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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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57/64

#57 崖から落ちた二人

閲覧いただき、ありがとうございます。

一人で勝手に一周年キャンペーン中のみそすーぱーです。

活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。

復習などにご活用ください。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1368468/blogkey/3440477/


以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

シェリル、レピ、リエネは食事しながら情報を交換・共有し、川を越えて最寄りの集落に立ち寄るべく移動を開始。

一方崖の下では、なんとか生きて着地していたスウォルとリリニシアを押し潰さんと巨岩が迫り、リリニシアは決死の覚悟で風の魔術を叫ぶ。

「うぁぁああ!!風の魔術(オディヌ)!!!」


 リリニシアが手を前に突きだし、涙と共に絶叫したのは、媒介を作る題材としてレピが選んだ、まだ彼女には扱えない、風の魔術だった。

 結局モノに出来ていない媒介の作成と、消耗を避ける為の、レピによる座学を経て、ぶっつけ本番、岩を粉微塵に粉砕するつもりで叫んだそれは──見事、二人の命を繋いだ。


 意図していたような派手な成果は出なかったが、死に物狂いになってやっとの思いで生じさせた、意にそぐわないささやかな風がほんの僅かに岩の軌道を逸らし、強く目をつぶるリリニシアのすぐ横で、轟音と共に地面に突き刺さった。

 恐る恐る目を開き、顔を横に向け手を伸ばすと、リリニシアの手が岩に触れる。


「はっ…はっ…!くっ…うぅ…。うぅぅ…!」


 歯をガチガチと打ち鳴らし、自らとスウォルが死を免れた心底の安堵から、涙は止めどなく溢れ出した。

 その場を動かずともその手で触れる位置に落下した岩に、一歩間違えば自分たちが下敷きにされていた事実に戦慄しながら、胸を撫で下ろす。

 だがその安堵も、束の間だった。


「…スウォル!」


 思い出したように目を見開いたリリニシアは腕で涙を拭い去り、自身にうつ伏せでのしかかるスウォルの体を、仰向けに転がしながら横にズラす。

 その姿は、リリニシアが思わず確認してしまった時のソレではなく──。


「スウォル…ですわ、ちゃんと…。さっきの姿は…?まるで──いえ、そんな訳…!」


 呟きかけた言葉のおぞましさを否定するように首を横に振ったリリニシアは、レピによるモノであろう、滝に包み込まれた後のことを思い出そうとするも、その滝が形を保てず崩壊した瞬間から強く目を閉じていたことに気が付いた。

 分かるのはただ一つ、落ちる途中で抱き締められたことだけ。


「スウォル、ですわよね…」


 そして気が付いたら地上で、スウォルであろう何かに抱えられていた。

 真っ逆さまに落ちるはずだった滝壺から、少し離れた位置で。

 少なくとも、ただ落ちて、着地した訳じゃないことは間違いなかった。

 落ちるはずだった滝壺に目を移すと、崩れた岩で、半ば埋め立てられている。


「…この岩は、たぶん先に落ちてた岩とぶつかって、弾かれて飛んできたんですわよね…。ワタクシたちは何故ここに…?──いえ、考えるのは後!」


 不可解な出来事に首を捻るリリニシアだったが、首を素早く、左右に数度往復させると、先程は失敗した癒しの魔術を使うべく気合いを入れ直してスウォルを見つめ──そこでふと気が付いた。


「…怪我が、ない…?」


 崖が暴落する前、巨大生物との戦闘で負っていた、リリニシアが治したくても治せなかった傷が、既に体から消えていた。

 癒しの魔術は傷を癒すだけで、消耗した体力は、本人を休ませ、時間に任せなくては戻らない。

 ──つまり、リリニシアに出来ることは、何もない。


「そんな…」


 リリニシアはゆっくりと、スウォルの首元に触れる。

 先程よりはずいぶんマシだが、それでも熱い。


「──癒しの魔術(チュリヨ)


 怪我がない以上、意味がないと分かっていても、唱えずにはいられなかった。


「貴方なら、もしかしたら──!」


 盾の影響か、異常な耐久力と回復力を見せてきたスウォルの肉体に賭けて。

 ──そう考えた瞬間、リリニシアの頭を、一つの可能性がよぎった。


「…まさか。そんな、はずは…」


 同時に以前、彼女自身がスウォルに浴びせた、“とある言葉”が脳裏に甦る。


「…そんなはずない…!」


 かつての自分の言葉を必死に否定しながら、リリニシアは癒しの魔術を掛け続けた。


「はっ…ふぅ…!…くっ」


 やがて持てる力をすべて注ぎ込み、集中力が切れるのと同時に、自ずと魔術も中断されると、リリニシアは“答えが出ない謎を解くより、生きることを考えるべき”と、改めて周囲を見回した。

 まずは自分たちが岩で溢れかえる滝壺に目をやり、滝を遡って、先ほどまで自分たちがいた崖を見上げる。


「高い…。登るのは無理ですわね。…シェリルー!!レピさぁーん!!リエネさぁーん!!」


上からの音が滝の音に掻き消され聞こえない以上、こちらの声も届くことはないだろう。

聞こえたとしても、あの巨大生物との戦闘中。

こちらに気を回す余裕はないはず。


 そう思いながらも、リリニシアは声を張り上げた。

 

「…ダメ、ね。どうしたら…あら?」


 そう呟いて、リリニシアはふと、自分たちが元いた位置が、滝の向こう側──つまり、目をつぶっている間に滝を越えていたことに気付く。

 連想して、巨大生物と遭遇する前に話し合った、今後の方針を思い返した。


「…そうだ、東…!」


滝壺から東に行けばレピさんの故郷…。

さらに東にはシャファルノール…目的地がある!

レピさんは“崖を下らないなら遠回りになる”と言っていた。

言い換えれば──遠回りさえすれば、崖を下らなくともシャファルノールに辿り着ける!


 リリニシアは再び、じっくり崖と滝を観察する。

 ──登るのはもちろん、上から下りてくることも出来そうには見えない。


レピさんが知らないだけで、ここ以外にも崖を安全に下れるところがあるのかも知れない。

きっと三人は、それを探しながら東に…シャファルノールに向けて進むはず。

三人が道中で下ることが出来て、合流できればそれでよし。

出来なくとも遠回りしてもらって、シャファルノールで落ち合うことは可能なはず。

なら、ワタクシがすべきことは──。


「…行きますわよ、スウォル…!」


ワタクシがスウォルを守る。


「…重たいですわぁ~…!」


 意識がないスウォルにそう語り掛け、肩を貸す形で引き起こしたリリニシアは、崖の上の三人に先んじることおよそ半日、東に向けて移動を開始した。


────────


 一方、リリニシアに遅れること半日経って、シェリルとレピ、リエネが移動を開始してから、さらに丸二日。


「なるほど、人が住んでいた形跡はある。だが…」


 川を越え、下りられる場所を探して崖沿いを歩きながらも見つけられず、やがて辿り着いた集落の()()で、リエネは呟いた。


「ひどい状態…。誰もいないんでしょうか…?」

「可能性の一つとして考えてはいましたが…残念です」

「だが、ざっと見た感じ…人の死体が見当たらん。ひょっとしたら避難でもしたのかも知れんな」


 リエネは明らかに不自然な、外部からの力で破壊された様子の民家の残骸を調べる。


「あっ、本当だ!それなら──」

「あるいは全員、食われたか」


 希望を見出だした直後に叩き潰したリエネを、シェリルは恨みがましく睨み付けた。


「リエネさん…」

「す、すまん…」

「おそらく前者でしょう」


 シェリルに咎められ、肩を縮めて小さくなるリエネを他所に、レピは冷静に状況を見極める。


「レピさん?」

「見受けられるのは爪痕(つめあと)などばかりで、血痕ですとか、魔術による火や雷の焦げ後…そう言った戦闘の痕跡が、まったくと言っていいほど見られません。もちろん雨に流されてしまった可能性はありますが…」


 レピはそう言いながら、さらに注意深く、破壊の痕跡を観察した。


「少なくとも、破壊されてから長い年月は経過していないように見受けられます。住人は生きて避難し、無人となった集落を破壊された…という可能性の方が高いでしょうね」

「そっか…よかった…」


 シェリルがほっと安堵のため息を吐くと同時に、矛先が自分から逸れたことに安堵しながら、リエネは切り替えてレピに尋ねた。


「しかしどうする?情報収集は出来なくなってしまったぞ…。避難先まで聞き込みに行くか?」

「皮肉なことに、もっとも近い集落は僕の故郷…崖の下なんです。避難していたとすれば、一番可能性が高いのはそこでしょうから──」

「じゃ、じゃあ…やっぱり、私たちが自分で探すしかない、ですよね。下りられそうな所…」


 シェリルの言葉に、レピはゆっくりと頷く。


「そうですね…。お二人を探しに戻ることを考えると、あまり滝から離れたくはないのですが…再び崖沿いに戻り、探しながら東に向かいましょう。目的地が東だとは話してありますし、健在ならお二人も東に向かうかも知れません」

「そうだな…。スウォルだけなら聞いてなかったかも知れんが、リリニシア様も一緒だ。その可能性はある」


 スウォルを軽んじるリエネに、シェリルは一瞬、反論を探して眉根を寄せた後、諦めたように脱力した。


「…ごめんスウォル、私“そんなことないです”って言ってあげられないや…」

「…ふっ。ヤツにはヤツのいいところがある。至らない部分は他の誰かが請け負ってやればいいんだ」


 リエネは頬を緩めながら、ガシガシと乱暴にシェリルの頭を撫でる。


「リエネさん…」

「それで、すぐに動くのか?」


 照れ臭そうに目を逸らし、リエネはレピに投げ掛けた。


「もう暗くなりますし、ここで休んで行きましょう。破壊されているとは言え、探せばそこらの地面よりはよほどマシな寝床が生きてるかもしれません」

「…そうですね。崖に注意しながら移動するの、思った以上に疲れますし」


 “さらに時間を使う”という宣言に、僅かな迷いを見せながらもすぐに同意したシェリルを見て、レピは満足げに頷いた。


「えぇ。見たところ、かなりヤクノサニユに近い生活様式だったようですから、お二人にも幾分は過ごしやすいかと。地理的な都合もあって、文化的な交流もあったんでしょう」

「ここの連中は革新主義者だった訳だ」


 リエネの指摘に、レピはほんの一瞬、苦い表情を浮かべるも、すぐに微笑みを戻す。


「…えぇ。──さて、とはいえ安全ではありません。例によって、交代での番は続けましょう。お二人は先に寝て──」

「すみません、その前に少し、お話できますか」


 レピの提案を遮り、シェリルは決意を胸に、切り出した。

お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。

また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回はこの後24時頃にXでの先行公開を、翌15日20時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

困惑するレピに対し、“仲間として信頼している”と言うシェリル。

しかし同時に抱えている思いを、リエネの制止にも構わずレピにぶつける。


次回「シェリルの“信頼”」

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