#53 残った三人
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1368468/blogkey/3440477/
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ〜
仲間たちの奮戦の末に情報を集め、シェリルの剣に掛けた魔術を、自らの身体を傷つけながら強引に増幅させる策をとったレピ。
リリニシアは虫の息のスウォルを癒しの魔術で治療しようとするものの、精神的な不安定さから発動できずにいた。
リエネの協力を得て巨大生物の背に乗り、剣と増幅させた魔術でシェリルが攻撃し苦しめるも、巨大生物があがいて地面を踏むと、スウォルとリリニシアを巻き込みながら崖が崩落してしまう。
「きゃ…!?」
足元が崩壊し、浮遊感に包まれたリリニシアは、咄嗟に悲鳴をあげることも出来ずにいた。
「スウォル!!」
「リリニシア様ァ!!」
シェリルとリエネはそれぞれ、崩落に巻き込まれた二人の名を叫ぶ。
「こ…のォ!!!」
「──…!」
シェリルが激情に駆られるまま、巨大生物の背に再び、深く剣を突き刺さすと、巨大生物は一度、短く吠え、大きな音を立てて倒れ伏した。
「ぐっ…!拘束する水の魔術!」
依然として立ち上がれずにいたレピは、川の水を用いて二人を救うべく、必死に魔術を使用するも、滝として流れ落ちる水の力に負け、満足に操作できない。
レピは決意した。
「くっ…これじゃ中級でも…!いくらこの環境と言えど厳しいが…やるしかない!──上級・拘束する水の魔術!!」
レピが唱えた上級の魔術により、落下しゆく二人を受け止めるべく、流れ落ちる滝がそのまま鞭のように、レピの意により操られる。
「ぐっ…ぬぅああ…!!」
レピの思うままに操られる滝そのものは、スウォルとリリニシアを確かに包み込む。
「こ、これは…?滝が…レピさんですの…?」
「よ…よし…!ぜぇ…!」
リエネは水の音の変化により、倒れたままのレピが歯軋りを立て、時に呻きながら魔術を使用していることに気が付き、駆け寄った。
「アイツ…!おいレピ、大丈──」
「二人とも!!」
シェリルが叫ぶ。
リエネが振り返ると、倒れ込む巨大生物ががむしゃらに振るう尻尾が、地表を撫で、削りながら二人に迫っていた。
「しまっ──」
二人は声を揃えた。
リエネは迫り来る尾を睨みながら。
レピは──集中が途切れ、滝を操っていた魔術が解けてしまったことを悔いながら。
「い…やぁぁあああ!?」
形を保てなくなった滝の鞭は、そのまま重力に従い膨大な質量を持って、スウォルとリリニシアを抱き、地に降り注ぐ。
「この…動くな!!」
シェリルは再び怒りのまま、巨大生物の首を斬り落とす。
「くっ…!」
リエネは考える。
レピは身動きが取れる状態じゃない。
尾の射程を逃れようにも、彼を担いで移動していては間に合わない。
無論、受けることも出来ない。
──上手く行ってくれ!!
「うおお!!」
縋るような思いで出した答えは、レピより少し前に出て、届く前に尾を切断することだった。
幸い、迫っているのは尾の先端。
狙いどころを間違えなければ、斧の刃渡りで切り落とせるはず。
射程から逃れられないのなら、射程そのものを短くしてやろう、という魂胆だ。
「リエ、ネ…さん…」
「喋るな、気が散る。──ここだ!!」
切り落とした先端がレピを直撃することがないように、リエネは下から上に向け、斧を振るい斬り上げる。
リエネの斧は巨大生物の尾を完璧に捉え──尾の先端は、回転しながら宙を舞った。
「ぐぁあ…!!」
しかしリエネ自身も、直撃こそ避けられたものの、斧を握る手に、一瞬の内にのしかかる負担に耐えきれず、崖とは反対方向に向けて吹き飛ばされた。
「リエネさん!この…このォ!!うわぁぁあああ!!」
シェリルは弾き飛ばされたリエネに一瞬、意識を向けると、動かなくなった巨大生物を何度も、殴るように斬り付ける。
「シェ…シェリル、さん…?」
普段の印象とあまりに駆け離れた、絶叫と共に、明らかに事切れている相手を執拗に斬り付ける姿にレピが困惑し、絶句していると、やがて完全に沈黙した巨大生物の亡骸は朽ちて、崩れ始めた。
自身がズタズタに引き裂いていた肉塊が朽ちたことで、シェリルはようやく我に返る。
「崩れた!?ボロガブザリと同じ…。いや、そんな場合じゃ…!どうしよう、どうすれば…?」
スウォルとリリニシアが落ちて行った崖、倒れるレピ、吹き飛ばされたリエネ。
三ケ所に視線を泳がせるシェリルだったが──。
「え…また…!?」
そう呟き、剣に視線を落とす。
リエネが最初に顔に傷を与え、レピに助けられた後、剣が一瞬だけ見せた反応。
光り、震え、音を立てる現象──魔物の接近を感知した際の挙動が、再び生じたからだ。
「まさか…魔物!?よりによって今…!?」
だがそれもほんの数秒で、シェリルが次の行動に移るよりも早く、纏っていた風の刃と共に、剣の反応は収まった。
「魔術も消えた…。な、なんなの…?…それよりスウォル、リリニシア…!」
今度は呆けることなく、二人の様子を伺おうと崖に向かって走り出そうとしたシェリルだったが──。
「いけません…!!…ぐぅ…」
必死に上体を起こしながら、レピが止めた。
「レピさん!?でも!」
「また崩れる可能性もある…!近付いてはダメです…!」
「けどスウォルとリリニシアが──」
「貴方まで落ちてなんになるんだ!!」
「!」
これまで敬語を崩さなかったレピに強い口調で咎められ、シェリルは冷静さを取り戻す。
「気持ちは分かります…!その気持ちが間違っているとも思いません!ですがどうか…どうか冷静に…! 」
「…分かり、ました」
名残惜しそうに崖に視線を配りながら、とぼとぼとレピに向けて歩き始めた。
「レピさん…。どうすれば…」
「まずはリ…リエネさんを…。それから三人で…崖を下れるところを探して…お二人を…」
「リエネさん…!」
まずはレピが、釣られてシェリルも、リエネが吹き飛ばされた方向に目を向けると、遠く小さく、斧を杖代わりにヨロヨロと、力なく立ち上がろうとする姿がリエネの姿が見える。
「リエネさん…よかった…!」
「川に飛ばされなかったのは…不幸中の幸いでしたね…。…くぅっ!」
「…レピさん?」
「すみ、ませ…。死には…しま、せん…から…」
「レピさん!」
「…」
そう言い残すと、レピは瞳を閉じ、意識を手放した。
シェリルは慌ててレピの身体を仰向けに引っくり返し、胸に耳を当てる。
「…動いてる、呼吸もしてる…!ちょっと待っててください、リエネさんを…!」
言葉の通り“死んではいない”ことを確認したシェリルは、聞こえていないのも承知で声を掛け、リエネの元へ走った。
「リエネさん!」
「シェリル…ぐぁ…!」
「大丈夫ですか!?肩を…!」
なんとか自力で立ち上がったリエネの腕を持ち上げて頭を差し込み、シェリルは体重を自らに預けさせ、改めてレピの元へ、二人で歩き出す。
「すまん…。ヤツはどうなった…」
「死んだ後、ボロボロ崩れました」
「…まさか、本当に近縁種なのか?ボロガブザリと…。スウォルとリリニシア様は…?」
リエネの問いに、シェリルは顔を伏せ、声を振るわせながら答えた。
「二人は…崖から…」
「…クソッ」
「レピさんは、三人で下りられるところを探して、二人を探そうって…」
「…そのレピは」
「生きてますけど、今は気絶しちゃってて…。私たちどうすれば…」
改めて、自らの置かれている状況を認識し、シェリルは思わず足を止めた。
「落ち着け、シェリル…」
「リエネさん…」
「嘆いていても、状況は好転しない…。冷静になれ…!」
「冷静…」
つい今しがたレピに言われた言葉を、知らぬリエネが再度突き付ける。
「そうだ…。今出来ること、今すべきことを考えろ…。その為にも、まずは自分が、れ…冷静じゃないことを自覚して…冷静になるよう努めるんだ…!ぐっ…!」
「リエネさん…」
「“今、自分が冷静ではない”ことを自覚するだけでも…変わるものだ…。どんなに絶望的…な、状況に追い込まれても…思考放棄はするな…」
「そんなこと言われたって、私…」
頭では理解しつつも、心が追い付いていない。
そんな様子のシェリルに、リエネはふと、口許を緩めた。
「ふっ…お前はまだ若い…。これから出来るように、なればいいんだ…」
「…」
「落ちた二人が死んだとは…限らん…。まずはレピの言う通り、安全に崖を下りる…。今はその為に出来ること、すべきことを…考えればいい…」
「…リエネさんだって、まだ21じゃないですか」
「バカ言え、お前より五つも上のお姉さんだぞ…」
「…ふふ」
リエネが言いそうにない“お姉さん”という単語で自らを評するのを受け、シェリルは笑みを溢し──二人はレピの元へ歩みを進めた。
「降ろしてくれ…」
「はい」
「ぐぁっ…。…さて、シェリル。今すべきこと、お前はなんだと思う…」
痛みに喘ぎながら、リエネはレピの側に腰を下ろす。
「えっと…すべきこと…!」
「まずは目的、を…定めるんだ…。次に、それを達成する為の、小さなの目的を…。今、私たちの目の前にある目的は…なんだ…?」
「…スウォルとリリニシアを探すこと、です」
リエネの問いに、シェリルは静かに、力強く答えた。
「そうだ…。その為に出来ることはなんだ…その中からすべきことは…?」
リエネが重ねた問いに、シェリルは目を瞑り、思案する。
「…リエネさんとレピさんの回復を待ちます。私が二人を抱えて移動することは出来ません」
「そうだ…。焦って無理に動いて、二次被害が出ては笑い話にもならん…。そこで、だ…。悪いんだが、私たちが元いた…アイツに見付かった場所から、荷物を取ってきてくれないか…」
「荷物?…そうか、薬!」
一瞬、首を捻るも、すぐにリエネの真意に、シェリルも気が付いた。
「あぁ…。あと食料…」
「すぐ取ってきます!」
「すまん…」
「えっと…!ど、どの辺でしたっけ…!」
木がへし折られている所と繁っている所の境目より少し向こうなことは覚えているが、ただでさえ似たような景色が広がっていることに加え、巨大生物の出現で慌てて走り出したシェリルには、正しい場所が分からない。
助けを求めてリエネに視線を送ると──。
「…あの辺だ、たぶん」
リエネも同じだった。
「…探します」
シェリルは諦めたように呟くと、リエネが指した“あの辺”に向け、駆け出した。
お読みいただき、ありがとうございました。
よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。
また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。
来月、3月14日を持ちまして、本作の#1を一周年を迎えます。
これを一人で祝し勝手に記念して、14日~20日の一週間、毎日20時に投稿を行います。
よろしければお付き合いいただければ幸いです。
次回は2月23日20時にXでの先行公開を、24日20時に本公開を行う予定です。
よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。
~次回予告~
元いた場所を探し出したシェリルが運んできた薬を用い、ある程度まで回復したリエネは、“その方が治りがよさそうだから”と、シェリルが見付けた“元いた場所”に、二人でレピを運ぶ。
気落ちするシェリルを、“スウォルの耐久力とリリニシアの魔術なら生きているかも”と励ますリエネに、シェリルは崖が崩れる直前の二人の様子を伝えた。
次回「出来ることとすべきこと」




