を遮ると、老婆は目を見開き、顔色を変えた。
「リリー、見せてやってくれ」
「かしこまりました。では今度は──氷の魔術」
先ほどと同じく手のひらを上に向けたリリーは、やはり顔の大きさほどの氷を、その手に生み出して見せ、その重量に慌ててもう片手を添える。
「な…!?」
「それも一番小さいヤツか?」
「えぇ…!ご覧の通り、細かな制御は苦手でして」
「ふん。面白いじゃないか。…入りな。」
「痛み入りますわ」
かくしてリリーは無事、スウォルと共に、はぐれた仲間の故郷で宿を確保することに成功した。
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~次回予告~
名を偽ったリリニシアが、ヤクノサニユ人でありながら魔術を使用するのを目にして、強硬な姿勢を改め、迎え入れることを許した老婆。
“元老院入りを蹴った”という老婆に、リリニシアはまず、その理由を問う。
次回「女二人で」




