#58 シェリルの“信頼”
閲覧いただき、ありがとうございます。
一人で勝手に一周年キャンペーン中のみそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
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以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
かろうじて風の魔術を発動させ、自身とスウォルの生を繋いだリリニシアは、スウォルの異変に戸惑いながらも、崖の上に残る三人との合流を目指し、東へと歩み始めた。
一方三人は、近くの集落に到着するも無人で、破壊されていた。
落ちた二人の捜索に備え、交代で休むことを提案したレピを、シェリルは遮った。
「…シェリルさん?」
“自分が見張るから、先に休息を”という提案を遮ったシェリルに、レピは驚きを隠さなかった。
スウォルとリリニシアの捜索に取りかかるのを、ほんの少しでも遅らせるようなことをシェリルが口にすると思わなかったからだ。
「確認しておきたいことがあって、どうしても」
シェリルもそれを認識しているが故に、“必要なことだ”と強調する。
「…どうしました?」
「私、レピさんのこと、仲間として信頼してます。すごく」
「ど、どうも…?」
「だからこそ、やっぱり聞かない訳にいられないんです」
シェリルの口調には、有無を言わさぬ迫力が宿っていた。
「おいシェリル、どうしたんだ」
レピだけでなく、リエネもその様子に困惑している。
その様子から少なくとも、いい話ではないだろう、お叱りを受けるのだろうか、と記憶を掘り返し心当たりを探すレピに、シェリルはまっすぐに尋ねた。
「カロニアちゃんのことについてです」
「…あの、ティサン人の?」
シェリルの口から出たのは、ハリソノイアからヤクノサニユに帰還した後、国王ゼオラジムとの謁見前に出会った少女。
ぶつかったレピに一目惚れした、同じくティサン人の男二人に終われていた、“カロニア・ケミナック”の名だった。
「はい」
「…彼女が何か?」
これといった心当たりは見当たらないものの、よりにもよって今の状況とまったく関係のないカロニアの名が挙がることは想定しておらず、レピは一瞬、顔をしかめた後、釈然としない様子で続きを促す。
「レピさん、少なくとも私の前で、一回もカロニアちゃんの名前を口にしたことがありません」
「…そうでしたか?」
「はい。“あの少女”とか“彼女”とか、そういう言い方しかしてません。…なんでですか?」
「と言われても、特に意識していた訳では──」
「本当ですか?」
レピが否定の言葉を言い終える前に、シェリルは一歩詰め寄った。
「おいシェリル、今しなきゃいけない話なのか?二人を見付けてからでも──」
「私なりに、冷静になった結果です」
「…なに?」
シェリルの言動に違和感を覚え、割って入ったリエネに対しても、シェリルは彼女が繰り返した単語を用い、切り返す。
「これから安全に崖を下りられる場所を探して、下りなきゃいけません。…安全って言ったって、誰が保証してくれるものでもありません」
「それはそうだが」
「場合によっては、命を賭けて下りられるかどうか…なんてところから下りなきゃいけなくなるかも知れません」
「…あぁ、それで?」
リエネは話を進めながら、自身を見るシェリルの目付きの鋭さに、内心驚いていた。
ハリソノイアで、魔物にトドメを刺したことを“手柄”と表現し、激昂させた時と同じ…敵意すら感じさせる目だった。
「そんな危険なことをしなきゃならないんだから、一緒に動く、命を預ける人への信頼って、すごく大事だと思うんです」
「…だがさっき──」
「はい、信頼してると言いました。仲間として。──でも」
そのまま鋭い目付きをレピに向け直し、続ける。
「それ以前の、人としての信頼が、ちょっと揺らいでるんです」
「…人として、ですか」
「ティサン人だから、じゃないんですか」
「!」
シェリルの指摘に、レピは目を見開いた。
「呼び方だけじゃありません。カロニアちゃんの話をする時のレピさんの目は──リエネさんを睨んでたデギンズさんや、ヤクノサニユの人たちと一緒でした」
「…」
レピだけでなく、実際にその目を向けられた張本人であるリエネも口を閉ざす。
「お二人とリリニシアが馬車のことで城に行ってる間、師匠が教えてくれました。昔からの因縁っていうか…ハリソノイアに対するヤクノサニユと同じことが、マキューロとティサンにも言えるって」
「…グラウム様が」
「国同士の対立に始まり、国民への教育になって、やがて常識になる、って。…ティサン人を蔑むことがレピさんの…マキューロの常識だからそうしてるんじゃないんですか」
「…っ」
リエネはヤクノサニユに入ってから自身に対し向けられた冷たい視線の数々を思い出し、唇をきつく結ぶ。
一方レピは視線を逸らし、何も答えられずにいた。
「…言わない方がいいかな、とも思ったんです。もし今、レピさんがヘソを曲げて、“スウォルもリリニシアも、魔王も何も、もう知らない!”って言い出したら、すっごい困るから」
「そんなことは…」
「はい。レピさんなら、そんなこと言わないだろうって…。“仲間としての”信頼があるから言うことにしました」
「…人としての信頼を損なっていると聞かされた後では、それも素直に喜べませんが」
この局面で、敢えて再び“信頼”を口にしたシェリルに対し、レピは苦笑を浮かべた後、少しの間目を閉じ、それからゆっくりとシェリルを見据え、答える。
「グラウム様の仰ったこと、もっともだと思います。…が、それだけではないんですよ」
「…教えてもらえますか」
「確かに僕を含め、マキューロ人の大多数はティサンに対し、強い抵抗があるでしょう。ティサンは…あまりマキューロ人に準えるようなことは言いたくはありませんが、分かりやすいでしょうから。──言ってみれば、“革新主義の極致”なんです」
レピは不快感を滲ませながら、それでも敢えてここまでの会話に使っていた単語を用いて、“マキューロ人から見たティサン”を語った。
「…革新主義の極致、か。ティサンには森など残っていないと聞く。自身の都合で自然や環境を作り替える、という意味なら、確かに頷ける例えではあるな」
レピの説明に、リエネは“冷たい目を向けられる”立場として複雑な表情を浮かべたまま、それでも冷静に、事実として頷く。
「えぇ。確かに国の対立による教育での植え付けなども、もちろんあるでしょう。ですがそれ以前に、根本的に合わないんですよ、ティサンとは」
「…レピさんは、原理主義寄りなんでしたっけ」
「そうですね。流石に完全なる原理主義と言うほどガチガチに凝り固まっている訳ではありませんが、どちらかに括るのならば原理主義者になるでしょう。ですが問題はそれ以前です。おそらく革新主義者にとっても、ティサンへの抵抗は根強いでしょう」
感情的に糾弾するのではなく落ち着いて、主張を理解しようとするシェリルに、レピはそれを理解し、同じく感情的になることなく、根本的な問題を語り聞かせる。
「その、やってることは同じなんじゃないですか?」
「…曖昧だと言われてしまいそうですが、程度の問題なんです」
「程度…」
「えぇ。原理主義者が恐れている“革新主義の暴走”は前に話した通り、今は“自然への畏敬”が抑えています。つまり、革新主義者にも自然への畏敬があることが前提なんです。──少なくとも、今はまだ」
「…」
「その畏敬が失われ、暴走した先に待つのがティサンです。マキューロとは、根本の理念からして相容れないんです」
「それって、カロニアちゃんの名前を呼ばないのと関係あります?」
「…え?」
レピの言い分が一区切り付いたと見て、シェリルは反論に出た。
「師匠が言う、“森よりも木を見る”の真逆ですよね、それ。だって何も知らないじゃないですか、カロニアちゃんのこと」
「…それは」
「ティサン人が、じゃなくカロニアちゃんがどんな子なのか、知った上で好きになれないなら、それはしょうがないことだと思います。でもレピさんは知らないですよね?」
「…そう、ですね」
「私の信頼の問題だけじゃありません。私たちは魔王を倒す前に、各国に和睦を打診して回らなきゃいけません。ティサンにもです。…レピさんは、それを分かって同行してくれてるんですよね?」
返す言葉を探すレピだったが、見当たらない。
「…そうです」
「ティサンに行って、周りの人たち全員を睨み付けながら和睦を訴えるんですか?…そんなの、誰が耳を貸してくれるんですか…」
「…」
「ハリソノイアはユミーナ様が変えようとしてます。ヤクノサニユも私たちの予言を受けて、和睦を見据えた陛下が反ハリソノイア教育を捨てました。リエネさんのこととか、全然完全じゃないですけど、これからも変わっていくはずです。…もちろん、ティサンがマキューロで、反りが合わないのは間違いないと思います。全面的に受け入れろ、なんて言う気はありません。けど──」
シェリルは大きく息を吸い、続ける。
「マキューロに原理主義者と革新主義者がいるように、ティサンにも色んな人がいるはずです。…せめて最初から、“ティサン人だから”って切って捨てるの、やめられませんか?…お願いします」
シェリルは、深く頭を下げた。
「シェリルさん…。いずれにせよ、まだしばらくはマキューロにいることになりますから…少し、自分を見つめ直してみます」
レピはシェリルの主張、とりわけ“和睦を難しくする”点に関しては全面的に正しいことを理解しつつも、“分かった”とは答えられなかった。
「レピさん…!ありがとうございます!」
「あまり露骨に出していたつもりはないのですが…端から見ていて気分がいいものじゃないことは、僕にも分かります。当事者なら尚のことでしょう。…申し訳ありません」
レピはチラリと、当事者であるリエネに目線をやり、詫びを口にすると、リエネは黙って頷いた。
「…気は済んだか、シェリル」
「リエネさん…はい。偉そうなこと言ってすみませんでした、レピさん」
「遅くともティサンに入る前にしておくべき話。時間の余裕を考えると、今でありがたいです。…さ、二人とも交代まで寝てください。頃合いを見て起こしますから」
再び頭を下げたシェリルに、レピは笑顔で答える。
「はい。あの、レピさんも何か私に言いたいことがあったら、聞きますから」
「覚えておきます」
「任せたぞ、レピ」
挨拶を交わし、破壊された家屋の中から比較的、損傷が少ない場所を探し、腰を下ろしたリエネは、シェリルに言う。
「随分と危なっかしい真似をしたな」
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~次回予告~
レピとの対話を終えたシェリルに、“危なっかしい真似”と切り出したリエネ。
“もし本当にレピが抜けることにしたらどうするつもりだったのか”と尋ねられ、シェリルは口ごもる。
続けてリエネは“レピなら抜けない”という信頼を前提としていることを認め、自身も同感だとした上で、“信頼だけだ”と断じた。
次回「選択の覚悟」




