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勇者一行の旅の始まり

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。


~前回のあらすじ~

挨拶しようと顔を出し、出立と最初の目的が隣国・ハリソノイアであることを伝えると、父・クーヤイはひどく狼狽えた。

なんでもかつては王に仕え、ハリソノイアとの戦いにも参加したという。

歯をガチガチと打ち鳴らし、体を震えさせる父を残し、三人はいよいよ旅に出た。

シェリルの胸中には、複雑な思いを残したまま…。

 勇者ご一行の旅路が始まり数時間が経過した頃──。


「まぁ~だ町に着きませんの~!?」


 容赦なく降り注ぐ太陽光の下、全力でぶーたれるお姫様を、シェリルが苦笑いしながらなだめていた。


「もうしばらくは…」

「と~お~い~で~す~わ~!!」


 好機と見たスウォルは、逃さず切り込む。


「リリニシア様、お戻りになるなら──」

「リリニシア“様”ァ?」

「…リリニシア、お戻…戻るなら送っていくから、無理はしないほうがいいんじゃないで…いいんじゃないか?」


 頑として譲らないリリニシアに負け、呼び捨てにすること、堅い喋り方も止めることを強要されたスウォルが、すっかり染み付いた“お姫様相手の喋り方”と戦いながらも帰還を促す。


「な~にを仰いますの!厄介者扱いはお止めくださいな!」


 当然リリニシアも譲らない。


「ですが…でも、毎日町の宿に泊まれる訳じゃ…ない。野宿せざるを得ないことだってある…ぜ?」

「え゛、野宿?…いえ、それでも構いませんわ!そんなことでワタクシの情熱は止められませんのよ!」


 一瞬たじろいだリリニシアだったが、スウォルが隙に付け入るよりも速く体勢を立て直す。

 スウォルは姉とそっくりな苦笑いを浮かべる他なかった。


 一方、その姉が拳を握りしめながら小さく漏らした声が、二人の耳に届くことはなかった。


「戻っていいなら、私が戻りたいのに」


 そんな呟きを掻き消すように、キィン、という甲高い音が二つ響いた。

 まず異変に気付いたのはスウォルだった。


「なんだ?盾が…?」


 左腕の盾が薄く発光し、震えている。

 次いでシェリルも、背負った剣が鞘の中で振動していることに気がついた。


「こっちも…!?なにこれ!?」

「えっ、なに?なんですの?」

「わかんねぇ!」


 困惑している三人の背後、茂みから一つの影が、ザザッと音を立て、飛び出した。

 三人がその音に振り向くと──


「魔物!!?」


 四つ足で、グルルと低く唸り声をあげ、涎を垂らす獣がいた。

 爪を地面に食い込ませ、飛びかかり食らい付く準備は既に整っている。


「…来やがったか。初めての実戦だ、全員気を抜くな!」


 スウォルが剣を抜き、構える。


「これが、魔物…!こいつらがお父様とお母様を…!」


 リリニシアが睨み付ける。

 そしてシェリルは──


「あ…あぁ…!」


 構えない。

 ただ身をすくめ、震えていた。

 魔物といえど、狙うべき相手を見定める知能はあるようで──


「姉ちゃん!!」


 脇目も振らず、シェリルに向けて飛び掛かった。


「っ──」

「クソっ!!」


 尻餅をついたシェリルとの間にスウォル割り込み、魔物の爪を盾で受け止める。


「ぐっ…重てぇなこの野郎!」

「巻き込まれないでくださいましね!──炎の魔術(オレム)!!」


 リリニシアの叫びが響くと、魔物を炎が包み込んだ。

 怯んだ隙を見逃さず押し返したスウォルは、その勢いのまま剣を振り下ろす。


「ぬぅあぁっ!!」


 焦げた肌を裂き、血が吹き出した──のだが、皮膚の火傷も切り傷も、瞬く間に癒えてしまった。


「きっ…キんモいですわ~!!」

「…さすが魔物、こんなんじゃダメか。やっぱ姉ちゃんの“剣”じゃねーと」

「や…嫌ぁ…!!」


 チラリ、とシェリルに目をやると、座り込んだままガタガタと震え、およそ戦えるようには見えない。

 撃破を捨て、撃退してこの場を切り抜ける方針に切り替えた。


「リリニシア様、ここは──」

「“様”ァ!?」

「言ってる場合か!姉ちゃんは戦える状態じゃない!ここは防御に徹して、アイツが諦めるのを待ちます!」

「倒しませんの!?」

「出来ねぇんだ!普通の剣じゃ何べん斬ったら死ぬのか分かったモンじゃねぇ!」

「っ…そうでしたわね!従いますわ!」


 日が暮れ始めるまで長引いた戦いの中、幾度も傷を負わせたが、スウォルの言う通り、あっという間に治癒し、決定打にならない。

 一方魔物も、盾を掻い潜り、スウォルに細かな傷は負わせるものの、奥の二人に爪が届くことはなく、やがて三人を食料とすることを諦め、去っていった。


「…行ったか」


 スウォルが安堵のため息をつき、剣を納めると、リリニシアが駆け寄った。


「治しますわ。動かないで…癒しの魔術(チュリヨ)!」


 目をつむり、精神を集中させたリリニシアの魔術により、スウォルの傷がだんだんとふさがり始める。


「あ、ありがとうございます…」

「ふっ…いえ、お気になさらず…はぁ…」


 一方、リリニシアは急激に息が上がっていた。


「大丈夫ですか?」

「実はワタクシ、チュリヨは苦手でして…!かなり集中しないと、発動出来ないんですの…」

「そ、そうなんですか」

「おまけにあくまで傷が塞がるだけ…失われた体力が戻る訳ではありませんので、戦闘中はアテにしないでいただきたいですわ…」

「分かりました」


 “堅い喋り方”に文句を言う余裕もないようで、リリニシアも座り込み、両足を投げ出した。


「にしても…しんでぇですわ~!!」

「えぇ、同感です。あれが本当の魔物…。俺たちはこれから、あんなのと…」

「魔物を殺すには、魔力の通った攻撃で魔力核を潰す。もしくは…」


 リリニシアは言葉を切り、シェリルに目をやった。

 引き継いでスウォルが続ける。


「勇者の剣でなら、攻撃も通る…はず。伝承が本当なら…」

「魔力なんて魔物しか持ってないんですから、結局シェリルさん…こほん、シェリルに頼るしかないんですのね」

「普通の武器でも死ぬまで殺せば…」

「…あの耐久力じゃ、現実的じゃありませんわね」


 リリニシアが大きくため息をつく。


「…あの、魔術のことはよく分からないんですが、魔力通ってないんですか?」

「魔物が魔力を使って扱う“魔法”を、魔力を持たぬ人間(ワタクシたち)が、自然の力を借りることで擬似的に再現したのが“魔術”です。魔力は使っていませんわ」

「そうですか…」


 スウォルは一度、大きく肩を落として落胆したが、すぐに立ち直り、座り込んだままのシェリルに手を差し伸べた。


「…姉ちゃん、立てるか?」

「あ…ス、ウォル…私、わた、し…!」


 シェリルはその手を取らず、目を伏せる。


「気にすんなよ、いきなりあんなん出てきたらビビってもしょうがねーって」

「そうですわよ!見ましたあの傷が治るの!?メチャクチャきめぇですわ!」


 いつの間にか立ち上がっていたリリニシアも、シェリルが気に病まないよう、明るく囃し立てる。


「ごめ…っ、ごめん、なさい…私…!」


 心遣いを察したシェリルには、それが余計に申し訳なかった。


「大丈夫だって、ホレ!」


 スウォルが無理矢理シェリルの手を掴み、引き起こす。

 シェリルはされるがままに立たされた。

 辺りを見回せば、すっかり日は傾き、一面は夕日に染められていた。


「さ、行こうぜ。今から歩けば日が変わる前には町につけるはずだ」

「まだそんなに歩くんですの!?お風呂入りたいですわ~!」

「リリニシア様…」

「“様”ァ!?」

「だーもう!」

「…ふふ」


 変わらぬ二人のやり取りに、シェリルはようやく笑みを溢した。

 三人は再び歩みを進め、魔物の襲撃に合うことなく、なんとか予定通り、その日のうちに町へと辿り着いた。

 幸いなことに宿屋には空室があり、節約の為、三人で一部屋に泊まることになった。


 スウォルは魔物の攻撃を防ぎ続けた疲れからか“疲れた、風呂は起きてから”と言い残し即座に就寝、シェリルとリリニシアは二人で入浴することにした。


「…怖くはないのですか?」


 念願の風呂に、離れていてもフンスフンスと聞こえそうな程に興奮しているリリニシアに、シェリルは小さく疑問をぶつける。

 リリニシアはシェリルの精神状態を鑑み、呼び方にも喋り方にも触れず、答えた。


「魔物ですの?もちろん怖いですわ!こちとらお父様とお母様が殺されてますもの!」

「それにしては、その…楽しげに見えますが」

「そうですわね…。怖いのは怖いですが、確かに楽しくもありますわ」

「…何が楽しいんです?」


 首を捻るシェリルに、リリニシアは続けた。


「昼も言いましたが、これほどお城から離れるのは初めてです。初めての経験は、単純に胸が高鳴りますわね」

「…」

「それにこの為に魔術を勉強したのですから、それがようやく日の目を見ることも嬉しく思います」

「そうですか…」

「そして──」


 リリニシアは言葉を切る。

 続きを待つシェリルの目を見据え、再び続けた。


「これは(よこしま)な考えかもしれませんが…お父様とお母様の(かたき)を討てるという期待もありますわ」

「仇…」

「えぇ。両親を殺したのがどんな魔物なのかも分かりませんが…それでも、魔物を討てる。そんな喜びも、ワタクシの中にあるのです」

「…」

「シェリルは怖いんですのね」


 黙り込んだシェリルに、今度はリリニシアが聞き返した。


「…」

「無理もありません。グラウム様も言っていた通り…敗れれば殺されるのですから」

「…それだけじゃないんです」

「…というと?」

「相手は魔物だって分かってても…やらなきゃやられるって分かってても…!」


 一息吸い、涙と共に言葉を絞り出した。


「殺すのが怖いんです…!」

「…」

「私が“何か”の命を終わらせるのが…どうしようもなく…!うっ…うぅ…!」

「シェリルさん…」


 リリニシアは、二人が継いだ剣と盾が逆であればと、残酷な運命を呪った。

 “慣れるしかない”なんて、軽はずみには言えない。

 啜り泣く声は、遅くまで止まなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。

温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は3月24日20時にXでの先行公開を、3月25日20時に本公開を行う予定です。

週一ペースへの移行となりますが、今後もお付き合いいただけますと幸いです。


~次回予告~

“殺したくない”というシェリルの本心に触れたリリニシア。

翌朝、シェリルが魔物との戦いでの失態を詫び、目的を完遂することを誓うと、リリニシアは何かに気付いたようで、二人に改めて旅の目的を問う。


次回「勇者一行の国境越え」

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