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勇者一行の国境越え

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。


~前回のあらすじ~

城下街を出てしばらく、魔物が現れた。

初の実戦と意気込むスウォルだったが、シェリルはすっかり怯えてしまい、戦えそうにない。

しかし魔物を倒すのに必要な“勇者の剣”を扱えるのはシェリルだけ。

やむを得ず目的を撃退に切り替え、持久戦を仕掛けると、魔物は補食を諦め、去っていった。

その晩、シェリルは宿の風呂場で、リリニシアに胸中を明かした。

「殺したくない」──。

 翌朝、一人早く眠ったスウォルは最初に目を覚まし、眠る二人をそのままに風呂に向かった。

 昨日の疲れを湯に溶かすように、ゆっくり楽しんでからあがると、既にリリニシアが目を覚ましていた。


「あ、リリニシア様、おはよ──」

「ス・ウォ・ル」


 リリニシアは口に人差し指を当て、もう一方の手で眠るシェリルを指しながら、強調してスウォルを呼び捨てにした。

 昨日のやり取りを思い出し、声を潜め口調を改める。


「…リリニシア、おはよう」

「えぇ、おはようございます」

「姉ちゃんはまだ?」

「えぇ、お疲れだったのでしょうね」

「はは、相変わらず寝相悪ぃな。…思ってたより、だったなぁ」


 毛布を蹴飛ばし、右の手足をベッドの外に放って眠るシェリルを眺め、脳裏に魔物との戦いを思い浮かべながら、スウォルはボソリと漏らした。


「思ってたより?」

師匠(せんせい)が言ってた通り、手合わせなら俺より強いんだ。強いっていうか()()()っていうか」

「…」

「でも性格的に喧嘩とか戦いには向いてなくて。…それは分かってたんだけど、昨日は…」

「なるほど、思ったよりも…」


 黙ってコクリ、と頷き、わずかの間を空け、続けた。


「ちゃんと強いのは知ってるから正直、いざとなれば…と思ってた。戦うどころか、逃げることも出来なくなるなんて…」

「…」


 昨晩シェリルの思いを聞いているリリニシアは、複雑な思いを抱え、押し黙った。


「考えないとな。これからどうするか」

「いわばヤクノサニユは、人間界(こちら)の中心部。ハリソノイアの魔界側ならともかく、魔物が現れることなんて多くはないはずですが」

「とはいえ、昨日のことだってある。それに俺たちも、そのうち魔界に行かなきゃならない」

「そうですわね…」

「…本当に、逆だったらよかったのにな」


 傍らに立て掛けた盾を見て、ため息をついた。


「そうすりゃ姉ちゃんは戦わなくて済むし、俺はカッコいいとこ持って行けたのに」

「…驚きましたわ」

「え、なにが?」

「前半。後半しか頭にないと思ってましたのに」


 茶化すように、リリニシアは小さく笑った。


「ひどくない?…実際、極端な話、盾は普通のだって戦える。剣は…」


 魔物を撃退した後の会話を思い出したリリニシアは尋ねた。


「昨日言っていた、“死ぬまで殺す”というのは…」

「いくら魔物といえど、無限に再生出来る訳じゃない。魔力が尽きれば再生は止まる。その後なら…師匠なんかは実際に殺してるって話だしな」

「さすがグラウム様ですわね」


 わずか一日前の出来事だというのに、スウォルは懐かしむように目を細めた。


「…引き分けなんて言ってくれたけど、実際には足元にも及ばねぇや」

「…」

「でも…嬉しかった。認めて貰えたような気がして…。感動する間もなく余計なこと言いやがったけど」

「そうでしたわね…」


 “余計なこと”を思い出し、揃って小さく吹き出した。


「…さて、考えるのは後にして、そろそろシェリルを起こして食事に致しません?」


 窓の外に目を向けると、既に日は高く登っていた。

 ちょうど昨日の旅立ちと同じくらいだろうか。


「あぁ、もう昼になるのか。そうだな、俺も腹減った」

「そうでしょう。…シェリル、そろそろ起きてくださいな」

「ん…んぅ…んぁ?」


 リリニシアが呼び掛けながら体を揺すると、眠たそうに目を擦りながら、シェリルは呼び掛けに答えた。


「おはようございます、シェリル」

「ふぁ…ん。おはよごじゃいます…」

「姉ちゃん朝弱いよな~。寝相も悪いし」

「スウォル…おはよ…」

「顔を洗っておいでなさいな。その後で食事に致しましょう?」

「ふぁい…」


 少し後、目をシャキっとさせ戻ってきたシェリルを含め、三人は卓についた。

 スウォルの案で買い込んだ肉を前に、シェリルがおずおずと切り出した。


「二人とも、食べながらでいいから聞いて。…昨日はごめんなさい」


 深く頭を下げた。


「気にしなくていいと言ったじゃありませんの」

「…」


 慰めるリリニシアと対照的に、スウォルは黙って、姉の次の言葉を待った。


「でも…役目を果たさないのなら…私たちが旅をする意味自体がなくなってしまうから」


 声を震わせるシェリルに、リリニシアも口をつぐむ。


「頭では分かってる。…分かってたの、昨日だって。…でも私──」

「…ん?」

「リリニシア?」


 つぐんだはずの口を、思わず開いてしまった。


「ちょっと待ってくださる?…スウォル、ワタクシたちの旅の目的ってなんだったかしら」

「何って…魔王を倒すのと、色んな国を回って仲良くしませんか、って…」

「よね?なら魔王だけ倒せばいいんじゃないかしら?」

「…ん?」


 双子は揃って首を捻る。


「ですから、別に魔物を全部殺して回る必要はありませんわよね?魔王と、殺さなきゃならないようなことをしてる魔物だけ倒せばよろしいんじゃなくて?」

「それは…そう、なのか…?」

「で、でも…」


 風呂で聞いた話を思い出したシェリルを制し、リリニシアは続けた。


「ワタクシの個人的な希望はどうでもいいのです。その為にシェリルを追い詰めたいなどとは微塵も思いません」

「…」

「両親が生き返る訳でもありませんしね」

「…ごめんなさい、ありがとう…!」


 シェリルは俯き、礼を言う。

 一方スウォルは、穏やかに笑うリリニシアが卓の下で拳を握りしめていたことに気が付くも、敢えて触れないことにした。


 その後も食事しながら会議を進め、“魔物を滅ぼすことが目的ではない”ことを確認し、“殺さず済むならそれでよし”と結論付け、三人が宿を出たのは昼過ぎのことだった。


 それから集落での宿泊や夜営を挟みながらひたすら歩みを進め、幸いにも新たな魔物と出会うことなく、ヤクノサニユとハリソノイアの国境に辿り着いたのは、出立から五日後、日付が変わる直前のことだった。


「ここは…村?…だったのかな?」


 国境を越える直前、灯りの一つもなく人気ひとけのない廃村を見てシェリルが呟くと、リリニシアがそれに答える。


「えぇ。確か…15年だかそれくらい前に、魔物に襲われ、滅びてしまったのだとか。今は住人の一人さえいないと聞きます」

「魔物に…」

「…やっぱ、倒さなきゃならんヤツは倒さなきゃいけねぇよな」


 決めた方針を揺らがす魔物の存在を改めて認識し、緊張が走る。


「お二人とも、ここがヤクノサニユの最北端、この廃村からはハリソノイア嶺です。いきなり襲われはしないと思いますが…人を相手取る可能性もお覚悟なさいませ」

「…」

「では、参りま──」


 リリニシアが言い終わる前に、彼女の言葉は遮られた。

 キィン、と響く甲高い音と、薄く輝き、振動する剣と盾。

 あの現象が、再び訪れた。


「なっ…また!?」

「なんなんだよコレ!?」

「なんですの?またですの?」


 困惑する三人の耳に、続いて聞こえたのは──


「うわぁあああ!!」


 誰もいないはずの廃村から響く、若い男性の悲鳴だった。


「人!?いないんじゃ!?」


 シェリルが振り向き、“話が違う”とでも言いたげな目付きでリリニシアを見つめる。


「ワタクシに言われましても!」

「言ってる場合か!助けるぞ!」

「えぇ!」

「分かりましたわ!」


 三人が廃村に駆け込むと、開けた場所で、座り込みながらジリジリと後退する男性の姿はすぐに捉えられた。

 そして、対峙していた魔物の姿も。


「…!?」


 三人は固まった。なぜなら──


「きしゃー!」


 男性の前に立ちはだかっていた魔物が、人の脛くらいの体高で、一生懸命に二本の足で立ち上がり、両手を目一杯に広げて威嚇するネズミのようなネコのような…一言で言えば、愛らしい姿だったからだ。あとなんか丸い。


「…魔物、だよな?アレ…」

「きゃぁぁああああ!可愛いのがいますわー!!」

「…昨日といい今といい、もしかして」


 三人がバラバラの反応をしている間も、魔物は威嚇を続け、男性は狼狽えている。


「きしゃー!」

「うわぁぁあああ!た、助けてー!!」


 少なくとも男性にとって一大事であることを悟った三人は、盾を構えたスウォルを先頭に、魔物と対峙する形で割って入った。


「きしゃー!」

「あ、貴方たちは!?」


 男性の疑問に、スウォルは声を荒げ、答える。


「説明は後だ!こんな見た目(ナリ)でも魔物だ…たぶん!気ぃ抜くなよ!」


 そのまま仲間に注意を促すと、リリニシアが複雑そうな表情で頷いた。


「そうですわね…心は痛みますが、とりあえず燃やしてみます?」

「“とりあえず”で燃やすの!?」

「きしゃっ!」


 シェリルのツッコミを合図にしたかのように、魔物がスウォルに向かって突進しはじめた。


「しまっ──」


 仲間に気を抜くなと言っておきながら、自分が──。

 自省しながら、咄嗟に盾を構え直した。

 魔物はスウォルの盾に頭突きし、ガンッと鈍い音を立てると──


「きしゃっ」


 跳ね返され、ボテボテと転がり、元いた位置へと戻った。

 おもむろに立ち上がると、両手を広げ、何事もなかったかのように威嚇を再開した。


「きしゃー!」

「…」


 スウォルは魔物から目線を切らず、首を少しだけリリニシアに向け、頷いた。


火の魔術(オレム)

「え!?」

「きしゅぁああ!?」


 男性が驚き、声をあげるのを他所に、魔物は火に包まれた。

 地面をバタバタと転げ回り消火すると、火傷を再生させながら、トコトコと逃げ去って行った。


「…シェリルの気持ち、ちょ~っと分かりましたわ」

「あ、あはは…」


 苦々しい表情を浮かべるリリニシアをシェリルがなだめる中、スウォルを男性を助け起こす。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ…ありがとう、助かりました。君たちは──いえ、自分から、ですね」


 汚れた服をはたきながら、男性は名を名乗った。


「僕はレピ・エルトナ。魔術の国(マキューロ)から来ました」

お読みいただき、ありがとうございました。

温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は3月31日20時にXでの先行公開を、4月1日20時に本公開を行う予定です。


~次回予告~

レピと名乗るマキューロ人の青年魔術師を助け出した三人。

彼は自身の旅の目的を語り、利害一致と感謝から、三人に同行したいと願い出る。

協議の結果、“足手纏いはいらないから”と、まずは腕を見せてもらうことに。


次回「勇者一行と本場の魔術師」


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