#59 選択の覚悟
閲覧いただき、ありがとうございます。
一人で勝手に一周年キャンペーン中のみそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1368468/blogkey/3440477/
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
ティサン人であるカロニアの名を、これまで一度も読んでいないことを根拠に、レピの“対ティサン人意識”を問うシェリル。
レピは“根本的に合わない”としながらも、ティサンに入るまでに自分を見つめ直すと約束した。
一方、リエネは──。
「随分と危なっかしい真似をしたな」
比較的に損傷が少ない家屋を見付け、中で腰を下ろしたリエネは、同じく眠る準備を始めていたシェリルに対し、呆れを滲ませた声色で言う。
「…すみません」
「もし本当にヤツが抜けるって言い出したら、どうするつもりだったんだ?」
「それは…」
「お前のことだ、“マキューロにいる間なら他の魔術師を補充できる”なんて打算があった訳じゃないんだろ?」
「え…か、考えないですよ!そんなこと思い付きも…」
リエネが打ち出す“代替案”に、シェリルは慌てて首と手を横に振った。
「レピはそう言わないだろうって“仲間としての信頼”が本心だったことは分かるし、私もそう思う。だが…私に言わせれば信頼“だけ”だ」
「え…だけ…?」
自らが重んじ、レピ離反の可能性を承知で求めた信頼を“だけ”と断じられ、シェリルは言葉を失う。
「誤解するなよ。信頼が不要だとか、そういう話がしたい訳じゃない。“信頼できる相手に命を預けたい”ってお前の言い分はもっともだ」
「じゃあ…どういう意味ですか…?」
不安げな瞳で見つめるシェリルに、リエネは下手に不安を煽らないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「…“レピから見たカロニア”と比べれば、私たちはレピのことを知っているが…それでも、“レピのすべて”を知っている訳じゃない、ということだ」
「レピさんの、すべて…」
「あぁ。私たちが知らないだけで、もしかしたら私たちの信頼よりも優先すべき何かがあるかもしれない。もしレピの中で私たちより、ティサンに対する悪感情の方が大きかったらどうなってた?」
リエネの問いに、シェリルは目を泳がせ、囁くような声で答えた。
「…考えてませんでした」
「だろうな。…別に私は、お前を責めたい訳じゃない。レピも言ってたが、ティサンに入るまでにはしておかなければならなかった話だ。そういう意味で、間違っていたとは思わない。だが──“正しいこと”が常に“最善”だとは限らん」
「最善…」
飲み込むべくリエネの言葉を繰り返し、シェリルは顔を伏せ、思案する。
「今回は上手く話が纏まったが、あくまでも結果論だ。お前が“正しさ”を振るった結果レピが離脱、スウォルやリリニシア様を探すことも出来ず、私たち二人はこの森を二人で彷徨う…なんて、最善どころか、最悪に近い結末になっていてもおかしくなかった」
「…じゃあ、言わない方がよかった…ですか…?」
伏し目がちに声を震わせたシェリルに、リエネは一息吐いた後、ゆっくりと首を横に振った。
「いや…結果論だが、お前はレピへの信頼に賭けて必要なことを実行し、その賭けに勝った。繰り返すが、“お前は間違っていた”なんて言うつもりはない。だから私も強く止めなかった」
「…」
「私が言いたいのは“レピが離脱を選ぶ可能性”を認識しながら信頼だけで押し切って、“離脱した場合どうするか”をまったく考えていなかったことだ。お前が最悪を覚悟し、その上で正しさを貫くのなら、それも一つの選択だ。…シェリル、私の目を見ろ」
「はい…」
俯くシェリルの顔をあげ、目を合わせさせると、リエネは力強く見据え、続ける。
「時として“最善”の為に“正しくないこと”を飲み込むことが必要な時もある。“正しいこと”を為すなら“最善”を捨てなきゃならない時もある。本当にすべきことはなんなのか、しっかり考えて選ぶんだ。──お前は既に、それをしているだろう」
「え…?」
心当たりがなく困惑するシェリルに、リエネは優しい声色で言って聞かせた。
「ハリソノイアでのことを思い出せ。魔物の首を持ち帰って民衆に見せびらかすのは、お前たちにとって“正しいこと”ではないだろう?だがより良い結果──ユミーナ様の策を成功させる為、それを飲み込んだ」
「あ…」
指摘に目を見開くシェリルに、リエネは更に続ける。
「いや、そもそもを言えばお前の使命からしてそうだ。相手が魔物と言えど、命を奪うのはお前にとって"正しいこと"ではない。だが王命に従い、魔王を討つことが"最善の結果"に繋がると信じて戦っている。そうだろう?」
「…はい、そうです」
「意識してなかったかも知れんが、そういう意味では他でもない、お前自身が体現者と言っていい」
リエネに諭されたシェリルは、再び顔を伏せ、彼女の言葉を咀嚼する。
「いいかシェリル。"正しさ"か"最善"か、今後も選択を迫られる場面はきっと来る。今回は正しさを貫くことが最善に繋がる選択肢だったようだが、それら二つが相容れない局面だってあるだろう。どちらを選ぶにしても、その先に待つ結果を覚悟して選ぶんだ」
「覚悟…」
「…長話に付き合わせて済まなかったな。もう休んでくれていい。おやすみ、シェリル」
「…おやすみ、なさい」
リエネはそう言うと、静かに自分の言葉と向き合うシェリルを残し、横になった。
違うんです、リエネさん。
私…。
そして翌朝──。
「シェリルさん、そろそろ起きてください」
「んん…レピさん…?」
「えぇ、おはようございます」
「はい…あれ?私いつの間に…」
「レピが起こしに来た時には眠ってたぞ」
揺すって起こしたレピに続きリエネも、寝ぼけ眼のシェリルに声を掛ける。
「あ、リエネさんも…。おはようございます。…あれ、私、見張りは…」
「お疲れでしたのでしょう。随分と深く眠ってらしたようなので、リエネさんと相談して、"今回はゆっくり休んでもらおう"、と」
「昨晩は私のせいで、眠らせるのが遅くなってしまったからな…」
リエネは目を逸らし、申し訳なさそうに呟いた。
「そんな、リエネさんのせいじゃ…!」
「ふふふ…そちらでも建設的なお話が出来たようで。さぁ、食事を済ませたら、改めて安全に崖を下りられる場所を探しましょう」
慌てて否定する姿を見て、微笑みながらレピが差し出した食料をシェリルが腹に収めると、三人は再び動き始めた。
それからおよそ三日と少し──。
「あれが僕の生まれ故郷です」
崖の下に見えてきた集落を、レピが指差した。
「ほう、アレが」
「…」
「シェリル?」
反応を示さないシェリルの肩に、リエネが手を置く。
「え…あ、はい。なんです」
「あれがレピの故郷だそうだ。…何をボーっとしてる?」
「すみません、考え事してて…。滝から…えーと、前のところまで二日掛けて、あそこから三日…も掛かるんですね…」
「まっすぐ目指せば三日程度で済むでしょうが、僕たちは下りられる崖を探して時間と体力を余計に費やしていますから」
「…おい待て二人とも!」
故郷を眺めながら歩みを進める二人を、リエネが慌てて止める。
「見てみろ、ここ。比較的になだらかじゃないか?」
「本当ですか!?…これなら、頑張れば下りられるかも…!レピさん!」
「そうですね…。少々危険ではありますが、少々“しか”危険じゃないとも言い換えられます。…時間が惜しい、ここで下りましょうか」
「よし、じゃあ──」
「待ってください、出来る限りの抵抗です。──硬化の魔術」
さっそく下りようとするリエネを引き留め、レピは彼女に魔術を付与した。
「これは…ハリソノイアでスウォルに掛けてたのと同じか?」
「そうです。俊敏性を犠牲に、肉体の硬度をあげました。これなら幾分、危険を抑えられるでしょう。シェリルさんも」
「はい、お願いします」
「まずは私が行く。それを見て、より安全な下り方がないか考えてみてくれ」
レピがシェリルに手をかざす傍ら、リエネは一歩目を踏み出す位置を、慎重に吟味しながら言う。
「分かりました。気を付けてください、リエネさん。…レピさん、ありがとうございます」
「なに、身体能力に関してはお前たちより優れている自負がある。私よりも自分のことを心配するんだな」
「頼もしい限りです。ですが、それでもお気を付けて」
「任せておけ。──ここにするか。…ふっ!」
ニッと笑顔を見せて大きく息を吐くと、リエネは一歩目を踏み出し、岩肌を滑り下り始める。
自信を見せていた通り体の動きを完璧に制御し、必要に応じて斧の柄を突き立てて減速しながら、体重の移動で障害物を避け、やがて無事に崖下まで辿り着くと、力強く片腕を挙げ、見守る二人に健在を示した。
「やった!リエネさんすごい…!」
「流石ですね。…僕じゃ真似するのは難しそうですが。シェリルさん、行けますか?」
「怖いですけど…やってみます!」
シェリルはゆっくり、大きく頷き、リエネの通った道筋を綺麗になぞり、続けて無事に下り切った。
「次は僕か…。怖いですねぇ、これ…」
自身にも魔術を掛け、レピは膝を震わせながら、覚悟を決めて踏み出した。
「くっ…あ、避けられ──ぐえっ」
二人のように避けることが出来ず、障害物に撥ね飛ばされ──。
「うわぁぁあああ…!!」
「おっと!」
リエネに抱き止められ、無事…かどうかは怪しいものの、生きて崖を下ることに成功した。
「あ、ありがとうございます…。助かりました…いてて…」
「私が先に下りててよかったな。歩けるか?」
「え、えぇ、なんとか…」
「じゃあ滝まで戻りましょう!急いで探さないと…!」
焦るシェリルの提案を、レピは落ち着いて制する。
「いえ、お二人が生きているのであれば、僕の故郷を目指して移動しているはずです。無傷ではないでしょうが、それでも五日あれば到着している可能性が高いでしょう」
「え…じゃあ、先にレピさんの故郷に?」
「…逆に言えば、そこにいなければ──いや、済まん…」
リエネはチラリとシェリルに目をやり、言いかけた悪い展望を引っ込めたが、レピは首を横に振った。
「…その可能性から、目を逸らす訳には行きません」
「いえ…きっと、あの二人なら…!行きましょう、レピさんの故郷へ」
シェリルが二人と目を合わせ力強く頷くと、二人もそれに応じる。
崖の上から見えたレピの故郷に向け、三人は歩き始めた。
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~次回予告~
レピの故郷に辿り着いた一行は、最初に見かけた老婆に、"はぐれた仲間を探している"と声を掛けた。
それを受けた老婆は言う。
"ヤクノサニユのかい?"
次回「魔術師の故郷」




